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リンドブルム☆アイズ  作者: 粟吹一夢
Episode-10 銀河を継ぐ者
218/234

Scene:08 残酷な運命

 次の日。

 シャミルとキャミルは、惑星内定期便でバルハラに飛んだ。

 約三か月ぶりに訪れたバルハラの街は、相変わらず人通りが少なくて寂しい雰囲気であった。

 前回も訪れたコーヒーショップが今日も営業していた。

 中に入ると、店主は美人姉妹の二人を憶えていたようだ。

「いらっしゃい。また里帰りかい?」

「はい。美味おいしいコーヒーを二つお願いします」

「うちは美味おいしいコーヒーしかねえよ」

「ふふふふ」

 その人見知りをしないキャラと屈託のない笑顔で、すぐに人との距離を縮めるシャミルであった。

 店内に芳醇なコーヒーの香りが漂ってくると間もなく、二人のテーブルにコーヒーが運ばれてきた。

「本当に美味おいしそうです」

「だから、美味うまいんだよ」

「ふふふ」

 シャミルは、ブラックのままコーヒーを一口飲んだ。

「うん! 本当に美味おいしいです!」

「だろ?」

「マスター」

 カウンターに戻ろうとした店主は、シャミルに呼ばれて立ち止まると、にこやかな顔で二人を見下ろした。

「何だい?」

「唐突で申し訳ないですけど、この辺りには『シグルッド』というファミリーネームのお家はありますか?」

「ああ、珍しくはないぜ」

「私達の父親が、シグルッド家の方とおつき合いをしていたという噂は聞いたことないですか?」

「いや、俺も誰が誰とつき合っていたなんてことまでは知らねえな。それにもう、ジョセフがこの街から出て行って二十年以上経っているからなあ」

「そうですよね」

 店主がカウンターの中に戻ると、二人はゆっくりとコーヒーを味わった。

 店には、女性ボーカルのポップな音楽がBGMとして流れていた。

 しばらくその曲を聴いていたシャミルは、自然とそのメロディを鼻歌でなぞっていた。

「キャミル、この曲、聴いたことないですか?」

「う~ん。どうだろう? でも、どこか懐かしい感じがするから、聴いているのかもしれないな」

 必ずしも美声とは言えないが、癖になりような少しけだるい声は、シャミルとキャミルの耳を幸福にしてくれた。

「マスター」

 カウンターの中でコップを磨いていたマスターが顔を上げて、シャミルを見た。

「この曲は何と言うタイトルですか?」

「ああ、あんたらの歳じゃ知らなくて当然だな。この曲は『銀河恋唄』と言う曲だよ」

「タイトルは聴いたことがあるような気がします」

「何て言ったって、未だに記録を塗り替えられていないほどのビッグヒットで、その昔、ヒットチャートで八週連続トップだった曲だからね」

「歌っている方は確か、ジゼルさんという方ですよね?」

 キャミルの広大な記憶領域には、時空を遡ってバルハラに来た時に、タクシードライバーから聞いた情報がきっちりと収められていた。

「ああ、そうだ。よく知っているな」

「あ、あの、名前だけですけど」

「そう言えば、彼女の本名もシグルッドだったな。確か、……エルザ・シグルッドと言っていたかな」

「本名を知っているなんて、マスターもひょっとして、ジゼルさんのファンだったんですか?」

「まあ、歌は好きだったけどな。ジゼルは、と言うよりエルザはここの生まれなんだよ」

「そうなんですか?」

「ああ、世間的にはデビューする前の経歴を秘密にしていたが、ここ地元では公然の秘密みたいなもんだったからな」

「どうして経歴を秘密にしていたのでしょう?」

「子供がいたからじゃないかな」

「子供?」

「ああ、十八か十九歳の頃、いわゆる未婚の母になったんだ。確か、女の子だったはずだ。小さな街だから、みんなに知れ渡ってしまい、この街に居づらくなったのか、子供を連れて街を出て行ったよ」

