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リンドブルム☆アイズ  作者: 粟吹一夢
Episode-10 銀河を継ぐ者
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Scene:09 復讐

 シャミルとの面談を終えたヒューロキンは、その日のうちに、探検家ギルドの掲示板に、お礼と次にまた会う約束をしたいとの、シャミル宛てのメッセージを入れた。

 そして、開拓特需で沸く惑星ビュグビル空域に集まっていた海賊を次々と討伐して多額の賞金を手に入れた後、ヒューロキンは惑星ビュグビルを後にした。

 マーガナルム号艦橋の船長席にふんぞり返って座っていたヒューロキンが少しうたた寝をしていると、突然、警報が鳴り、ヒューロキンもびくついて目を覚ました。

「何だ?」

 良い気持ちでいたところを起こされたヒューロキンは不機嫌そうに訊いた。

「船籍不明の船が当船に急速接近中!」

「海賊か?」

 砲台を隠している状態のマーガナルム号は商船にしか見えないことから、それに向かって来る不審船は海賊船である場合が多かった。

「海賊船にすれば、図体がでかい気がしやす」

「ああん? モニター限界はまだか?」

「すぐです」

 その言葉どおり、すぐに艦橋モニターにこちらに向かって来る真っ黒な宇宙船が映し出された。流線型であるが、かなりの大型船で、船体に多くのレーザー砲を装備しているのが分かった。

「何だ、あの船は?」

 連邦軍艦船以外の武装船としては、ヒューロキンも初めて見る大きさの船であった。

「〇三-九〇-〇七に反転! 全速で逃げるぞ!」

 目視できる限りでの武装規模で勝ち目が無いと判断したヒューロキンは直ちに逃亡を決めた。

 勝てる敵とだけ戦い、少しでも勝てない可能性があれば、迷うことなく逃げるという、冷静で正しい判断をすることで、ヒューロキンは生き延びてきたのだ。

 一見、卑怯者のような気がするが、乗組員の生命を預かる船長としては正しい判断であった。

 反転して全速力で逃げ出したマーガナルム号であったが、追って来る黒い不審船はどんどんと距離を縮めてきていた。

「逃げ切れません!」

「砲台を出せ!」

 商船ではなく、実は戦闘艦だと見せつければ、戦闘装備で勝っているとしても、戦うと相当な被害を被ることを恐れて諦めてくれると判断したが、不審船は追跡を止めることはなかった。それどころか、不審船からレーザー砲撃され、マーガナルム号の船体をかすめた。

 こうなると、敵に背を向けている方が不利になる。

「面舵いっぱい! こちらも砲撃準備!」

 マーガナルム号も不審船と相対すると、一斉にレーザー砲撃を始めた。

 マーガナルム号のレーザー砲撃もかなり強力なものだが、不審船は神懸かり的な舵さばきを見せて、レーザービームの直撃を避けていた。

 一方、不審船の砲撃は、正確にマーガナルム号にダメージを与え続け、ついには不審船から放たれたレーザービームにマーガナルム号の動力部分を打ち抜かれ、マーガナルム号は航行不能になってしまった。

 不審船はゆっくりとマーガナルム号に近づいて来て接舷をしようとした。

「くそっ! こうなりゃ、白兵戦で叩くぞ! 切って切って切りまくって、逆にあの船を乗っ取ってやれ!」

 エキュ・クレールを身に付けているヒューロキンは、白兵戦で勝率十割を誇っており、絶対的な自信を持っていた。

 しかし、それは獲物の海賊船を撃沈させ、自らが乗り込んでいった時のことで、いずれにしろ勝てる相手としかしていなかったことに気づいてなかった。

 マーガナルム号の搭乗ゲートに付けられた乗り込みチューブを通って、海賊の一団がマーガナルム号に乗り込んで来た。



 搭乗ゲートの内側ドアが開くと、待ちきれなかったかのように、ファルアが飛び出した。

 ドアの内側には、ヒューロキンの部下が待ち構えていて、ドアが開くとともにファルアに襲い掛かったが、ファルアが棍棒を一振りすると、ヒューロキンの部下達は全員が叩き飛ばされてしまった。

