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リンドブルム☆アイズ  作者: 粟吹一夢
Episode-10 銀河を継ぐ者
216/234

Scene:06 テラ虜囚

 シャミルがレンドル大佐との会談を終えた二時間後。

 アルヴァック号の隣に巨大なアルスヴィッドが降り立った。

 そして、アルスヴィッドからキャミルが、アルヴァック号からはシャミルが一人で出てくると、少し離れた場所に停泊していた惑星軍の小型輸送艦に向けて並んで歩き出した。

「キャミル、巻き込んでしまってごめんなさい」

「何を言っているんだ。私は嬉しかったぞ」

「……ありがとう、キャミル」

 戦艦アルスヴィッドがテラに入れる訳も無く、また、高速航行が可能なアルヴァック号もテラからの脱出に利用されるおそれがあるとして認めてもらえず、テラ自由国が用意した惑星軍の小型輸送船で二人はテラに入ることになっていた。

「キャミル」

 シャミルがその輸送船を見つめながら、キャミルに話し掛けた。

「もう二度とテラから出られないかもしれませんよ」

「覚悟の上だ。それに、シャミルが一緒だと寂しくはない」

「……キャミルが姉妹で良かった」

「私もだよ」

 小型輸送船の搭乗ゲートには、武装した兵士が両脇に立って、二人を船内に誘っていた。

「テラでは、何らかの謀略が待っているはずだ。レンドル大佐は、信用はできないが、ある意味、正直者だからな」

「正直者ですか?」

「後になって『そんなことは言わなかった』とは言わないということだ」

「レンドルさんが聞いたら喜びますよ」

「裏を返せば、あやふやなことしか言っていないということだよ」

「ふふふふふ、確かにそうですね」

 二人は、輸送船の搭乗ゲートから船内に入って行った。



 惑星セリヌを飛び立った小型輸送艦は、あっという間にテラに着き、その宇宙港に着陸した。

 宇宙港には、惑星軍の兵士がびっしりと並んでおり、対空砲も数多く配置されていて、ここがクーデターにより掌握されているということを如実に現していた。

 シャミルとキャミルは、待機していたエアカーに乗り込むと、テラ共和国政府の執政官府に連れて行かれた。ここは今、テラ自由国の臨時政庁となっていた。

 執政官の執務室に入ると、ハウグスポリ少将が執務机に座っていた。

 シャミルとキャミルを応接セットに案内すると、ハウグスポリ少将もその正面に座った。

「アスガルド以来ですな」

「つい、この前です」

「そうですな」

「あのアスガルドの基地はフェイクだったのですか?」

「いやいや、ちゃんと基地として役立つだけの性能はありましたよ。お二人も確認済みでしょう?」

「ええ、だからこそ、そこを拠点にアスガルドを制圧するつもりではないかと思ってしまったんです。私達だけではなく、連邦軍の上層部もそうだと思います」

「蜂起をどこでするかについて、私は一言も話したつもりはありませんよ。あなた方が勝手にそう解釈しただけではないのですかな?」

「確かにそうですね。それで」

 シャミルは姿勢を正して座り直し、ハウグスポリ少将を見つめた。

「私がテラに入国する対価は、あなたと面談することだと、情報部のレンドルさんから聞いて、ここにやって来ました。今、ハウグスポリさんにお会いしていることで対価は支払ったことになるのでしょうか?」

「はい。十分です。でも、せっかくいらっしゃったのだ。少し話もさせてください」

「以前に伺った話でしょうか?」

「そうです。実際に、我々はテラを連邦から独立させました。しかし、このテラは、今、すこぶる平穏です。なぜか分かりますか?」

「……」

「テラの市民たるテラ族が我々の主張に賛同してくれているからですよ。もちろん、我々が市民を洗脳している訳ではありませんから、様々な意見が出てくるのは当然のことであり、そう言った方々には速やかにテラからの退去を願っています」

「従来、連邦の中心であったのに、今はテラ族の故郷というだけの田舎の惑星に成り下がってしまったという不満を持っている方も少しはいらっしゃるでしょうね」

「少しですか?」

「ええ! 大多数のテラ市民は誰も、他のヒューマノイド種族の上に立って支配したいなどとは思っていないはずです。テラ市民が騒がないからといっても、それは、あなた方の主張に賛同しているからだとは限りません」

