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リンドブルム☆アイズ  作者: 粟吹一夢
Episode-10 銀河を継ぐ者
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Scene:02 ガンドール討伐の真相(2)

「もちろんです。三年前に討伐されたはずですが?」

「その討伐には、ヒューロキンさんも参加されていたのでしょうか?」

「ええ。あいつには莫大な賞金が掛けられていましたからな」

「詳しくお話を聞かせていただけないでしょうか? 私も、その討伐作戦に興味があるのですが、情報を入手することができないものですから」

 これは本当のことであった。

 連邦軍が過去に行った戦闘状況データは、作戦立案の参考とするため、上層部に蓄積されているが、当然のごとく、最高位の軍事機密であり、キャミルでさえも自由にアクセスすることはできなかった。

「そうですか。三年前ですから、少し記憶も薄れてはいますが」

 正規の軍人からはさげすまれることの多い賞金稼ぎとしては、連邦軍士官であるキャミルからお願いをされて悪い気はしなかったはずで、ヒューロキンも機嫌良く話し出した。

「ガンドールと言えば、当時、『黒い狼』と呼ばれ、襲った商船の乗組員を皆殺しにする極悪非道の大海賊として有名で、それだけに遺族や襲撃された商船主からの賞金が莫大な額になっていて、我々としても非常に魅力的な獲物だったのですが、如何せん、不死身だという噂が立つほど無敵を誇っている相手でしたから、なかなか、討伐に踏み切れなかったのです」

「不死身と言われるには、何か逸話でもあったのでしょうか?」

「白兵戦を挑んだ宇宙軍の制圧部隊が何度も返り討ちに遭っているのです。何とか生き延びた兵士の証言によると、銃はもちろん、剣もまったく歯が立たなかったそうで、まるで体が鋼鉄でできているようだったそうです」

 実際に、過去の時空間でガンドールと戦ったキャミルは、ガンドールの体が鋼鉄でできていると誤解されることももっともだと思った。それだけエキュ・クレールの防御力は強力なのだ。

「そんなガンドールをどうやって討ち取ることができたのか、すごく興味があります」

 ヒューロキンは、コーヒーを一口すすり、もったいぶって話を続けた。

「ガンドールは、戦艦の砲撃の直撃を受けたのですよ」

「戦艦の砲撃の直撃?」

「ええ、レーザー砲がガンドールの船の艦橋を直撃して、艦橋の中にいた海賊どもは宇宙空間に放り出されたのです。その中にガンドールもいたのです」

 艦橋は船の心臓部で、宇宙軍の戦闘艦では球形の船体の奥まった場所に設置されており、砲撃の直撃を受けることはあり得ないが、それはそれだけの大きさがあるからで、船体の内部に艦橋を設置できる大きさの宇宙船はほとんど無かった。

「普通は動力源を狙うはずですが? 誤射でしょうか?」

「さあ、そこまでは分かりかねます」

 いかに極悪非道な海賊であっても、法治国家である連邦では正当な裁判を受ける権利がある。したがって、正当防衛と認められる場合以外には、いきなり相手を死に至らしめる攻撃をすることはなく、通常は宇宙船を航行不能にしてから乗り込み、捕縛するという手順を踏むことになっている。

「艦橋にいたのであれば、宇宙服を着てなかったのでしょうね」

「そうです」

 シャミルとキャミルは、それで納得をした。

 いかに絶対的な防御力を誇るエキュ・クレールであっても、宇宙空間に放り出されたヒューマノイドを生存させておくような力までは持っていないはずである。

「艦橋がやられてしまえば、もう終わりですね」

「しかし、ガンドールの副官の女が最後まで抵抗して、ガンドールの船に乗り込んだ宇宙軍兵士を滅多切りにしましてね。結局、何人かの部下とともに非常用救助艇で逃げおおせてしまいましたよ」

「その副官の女というのは、メルザ・シグルット?」

「現役バリバリの海賊ですから、キャミルさんもそこはご存じのようですね。メルザは、黒い狼ドミニク・ガンドールの後継者として女狼めろうを名乗り、ガンドールと同じように、襲った船の乗組員を皆殺しにする極悪非道な賞金首ですからな」

