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リンドブルム☆アイズ  作者: 粟吹一夢
Episode−01 惑星ヨトゥーンのラグナロク
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Scene:07 フェーデ教会(1)

 シャミル達一行は、その後は順調に旅を続け、予定どおり、三日後には、ヴィーグリードの街に着いた。

 ヴィーグリードはケムルよりも格段に大きな都会であった。

 街の広場ではバザーが開かれ、いろんな商品が売られており、多くの人で賑わっていた。

 ハルダン爺さんが、広場の近くで馬車を停めると、シャミル達は馬車から降りた。

わしもここで明日から三日間ほど店を開く許可を取っておる。今日からは息子のところに泊まらせてもらうつもりじゃ」

「ハルダンお爺様、本当にお世話になりました。ありがとうございました」

「いや、いや、わしの方こそ、あんたらと一緒に旅ができて楽しかったよ。……息子とは会ってみないかね?」

「申し訳ありません。私達もそれほど時間が無いものですから……」

「そうか。……それではの」

「はい、さようなら。お爺様もどうかお元気で」

 シャミルの本心から発せられた言葉とその笑顔に、ハルダン爺さんも別れがつらくなったようだ。

「シャミルさん達も達者でな」

 ちょっと涙目になりながらも、ハルダン爺さんは精一杯の笑顔で三人を見送ってくれた。


 ハルダン爺さんと別れた三人は、フェーデ教会の総本山と言われるヴィーグリード大聖堂に向かって歩いて行った。街の中心に高くそびえる大聖堂の鐘楼しょうろうは街のどこにいても見ることができた。

 大聖堂の前にある広場には多くのヨトゥーンの人達がたむろしており、また、大聖堂の出入り口の大きな扉は左右に広く開かれており、ヨトゥーンの人達が自由に出入りしていた。

「中に入ってみましょう」

 シャミル達が誰に止められることなく大聖堂の中に入ると、中はベンチのような木製の椅子が並んでいる広い礼拝の間で、正面には豪華な祭壇が設置されていた。すべてが祭壇の方に向いて並べられている木製の椅子には、既に多くのヨトゥーンの人々が座っており、空席で残っているのはほんのわずかであった。

 シャミル達は、ちょうど、三人が座れるスペースがいていた、前から六列目の椅子に並んで座った。

 シャミルは右隣に座っていた婦人に微笑みながら話し掛けた。

「こんにちは」

「はい、こんにちは」

 人の良さそうな婦人も笑顔でシャミルに挨拶を返した。

「今日は何かあるのですか?」

「えっ、……何も知らずに、ここに来ているのかい?」

 シャミルは、また北の街から来たことを説明すると、婦人はすっかりと信じてしまったようだった。

「そうかい。午後二時から、教祖様の有り難い説教があるんだよ」

「教祖様?」

「ああ、フェーデの神様の代理人で、奇跡を幾つも起こしているんだよ」

 シャミルが更に詳しく話を訊こうとしたが、鐘楼しょうろうの鐘が鳴り響くとともに、パイプオルガンの音色に似た荘厳そうごんな音楽がどこからとなく響いてくると、婦人は手を胸の前で組んで目を閉じ、頭をれた。

 シャミルも同じように頭をれたが、上目遣いに祭壇を見つめていると、聖職者らしき服装をまとった約二十人の男達が祭壇の後ろにあるドアから出て来て、祭壇の左右に別れて整然と並んだ。そして、最後に出てきた一段ときらびやかな服をまとった聖職者の男が、祭壇の真ん中に設置されている演台の前におごそかに立った。

 シャミルは、顔を上げて演台の人物に注目していた隣の婦人に小さな声で訊いた。

「あの方は?」

「教祖様だよ」

 その名を呼ぶのも恐れ多いように、声を震わせながら婦人は答えた。

 教祖は会場を見渡した後、おごそかに話し始めた。

「皆の者、神はセイズを欲している。まだまだセイズが足りないとおおせである。神がこの世に降り立つためには、もっとセイズを神にそなえる必要がある。セイズの栽培にはげまれよ」

 シャミルは、上目遣いに教祖の顔をじっと見ていた。あの顔はどこかで見たことがあると感じていたからだ。

 即座にIQ三百のシャミルの頭脳がフル稼働しだした。そして、シャミルの広大な記憶領域にある一つの引き出しから、ある男のデータが検索された。シャミルの頭の中で、一連の出来事が環のようにつながった。

 教祖は、十分ほど説教をすると降壇こうだんして、両脇に控えていた聖職者とともに、出て来た時と同じ、祭壇の後ろの扉から出て行った。

 閉じられた扉の両脇には、やりを持った若い男性二人が門番のように立った。

 礼拝の間に詰めかけていたヨトゥーンの人々も立ち上がり、全員が出口に向かった。誰もが教祖様の有り難い言葉をじかに聞けたことを喜んでいるように、晴れ晴れとした笑顔だった。

 シャミル達も立ち上がり、出口に向かった。

「さっきの教祖様のお話は、エシル教の説教と一言一句いちごんいっく同じところがあって、それ以外の箇所かしょはセイズ栽培の促進そくしんを働きかけているだけで、まるで農業商会の会長の挨拶みたいでしたね」

「まったくだよ。あんな説教に感動するなんて、ヨトゥーンの人達もどれだけお人好しなんだか」

 カーラも少しあきれた様子だった。

 シャミル達が大聖堂の外に出ると、その前の広場は、相変わらず多くの人で賑わっていた。

 三人の側を荷馬車が通り過ぎた。荷台のほろ隙間すきまからセイズが山積みされていることが確認できた。荷馬車は大聖堂の裏口に向かって走り去って行った。

「セイズですね。あんなに沢山たくさんのセイズをどうするのでしょう?」

 シャミルは独り言のようにつぶやくと、大聖堂の裏口に向かって歩き出した。

 カーラとサーニャもシャミルの後に続き、大聖堂の裏口に行ってみると、そこには、大聖堂と繋がって建設されているのきが低い大きな建物があったが、その建物は、材質や建築様式が明らかにヨトゥーンのものと違っていた。

 そして、その建物の横には、そのまわりをさくで囲まれた牧場を思わせるような広大な空き地が広がっていたが、家畜が飼われているようでもなかった。

 ヴィーグリードでは、広場以外では建物が密集して建っているにもかかわらず、この空き地が何のためにわざわざ空き地のままにされているのか不明であった。

 シャミルが近くにいたヨトゥーンの人にその建物のことを訊くと、神様の食料を作っている施設であるとのことであった。

「しかし、それにしては馬鹿でかい建物だね。フェーデの神様は大食いなのかねえ?」

 シャミルも疑問に思った。神へのお供えを作るには大規模すぎる。また、建物のところどころから出ている煙突からも、水蒸気のようなもくもくとした白い煙が出ており、まるで何かの工場のようだった。

 シャミル達が、その建物のまわりりをしばらく歩き回っていると、シャミル達が立っている場所が急に陰となった。その陰は見る見る大きくなって、あたり一面が雲に覆われたように、やや薄暗くなった。

 シャミル達が空を仰ぎ見ると、綺麗に晴れた空の太陽の光をさえぎりながら、巨大な宇宙船が降下してきているのが見えた。

 宇宙船はどんどん高度を下げて、工場の隣の空き地に降り立った。どうやら広大な空き地は、その宇宙船を着陸させるためのスペースだったようだ。

「あれは?」

「軍の輸送船のようですね」

 カーラの問いにシャミルが即座そくざに答えた。


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