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リンドブルム☆アイズ  作者: 粟吹一夢
Episode-10 銀河を継ぐ者
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Scene:05 テラ入国への対価

 ほどなく、キャミルに出航命令が下った。

 惑星テラ周辺における治安維持活動であった。

 連邦とテラ自由国側の政府間交渉が絶え間なく続けられていたが、テラ解放戦線に呼応した軍の一派が押し寄せて来るなどの不慮の衝突が起きないとは限らないからだ。

 先に飛び立って行ったアルスヴィッドを追うように、シャミルもテラ空域の隣の空域にある惑星セリヌに移動した。

 惑星セリヌには、テラに残している親族の安否を心配して、テラへの入国を申請し、その許可を待っている人々が大勢滞在していた。

 クーデターが発生して、まだ一週間しか経っていない現在、テラ自由国側は一切の入国を認めていなかった。

 一方で、テラ族以外の種族のテラからの出国は認められていた。その種族にとっては、これから起きるかもしれない、自分達に対する迫害から逃れるため、次々と惑星テラを後にしていた。これは治安の維持という意図の他に、惑星テラをテラ族だけが住む聖地とすることも狙っているように思えた。

 シャミルは、キャミルから連格があればすぐに行動を起こせるように、ホテルではなく、惑星セリヌの宇宙港に停泊させたアルヴァック号の中でずっと待機していた。

 そんなアルヴァック号の艦橋で着信音が鳴り響いた。

「船長! 惑星軍公式チャンネルから連絡が入っております」

「惑星軍から?」

 キャミルからの連絡かと思っていたシャミルは少なからず落胆をしたが、通信士にうなづいて通信回線を開かせた。

 アルヴァック号の艦橋モニターにレンドル大佐の顔が映った。

「惑星軍情報部所属レンドル大佐です。もう忘れられない名前になっていると思いますが、規則ですので名乗らせていただきました」

 レンドル大佐は、いつもどおり、ニタニタと笑いながらラフな敬礼をした。

「シャミル・パレ・クルスです。私の名前も忘れられないと思いますけど」

「もちろんです。そして名前もそうですが、ぜひお顔をお近くで拝見したいものですな」

「私の方は、特段、見たくはないです」

「はははははは、そこまではっきり言われると気持ちが良いですな」

「何のご用件でしょうか?」

「本当に、じかにお顔を見ながら、お話をさせていただきたいのです」

「はい?」

「どこで誰が聞いているかも分からない通信では、恥ずかしくて、シャミルさんへの愛の言葉もどもってしまいそうですからな」

「愛の言葉は間に合っています」

「テラでつぶやけるとしてもですか?」

 レンドル大佐は、お得意の冷たい笑顔で言った。

「……レンドルさんは、今、どこにいらっしゃるのですか?」

「シャミルさんが今いる惑星にいますよ」



 三十分後、レンドル大佐はアルヴァック号の船長室にいた。

 シャミルと二人きりにすることを心配したカーラとサーニャが、シャミルの座っているソファの後ろに立ち、対面に座っているレンドル大佐を睨みつけていた。

「やはり、シャミルさんとはじかにお会いして話をしなければなりませんな。声だけでも十分魅力的ですが、そのお顔を見ないで話をすることは、メインディッシュを食べ損ねるみたいなものですからな」

「レンドルさん、私も暇のように見えて、それほど暇ではないんです」

「昨日から、ずっとここに停泊しているようですが?」

「だから、いろいろと忙しいんです! これでも!」

 反論できない指摘に、シャミルも逆ギレで対応するしかなかった。

「はははは、そうですか。それは失礼しました」

 レンドル大佐は少し前屈みになって上目遣いにシャミルを見た。

「早速ですが、シャミルさん。テラに入りたくはないですか?」

「今、入りたくても入れません」

「私と一緒だと入れますよ」

「どう言うことですか?」

「ハウグスポリ少将からの伝言です」

「伝言? 誰に対してのですか?」

「あなたに対してですよ。そして、私は、ハウグスポリ少将と自由に話ができるチャンネルを持っているのです」

「同じ惑星軍だからですか?」

「いえ、公式なチャンネルではありません。私と少将との個人的なチャンネルです」

「……レンドルさん、あなたはテラ解放戦線側のかただったのですか?」

「そちら側にも足を着いてます」

「そちら側にも? それでは、連邦側にも足を着いているのですか?」

「そうです。情報部員が取るべき立ち位置(スタンス)ですよ」

「あなたには、ご自身の主義主張は無いのですか?」

「おやおや、シャミルさんから説教をされるとは思いませんでしたな」

「話をはぐらかさないでください!」

「私がどちら側の人間か、それほど重要ですか?」

「当然です! 私はテラ解放戦線の考え方は理解できません! そんな方々に招待されてテラに行ったとして、何がどうなるというのですか?」

「お母上に会いたくはありませんか?」

「買収ですか?」

「提案です。話を聞かれてから判断されてもよろしいのでは?」

「……レンドルさんの提案ですから、当然、その対価が求められるのでしょうね?」

「ご明察です。シャミルさんの利益は、先ほども言ったとおり、テラに入国できることです。それもキャミル少佐と一緒に」

 レンドル大佐は表情をまったく変えずに、キャミルの名を出してきた。

「どうして、キャミルも?」

「あなただって、そっちが良いでしょう?」

「それはそうですけど、宇宙軍がそれを許してくれると?」

「事態を打開する可能性があるのであれば、宇宙軍も前向きな選択をすると思いますよ」

「では、私が支払うべき対価とは?」

「テラ解放戦線のハウグスポリ少将とお会いいただくことです」

「また、勧誘されるのでしょうか? 何度も言いますが、私はテラ解放戦線の主義主張には同調することができません」

「それは、テラに入られて、テラ自由国市民となったテラ族の言葉を聞かれてから、じっくりと考えられたら結構です。対価は、今言ったとおり、会談をするだけです。それ以上のことは求めません」

「……私がテラ解放戦線に入らざるを得ないような罠でも用意されているのではないのですか?」

「ははは、そうかもしれませんな」

 レンドル大佐は、何かを企てているはずだ。シャミルはそう判断した。おそらく間違っていないはずだ。

「返事は、後日で結構ですよ。私もしばらくはここに滞在しますし、テラの状況はすぐには進展しないでしょうからな」

「いえ、私の返事は決まりました」

 シャミルは、レンドル大佐を睨みつけるように真っ直ぐに見つめた。

 

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