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リンドブルム☆アイズ  作者: 粟吹一夢
Episode-10 銀河を継ぐ者
214/234

Scene:04 クーデター!

 惑星テラでクーデター勃発!

 シャミルとキャミルがすぐにアルヴァック号の艦橋かんきょうに行き、ヴァルプニールシステムを使った連邦テレビを見ると、アナウンサーが緊迫した様子でニュースを伝えていた。

 テラに駐留している惑星軍第三軍団第一師団が突然蜂起!

 テラ共和国政府の執政官府や共和国評議会といった政権中枢の建物を占拠。執政官を捕らえて、執政官府に軟禁をした。

 また、報道機関、宇宙港、主なインフラ施設についてもクーデター軍の管理下に置かれているようだ。

 クーデター軍は「テラ解放戦線」を名乗り、テラ共和国の連邦からの独立、そして「テラ自由国」建国を宣言していた。

 重要拠点の占拠の際に、警備隊に若干の怪我人が出たが、一般人の被害は確認されていないとのこと。

「パリ地区は、共和国政庁がある街からは離れている。シャミルの実家は、きっと無事だよ」

「ありがとう、キャミル。こんな時にも私の家族の心配をしてくれて……。私なら大丈夫です」

「うん。……とにかく、ここでは、テレビの報道以上のことは何も分からないな。情報が錯綜しているところもある」

 キャミルは、艦橋かんきょうモニターに映し出されていたテレビ映像からシャミルに視線を移した。

「私は、一旦、アルスヴィッドに帰って、情報を収集してくる。今晩、また会おう!」

 そう言うと、キャミルはアルヴァック号の艦橋かんきょうを飛び出して行った。


 ヒューロキンと会い、メルザが姉だと分かり、挙げ句の果てに、テラが連邦から独立するという激動の一日も日が暮れて、夜のとばりが下りた。

 シャミルとキャミルは、急遽、キャミルが予約したホテルの一室で会っていた。

 アルスヴィッドに帰り、マサムネやビクトーレから話を聞き、そして第七十七師団司令部と連絡を取り合って、クーデターに関する情報を収集したキャミルは、それをシャミルに伝えることは職務上知り得た秘密の暴露と言われかねないことから、昼間のように、堂々とアルヴァック号に訪問することは、さすがに気が引けたのだ。

 クーデター軍の首謀者は、あのアスガルドの地下にいたハウグスポリ少将であった。

 アスガルドに駐留していたはずの惑星軍第一軍団第一師団の司令官がいきなりテラに現れて、現地を管轄する惑星軍第三軍団第一師団司令官の大佐を配下にして、直接、指揮を執りだしたようだ。

「ハウグスポリ少将は、てっきり、アスガルドで蜂起するのではと思いましたけど」

「ああ、まんまと裏をかかれたな」

 アスガルドの熱帯雨林地帯の地下基地に保管していた兵器や装備の数々を見れば、アスガルドで蜂起すると考えるのが普通だ。首都で蜂起すれば連邦政府の機能は一時停止を余儀なくされ、連邦側がクーデターを鎮圧させるための体勢を整えるまでの時間を稼ぐことができるなど、アスガルドで蜂起することによるメリットは十分ある。

 ハウグスポリ少将は、シャミルとキャミルに「わざと」あの軍備を見せて、その報告を受けるであろう連邦軍の注意をアスガルドに向けさせたのかもしれなかった。

「でも、一つの惑星をあっという間に占拠してしまうなんて」

「テラには惑星軍第三軍団第一師団が駐留しているが、その第一師団がそっくりそのまま寝返ったということのようだ」

「クーデターに反対する士官や兵士が出なかったのでしょうか?」

「テラの防衛ということで、第三軍団第一師団の兵士はテラ族がほとんどだったようだ。おそらくだが、長い時間を掛けて思想調査を行い、テラ解放戦線の主義主張に同調する軍人だけを異動や入隊させるなどして、一師団まるごとの意思統一を図ったのだろう」

「そうすると、かなり以前から周到に計画されていたのですね」

「そのようだ」

「でも、テラ市民だって、連邦に残っている方が良いと、クーデターに反対する人もいたはずですよね?」

「もちろんだ。新しい体制になったテラ自由国の廃止と連邦復帰を願う市民は大勢いるだろうが、軍備をすべてクーデター軍に握られている以上、手も足も出ないだろう。それに、テラ自由国政府は、市民に今までどおりの生活を保障しているようだから、市民達の間にも切羽詰まったクーデター反対論がわき上がっていないようだ」

 毎日の生活が大事な一般市民にとって、それまでの生活が続けられるのであれば、その政治体制がどうなろうと、それほど関心はないのかもしれなかった。

「連邦側はどうするのでしょう? あっ、もちろんキャミルが話せる範囲で良いです」

「私にも具体的な指令は何も下りていないから話せないことは何も無いよ」

 いつでも自分の心配をしてくれるシャミルに、キャミルも笑顔で言った。

「テラ空域は宇宙軍第四師団の管轄だが、宇宙軍第四師団は連邦側の指揮下にある。しかし、テラ市民が普通に生活しているところに戦闘艦で乗り込んで、クーデター軍と戦争を始めることなんてできないから、今はテラを包囲しているだけだ」

「一般人のテラへの入出国も制限されているのですか?」

「かなり厳しい審査がされているらしい」

「すると、クーデター勢力はテラに孤立している状態なんですね?」

「ああ、それに、テラに呼応して、他の惑星でクーデターが起きる兆しは無いようだ」

「でも、いくら孤立していると言っても、惑星一つがそのまま勢力下にあるのですから、テラ解放戦線としては、いくらでも籠城できますね」

 テラはその昔、連邦の首都であった惑星である。したがって、社会基盤インフラも整備されており、農工業の基盤もしっかりとしていることから、テラ一つだけで完結した社会・経済活動が可能であり、そう言う意味でも独立の舞台をテラにしたことは正解だったということだ。

「そうだな。それに彼らの目的は、テラ族の優位性を認めさせ、いつかは連邦全体を支配するということだから、彼らにとっての聖地であるテラで玉砕をすることなど考えていないはずだ」

「私もそう思います。あのハウグスポリ少将は理知的なかたでした。自棄やけになることはないと信じています」

 そう言った後、シャミルは、冷静な天才の顔から、姉妹を心配する十七歳の女の子の顔になった。

「でも、そのうち、キャミルにも何らかの指令が下されるかもしれませんね」

「第七十七師団は遊撃師団だ。テラに向かえと指令が下る可能性は十分ある。私は、その指令に従うつもりだ」

「もしそうなったら、私もついて行きたいです」

「しかし、テラの空域は封鎖されているだろう。隣の空域くらいまでなら行けるかもしれないが」

「隣の空域でも良いんです。少しでもキャミルの近くにいたいんです」

「……シャミル」

「それに、できれば、テラに入りたいです」

「やっぱり、実家が心配か?」

「さっき、キャミルがアルスヴィッドに帰っている間に、実家に連絡を入れたのですが通じませんでした」

「通信管制がされているようだからな」

「はい。だから、実家が心配じゃないと言えば嘘になりますけど、テラ市民は普通に生活しているってキャミルも言ってくれたし、何より、私の母上なんですから大丈夫です」

「そうだな」

 マリアンヌの凜々(りり)しい姿を思い出すと、シャミルの考えも間違っていないと思うキャミルであった。

「でも、私がテラに行きたい理由は他にあるんです」

 マリアンヌの姿にダブって、シャミルの姿も凜々(りり)しく見えた。

「私は、バルハラ遺跡に行きたいんです。もう、時間の猶予が無くなってきている気がするんです」


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