「どこに行かれたんでしょう?」

「さあな。でも、それから数年後にジゼルがデビューしたんだが、この街のもんはジゼルが街の酒場で歌っていたエルザだとすぐに分かったよ」

「エルザさんの女の子は?」

「ジゼルに子供がいるという報道はなかったから、たぶん一緒に住んでなかったんだろう」

「キャミル。もしかすると」

「ああ、年齢的にはおかしくないな」

 キャミルと小声で話した後、シャミルは、再び、マスターに尋ねた。

「その女の子の父親は分からなかったんですか?」

「エルザも何も言わなかったからな」

「あ、あの自分達の父親がひょっとして?」

「何だ、父親を疑っているのかい?」

「い、いえ。でも、私達の父親とエルザさんは顔見知りではなかったのでしょうか?」

「そりゃあ、知ってたんじゃないか。ジョセフとエルザは高校の同級生だったはずだ。どうしてかって言うと、ここには高校は一つしかないからな」

 ジョセフとエルザは顔見知りだった可能性が高い。そうすると、やはりエルザが産んだという女の子はメルザの可能性があり、そして、その父親はジョセフということになる。

「まあ、エルザというか、ジゼルも二十年前に死んでしまったからな。真相は闇の中だ」

 マスターがコップを磨きながら話を続けた。

「そう言えば、ガンドールという海賊に襲われて亡くなられたんですよね?」

「ああ、そうだったな。芸能界を引退して、連邦屈指の大富豪と結婚して、跡取りの息子も生まれて、順風満帆な人生だったのにな」

「確か、息子さんが落ち延びたけど行方不明になっていたはずですが?」

「あんたら、若いのによく知っているな。最近、また、ジゼルが流行はやってるのか?」

「そ、そうなんです。私達の中のマイブームなんです」

「へえ~。まあ、流行は繰り返すって言うからなあ。確かに、ジゼルが乗っていた宇宙クルーザーの救命艇が無かったから、ジゼルの息子はそれに乗って脱出したんじゃないかって考えられたが、結局、見つからなかったな。一年後くらいに救命艇はテラの森で見つかったようだが」

「救命艇がテラで?」

「ああ、中は空っぽだったそうだぜ」

「……その息子さんの名前は何と言うのですか?」

「そこまでは知らねえや」

「そうですか。ありがとうございました」

 シャミルはマスターに礼を述べると、自分の情報端末を操作しだした。

「どうしたんだ、シャミル? 何か手掛かりがあったのか?」

「ちょっと気になって。……今、私が登録しているニュースサイトで過去のニュースを検索しているのですけど、……ありました!」

 シャミルは、見つけたページをキャミルの情報端末に転送した。

 自分の情報端末を見たキャミルは、しばらく言葉を発することができなかった。

 シャミルは改めて情報端末の画面を見つめた。

『銀河暦三百三十四年六月十九日配信記事―十八日午後十時頃、テラ上空を航海中のクルーザーが海賊ガンドールの襲撃を受け、乗員乗客二十四名が死亡した。死亡したのは、テラに本店を置くトルガー商会の当主ハロルド・トルガー氏(四十五歳)とその妻でジゼルという芸名で一世を風靡した元歌手エルザ・トルガー氏(二十八歳)、そしてそのスタッフ二十二名。なお、同行していた夫妻の子息ハシム・トルガーちゃん(四歳)が救命艇で脱出したものと思われるが行方が掴めていない―』

「ハシム……だと」

「まさか?」

 二人は顔を見つめ合った。

「ハシムは、テラの森を彷徨さまよっていたところを保護されたと言っていた」

「はい。首には『ハシム』と名が入ったペンダントを着け、『ファサド』というネームが入った背広を羽織っていたと言ってました」

「ハシムという名が本来の名前である可能性が高い。すると、この行方不明の子供が?」

「あくまで、まだ推測の域を出ないですけど、事実を積み重ねていくと、メルザさんは、私達の父親ジョセフ・パレ・クルスとジゼルことエルザ・シグルッドさんの娘。その後、トルガー氏と結婚したエルザさんが生んだのが、ハシム殿。つまり、メルザさんは私達の異母姉で、メルザさんとハシム殿は異父姉弟と言うことになりますね」

「そ、そんなことがあるのか?」

「これが本当だとしたら、すごく不思議ですけど、でも、……残酷な運命です」


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