「ヒューロキンさんもメルザを狙っているのでしょうか?」

「賞金額は高額ですが、そのガンドール討伐戦の際の彼女の戦いぶりを聞くと、できれば相手はしたくないですな」

 自分よりも強い者には楯突かず、弱い者には強気に出るヒューロキンの人となりが分かったキャミルは苦笑するしかなかった。

 それまで黙って話を聞いていたシャミルが代わって話を始めた。

「ところでヒューロキンさん。以前にも思ったのですけど、その腕輪、本当に素敵ですね」

 お目当てのシャミルから褒められて、満面の笑みになったヒューロキンだった。

「そうですか?」

「私のナイフにも同じような青い石がはめこまれているのです。何か関係があるのでしょか?」

 シャミルは、コト・クレールを抜いて、ヒューロキンに示した。

「おお! 確かに! 石の輝きも似ていますな!」

「私のナイフは父親から受け継いだんです。ヒューロキンさんの腕輪はどうされたのですか?」

「……とある店で買いました」

 ヒューロキンの歯切れが急に悪くなった。

「どこのお店なんですか? 私も父親からもらったこのナイフがすごくお気に入りなので、同じナイフが欲しいのです」

「そ、それは、その……」

「ヒューロキンさん」

 口ごもっているヒューロキンに、キャミルが少し厳しい顔をして言った。

「その腕輪はガンドールが持っていた物ではないのですか?」

 いきなりの図星発言に、ヒューロキンは誤魔化しようがないくらいに狼狽うろたえていた。

「な、何を根拠にそんなことを言われるのですかな?」

「海賊データベースに掲載されているガンドールが同じデザインの腕輪をはめていたのです。その他には見たことのないデザインなので記憶に残っているのですよ」

 キャミルの話し方は優しかったが、詰問口調になっていた。

「そ、それは、たまたまでしょう」

「ガンドールがはめていた腕輪は、行方不明になっているそうです」

 キャミルの険しい視線で疑われていると自覚したヒューロキンは、少し声を荒げた。

「私がったとでもお思いか?」

「そうだとは言っていませんよ。正式な手続きを踏めば、討伐された犯罪者の所持品を受け取ることもできますからね」

「……こ、これは、ガンドールとは無関係な物だ!」

 ヒューロキンは大声を上げた。

「そうですか? ヒューロキンさんは違うと思いますが、賞金稼ぎの中には、討伐した海賊を軍に引き渡す前に、その持ち物を物色するやからもいると聞きますからね。念のため確認しただけです」

「……」

 シャミルとの楽しい語らいの時間を期待していたヒューロキンも無愛想な表情で黙りこくった。

「まあ、この件は、本来、知りたかったことではないので、これ以上、訊きませんし、どこにも言いませんよ」

「……」

「ヒューロキンさん、キャミルは真っ直ぐな軍人なので、お気に障ることもあったかもしれませんが、お許しください」

 シャミルのお詫びの言葉でヒューロキンの機嫌もすぐに直った。

「い、いえ。私も大人げなく大声を上げてしまい、申し訳ありませんでした」

「最後に、一つ、お訊きしたいのですが」

 シャミルがにっこりと笑って尋ねた。

「ヒューロキンさんは、テラのバルハラ遺跡に行ったことはありますか?」

「い、いえ」

 ヒューロキンは、「それはどこだ?」という顔をしていた。

「その遺跡には、何か珍しいことでもあるのですか?」

「ええ。その青い石が震えるらしいんです。私達も経験しましたから確かですよ」

「ほ~う。この青い石がその遺跡と何か関係しているのでしょうか?」

「私達もそこまでは分からないんです。ヒューロキンさんもぜひ一度行かれてみればいかがですか?」

「そうですな。テラに向かった際には寄ってみることにします」

 そう言うと、シャミルはキャミルを横目で見た。

 キャミルが無言でうなづいたのを見て、シャミルはヒューロキンにお辞儀をした。

「ヒューロキンさん、今日は、どうもありがとうございました。少しご機嫌を損ねるような質問をしてしまって申し訳ありませんでした」

 シャミルが頭を下げると、ヒューロキンは残念そうな顔をしていた。

「いえいえ、シャミル殿のお役に立てたのでしょうか?」

「はい! とっても!」

「それは、私にとっても嬉しいことです。いかがですか、せっかくですから、この後、二人で食事でも?」

 早速、キャミルを排除して、シャミルとだけ食事をしようと目論もくろむヒューロキンであった。

「申し訳ありません。これからキャミルとデートをする予定になってまして」

「えっ?」

「デートって?」

 ヒューロキンもそうだが、キャミルも驚いてシャミルの顔を見た。

「キャミルは戦艦艦長でそんなに時間が取れないものですから、姉妹揃ってのデートをする時間がなかなか取れないんです。今日はそんな貴重な一日なんです」

 そう言うと、シャミルはニコニコしながら、キャミルの腕を取って立たせると、そのまま腕を組んだ。

「ヒューロキンさん、また、いつでも探検家ギルドの掲示板にメッセージを入れておいてください。『気が向いたら』ご連絡いたします」

 飛びっきりの笑顔を、呆気あっけにとられているヒューロキンにプレゼントすると、シャミルはキャミルの腕を引っ張るようにして、ホテルから出て行った。

 

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