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リンドブルム☆アイズ  作者: 粟吹一夢
Episode-10 銀河を継ぐ者
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Scene:07 テラでの家

 シャミルとキャミルは、テラ自由国臨時政庁から出ると、惑星内定期便でパリ地区に飛び、シャミルの実家に向かった。

 ずっと尾行の影を感じていたが、テラから外に出ることができない状況で尾行から逃れることもできないと考え、特に対処をすることはなかった。

 シモンズ骨董店がある大通りに行くと、車線を一つ塞ぐように三台の戦車が駐まっている他には、街の様子もいつもどおりで、シモンズ骨董店も通常どおり営業していた。

 店に入ると、客はおらず、カウンターに母親が立っていた。

「シャミル!」

 笑顔になった母親はカウンターから走り寄り、シャミルを抱きしめた。

「ひょっとして、もう会えないかもと思っていたのに、こんなに早く会えるなんて」

 少し鼻声になった母親の腕の中で、シャミルは意外にも気丈に振る舞えた。

「母上、ただいま帰りました」

 母親は体を離してシャミルの顔を見た。

「おかえりなさい」

 そして、母親は少し後ろで嬉しそうであり、羨ましそうでもある顔をしていたキャミルに近づいて行った。

「キャミルさんもおかえりなさい」

「えっ?」

 驚いたキャミルに母親は優しく微笑んだ。

「ここは、もうテラにおけるあなたの家ですよ。ねえ、シャミル?」

「はい!」

 シャミルもニコニコとキャミルを見つめると、キャミルも少し照れたように頬を染めた。

「た、ただいま帰りました」

「はい」

 母親は、すぐに店を閉めて、二人を自宅の応接間に案内した。

 マリアンヌが淹れてくれた暖かい紅茶で、テラに来て以来ずっと緊張していたシャミルとキャミルの心の糸が少し緩んだ。

「二人は、いつまでテラにいることができるの?」

「と言うかですね、母上。いつ、テラから出られるか分からないんです」

「……そう。キャミルさんも?」

「はい」

「詳しい事情は訊かないことにするわ。とりあえず、ここにずっといて良いのでしょう?」

「はい。でも、母上。せっかくだから行ってみたい所もあるのです」

「どこに?」

「バルハラです」

「それは、今回のことと関係があるのですね?」

「はい」

 シャミルが、ただの観光で、バルハラくんだりにまで行くはずがないということを知っているマリアンヌも察しが付いたようだ。

「ところで、母上。母上は父上を信じていますか?」

「何ですか? 藪から棒に」

「父上は、キャミルにもキャミルの母上にも、私にも母上にも同じように愛情を降り注いでくれたと信じてますか?」

「……ええ。信じていますよ」

 母親の言葉を聞いて、シャミルはキャミルの気持ちをうかがうように顔を見た。

 キャミルは黙ってうなづいた。

「母上。実はですね」

「何かしら?」

「実は、私達にお姉さんがいることが分かりました」

「そう。その人は今どこに?」

 シャミルが思っていたとおり、マリアンヌはそれほど驚かなかった。

「えっと、……ちょっと事情があって、すぐに紹介はできないのです。年齢も正確には分からないのですけど、おそらく二十五歳は超えているかと」

「もし、その人が二十五歳だとすれば、父上が十九歳の頃の子供になるわね」

 今日現在、シャミルとキャミルは十七歳で、ともにジョセフが二十八歳の時の子供であった。つまり、時空を遡って会ったジョセフは二十八歳の青年だったということだ。

「大学生の時に子供ができたのね。母親は知っているかた?」

「そ、それがまったく」

「あなた方のお姉さんの名前は何と言うの?」

 自分達の姉が海賊をしているとは、さすがに言えなかったが、名前まで言わないのは、さすがにおかしかった。母親が海賊の名前などに詳しくないことに掛けてみた。

「メルザ・シグルッドと言います」

「メルザさん……」

 母親の反応からすると、どうやら海賊メルザのことは知らないようだ。

「きっと、シグルッドというのが、お母様のファミリーネームなのでしょうね」

「母上、そのファミリーネームに何か心当たりがあるのですか?」

「いいえ、でもこの周辺、つまり、ヨーロッパ地区にありがちなファミリーネームな気がします」

「どうしてそう思うんですか?」

「女の勘かしらね」

 母親は屈託無く笑ったが、同じ男が愛した女性に何かしらの縁を感じたのかもしれなかった。

「でも、メルザさんは孤児院に入っていたみたいなんです」

「そうなの? 父上が十九歳の時に子供ができているとすると、二人が出会ったのは、もっと前ですよね。父上が大学に入る前に出会っていたとすると、もしかすると、そのかたの母親は父上の幼馴染みかもしれませんね」

「シャミル! バルハラで聞き込みをすれば、もしかしたらメルザのことも分かるかもしれないぞ!」

「そうですね。すぐにでもバルハラに行きたいですけど、今日はもう無理ですね」

 時刻は夕刻で既に窓の外は暗かった。

「今日はここで泊まっていきなさい。キャミルさんも」

「わ、私は……」

 おいとましますと言い掛けてキャミルは、アルスヴィッドで来ている訳ではなく、ホテルに泊まるしかないことを思いだした。

「キャミル。さっき母上も言いましたよ、ここがテラでのキャミルの家ですよ」

 母親もニコニコと笑いながらキャミルを見ていた。

「そうだったな。それではお世話になります」

「母上! 久しぶりに母上の手料理が食べたいです」

「まあ、急に甘えん坊さんになって」

「キャミルにも食べさせてあげたいんです!」

「はいはい。分かりました」

「私も手伝います。料理はそんなに上手くはないですが」

「そうですね! みんな一緒にしましょう! その方が楽しいし、早くできますよね!」

 

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