「お見通しだっての!」

 その後、二十名ほどの兵士を引き連れて、メルザがアズミとともにマーガナルム号船内にゆっくりと入って来た。

「アズミ! ファルア!」

「はい!」

「二人で艦橋に行き、船長をここまで連れて来な」

「分かりました!」

 メルザと兵士達を残し、アズミとファルアは艦橋に向かった。

 途中、廊下の曲がり角などでは、必ずと言って良いほどヒューロキンの部下が待ち伏せしていたが、アズミとファルアにとっては、何ほどのことも無かった。

 艦橋へのドアの前まで来ると、他の者よりも豪華な服を着た背の高い男が三十人ほどの兵士を従えて立っていた。

「あなたが船長ですか?」

「わざわざ出迎えてくれるなんて殊勝な心掛けじゃねえか」

 左の二の腕に青く光る石がはめ込まれた腕輪をしている男に、アズミとファルアが迫った。

「ふんっ! 狭い艦橋よりは、ここの方が剣を振りやすいからな」

「ははっ! その剣を振ることはできるのかい?」

「よく吠える犬だ。ごちゃごちゃ言ってないで掛かって来い!」

「ファルア、気を付けなさい」

 ヒューロキンの自信満々の態度に、アズミも少し不安になったのか、ファルアに注意した。

「心配するなって。剣の腕は体を見れば分かる。こいつの剣の腕は大したことねえよ」

「それはそうですが……」

 ファルアはアズミの心配をよそにヒューロキンに近づいて行った。

「お前はメルザ様の元に連れていかなくちゃならねえんだ。だから手加減はしてやるよ」

 その言葉が終わらないうちに、ファルアの棍棒がヒューロキンの足を直撃した。

 しかし、ファルアの棍棒は、ヒューロキンの体に届く前に青い火花がとともに跳ね返されてしまった。まるでヒューロキンは全身に青い光の鎧をまとっているようであった。

「な、何だ?」

 呆気あっけに取られてすきができたファルアを目掛けて、ヒューロキンの剣が振り下ろされたが、その剣は、いつの間にかファルアの側に来ていたアズミの鎌により止められ、アズミはそのまま鎌をヒューロキンの剣に押し付けながらつばぜりあった。

「ファルア! 何、ぼんやりしてるんです!」

 アズミの叱咤で我に返ったファルアは、少し横にずれて、アズミと押し合っているヒューロキンの脇腹を棍棒で突いた。

 しかし、同じようにファルアの棍棒は弾き飛ばされてしまった。

 ファルアが少し後ろに下がり間合いを取ると、アズミも鎌を払って、ファルアの位置まで下がった。

「どうした? もうお終いか?」

 ヒューロキンが余裕めいた表情で言った。

「てめえ! いったい何をどうしてるんだ?」

 ファルアが吠えた。

「お前達は俺に勝つことができないのさ」

「何だと!」

 今度は、アズミとファルアが二人掛かりでヒューロキンに襲い掛かったが、ヒューロキンの体を傷付けることはできなかった。

「ふははははっ! 無駄だ!」

 また間合いを取ったアズミとファルアは、既に息が切れていた。

「それっ! こいつらを討ち取れ!」

 ヒューロキンがその周りにいた兵士達に命じると、一斉にアズミとファルアに襲い掛かった。

 普段のアズミとファルアであれば、これだけの数の兵士であれば難なく勝てるはずであるが、メルザに命じられた船長の捕獲もできずに精神的に落ち込んでいたのか、大勢の兵士に一斉攻撃をされて、次第に追い込まれてきていた。