「私もそう思います。迫害されるのであればまだしも、誰しも平穏な生活が続くのであれば、無駄に抵抗したりしないでしょう。連邦との交渉を見守っているだけです」

 キャミルもシャミルに加勢した。

「厳しい見解ですなあ。まあ、ゆっくり検討いたしましょう。時間はたっぷりありますから」

「いくら考えても私達の考えは変わることはありません」

「そうですか」

 その時、ドアがノックされると、ハウグスポリ少将の返事を待たずに開かれた。

 入って来たのは、つい数時間前に会ったレンドル大佐であった。

「また、会いましたな」

「私達が乗った輸送船で一緒に来られたのですか?」

 ハウグスポリ少将の隣に座ったレンドル大佐に、キャミルが露骨に嫌そうな顔をした。

「ええ、そうです。あなた方はVIPですから、貴賓室を用意したのですが、私などは大部屋で雑魚寝をしながら来たのですよ」

「大佐殿」

 キャミルがさげすむような視線を浴びせた。

「あなたは本当にこちら側にも足を着けているのですね?」

「ええ、むしろ軸足はこちら側かもしれませんな」

「それで何をしに来られたのですか? 少将殿と一緒になって、シャミルを説得するつもりですか?」

「そうです。もっとも、私は、口下手なものですから、少将殿のように上手く説得できないと思います」

 レンドル大佐がうなづくと、部屋の壁の一部が上にスライドして、埋め込みタイプのスクリーンが現れた。

「だから、映像で納得していただこうと思いましてね」

 スクリーンが明るくなり、生中継と思われる映像が映し出された。

「こ、これは!」

 シャミルもキャミルも言葉を続けることができなかった。

 そこには、アルヴァック号の艦橋が、ちょうど前から船長席を見るように映っており、副官席に座ったカーラとサーニャがお互いを見ながら話をしているようだった。映像だけで音声は入ってなかったが、二人の表情からは冗談を言い合っているようではなく、シャミルの身を心配しているのではないかと思われた。

「いつの間にカメラを?」

「私がアルヴァック号にお邪魔した時、艦橋も見学させていただきました。攻略対象の周りに超小型カメラを取り付けるのは情報部職員として基礎中の基礎ですからなあ」

「……何を考えられているのですか、レンドルさん?」

「まあ、こうやって撮影しているということは、常にアルヴァック号の位置は把握されている訳です。軍がちょっかいを出そうと思えば、いつでもできるということですよ」

「……二人を人質に取ったと言うことですか?」

「これは言葉が悪いですなあ。シャミルさんも副官の顔を見られないと寂しいだろうと思い、いつでもご覧いただけるようにしてあげているだけですよ」

「大佐殿! あなたは連邦軍人として恥ずかしくないのですか!」

 キャミルが顔を真っ赤にして怒った。

 軍は連邦市民を守るべき存在で、いかに情報部所属であっても、いわば一般人であるカーラやサーニャの命を天秤に掛けて、シャミルとの交渉の取引材料に使おうとすることは許されるはずがない。

「キャミル少佐。私は初めからこんな人間ですよ。買いかぶりすぎていたのではないですかな?」

 レンドル大佐は、蛇のような目でキャミルをじろりと睨んだ。

「おのれ!」

 キャミルは立ち上がり、エペ・クレールを抜き、レンドル大佐に突き付けた。

「キャミル少佐。冷静になりたまえ」

 ハウグスポリ少将が座ったまま諭すように言った。

「あなたも同罪だ!」

「同じ穴のむじななのは否定しませんが、我々は何の罪も犯していません」

「連邦の体制崩壊を企てているではないですか! 立派な騒乱罪だ!」

「見解の相違ですよ。虐げられたる者を解放することは犯罪とは言いません」

「これは私達の問題のはずです! カーラとサーニャは関係ありません!」

 シャミルも立ち上がり、ハウグスポリ少将を睨んだ。

「あなたの副官をどうこうしようなどとは考えていませんよ。今のところはね」

「……」

「何も、今、この場で結論を出せだなんて言いません。じっくりお考えください」

「あなた方の要望を受けるまで、私達をテラから出されないつもりか?」

「あなた方にいつまでテラにいてもらうのか、それも今の段階では何とも言えませんな」

「それでは、これから私達をどうするつもりですか?」

「居場所を常に把握できるようにしていただければ、どこに行っていただいても結構です。テラの中だけですが」

「ずっと、テラに軟禁されるつもりか?」

「たまには、シャミルさんも実家でゆっくりされたらいかがかな?」

 心にも思ってないレンドル大佐の言葉が、シャミルとキャミルの気分を逆撫さかなでしたが、これ以上、言い争っても無駄だと思った二人は唇を噛みしめながら、ハウグスポリ少将とレンドル大佐を睨んだ。

 

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