 ファルアの背後に回り込んだヒューロキンの兵士が、ファルアの背中に切りつけようとしたが、兵士は、更にその背後から背中を切られ、短い悲鳴を残して倒れた。

「メルザ様!」

 そこには、メルザが湾曲した剣を抜き、立っていた。

「情けないね、お前達」

「す、すみません!」

「あいつにはオレたちの武器が届かないんです!」

 ファルアがヒューロキンを指差して言った。

 メルザは、ゆっくりとヒューロキンの前に立った。

「久しぶりだね。ヒューロキン」

「貴様は?」

女狼めろうさ」

「メルザ・シグルッドか? ふんっ、高額賞金が掛かったお尋ね者がのこのこと出て来おったか!」

「ああ、私を討ち取れば、あんたは一生優雅に暮らせるだろうね。だが、あんたに私を討ち取ることができるのかい?」

「少なくとも俺はお前に負けないぞ。お前の剣は、俺を傷付けることができないんだからな」

 メルザは、ヒューロキンが愛おしそうに撫でた腕輪を険しい顔で見つめた。

「その腕輪は私の大事な人の形見なんだよ。返しておくれよ」

「今は俺の物だ。ああ、そうですかと返すものか!」

「ならば、力尽くで奪うしかないね」

「できるものならやってみろ!」

「アズミ! ファルア! 雑魚はお前達に任せたよ!」

「お任せください、メルザ様!」

 息を吹き返したアズミとファルアがヒューロキンの兵士達を相手に剣を打ちこんで行くと、メルザは一人ヒューロキンの前に立った。

「この時を待っていたよ」

 メルザは、目にも止まらぬ速さで、ヒューロキンに剣を打ち込んだ。

 メルザの剣もヒューロキンの体に届かず跳ね返されたが、ヒューロキンも後ろ向きに跳ね飛ばされ、廊下の壁に背中を打ち付けた。

「エキュ・クレールはね、剣や槍による攻撃を防ぎ、その攻撃の衝撃も少しは吸収してくれるけど、大きな衝撃までは防いでくれないんだよ」

 壁を背に尻餅をつくように座り込んでいるヒューロキンは、メルザの容姿からは想像できないほどの怪力に言葉を失い、目を見開いて、メルザを見つめることしかできなかった。

 メルザは、さげすむ目でヒューロキンを見下ろしながら、ゆっくりとヒューロキンに近づいた。

「あんたは、宇宙空間に投げ出されたあの人の腕を切り取り、エキュ・クレールを抜き取って、自分の懐に入れた。違うかい?」

「この腕輪が漂っていたのを回収しただけだ」

「ふんっ! この期に及んで、まだ嘘を吐くのかい?」

 その頃には、ヒューロキンの兵士の全員が、アズミとファルアに討ち取られてしまっていた。

 メルザは、すばやく辺りを見渡してから、ヒューロキンに剣を突き付けた。

「どうするつもりだい? あんた一人生き残ったとして、動かないこの船の中で孤独な人生を終えるつもりかい?」

「……」

「そんなの辛いだろう? いっそのこと楽にしてあげるよ。エキュ・クレールをはずしな」

「断る!」

「そうかい。ならば、あの人と同じように死ぬが良いさ。あの人が味わった苦しみを、あんたにも味あわせてあげるよ」

 そう言うと、メルザは回れ右をした。

「アズミ! ファルア! 帰るよ!」

 メルザは副官を引き連れて、搭乗ゲートに向けて引き返し、そのままフェンリスヴォルフ号に戻った。



 一人残されたヒューロキンは、すぐに艦橋に入り、ヴァルプニール通信機を使って、非常信号を発した。これで、近くを航行中の船か、連邦宇宙軍の艦船が駆けつけて来てくれるはずだ。

 マーガナルム号は航行不能となり、配下も皆殺しにされるという甚大な被害を被ったヒューロキンであったが、エキュ・クレールも手元に残っており、これまでに貯めた賞金で再起は可能であると楽観的に考えていた。

「くそっ! 女狼めろうめ! 必ず討ち取ってくれる!」

 先ほどまでの出来事を思い出し、歯ぎしりをしていたヒューロキンであったが、ふと、メルザの言葉が思い出された。

『あの人と同じように死ぬが良い』

 命拾いをしたとのんびり構えていたヒューロキンは、急いで艦橋から出ようとした。

 しかし、既に遅かった。

 フェンリスヴォルフ号から発射されたレーザービームの一斉直撃を受けたマーガナルム号の艦橋は外壁を破られ、中にいたヒューロキンは宇宙空間に放り出されてしまった。

 宇宙服を着用せずに宇宙空間に放り出されたヒューロキンの死骸にフェンリスヴォルフ号がゆっくりと近づいて行った。

 

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