Scene:02 ガンドール討伐の真相(1)
アルヴァック号は、戦艦アルスヴィッドが停泊している惑星ビュグビルの宇宙港に停泊していた。
惑星探検家のシャミルは、探査依頼を受けないことで、自由な時間を作ろうと思えば、いくらでも作ることができたが、軍という巨大な組織の一員であるキャミルはそう言う訳にはいかなかった。休暇を取ろうとしても、戦艦艦長の立場だと、健康状態に支障を来すなどの特別な理由が無いのに何日も連続して休暇を取ることは実際には不可能だった。
そんな時に、キャミルとすぐに行動をともにしたいと思っても、別々の空域にいれば、どこかの惑星で落ち合うまでの時間が無駄になることから、シャミルがキャミルのいるところについて行っているのだ。
ここ最近、シャミルとキャミルの周辺が急に慌ただしくなってきていた。
そのきっかけは、シャミルが超能力を持っている事実が明らかになったことだった。
――テラ族のシャミルが超能力を持っていることを、テラ族の優位性の証にしたいテラ解放戦線からのアプローチ。
――海賊ガンドールが持っていたはずのエキュ・クレールの出現。
――マーガレット・デリング博士がアース族と名付けた、銀河のヒューマノイド種族の共通起源とされる超古代の種族とバルハラ遺跡の関係、そして、その種族の末裔だと言う父親ジョセフと二人の母親との関係。
次々と明らかとなる事実に、シャミルとキャミルは戸惑うことばかりであった。
しかし、シャミルがこれまで探し続けてきたリンドブルムアイズはシャミル自身のことだと軍やテラ解放戦線が誤解しているうちに、リンドブルムアイズの謎を自ら解き明かしたいと考えた。
リンドブルムアイズはシャミルが見つけるべきものだとジョセフは言った。
シャミルは、その言葉を、行方不明となっている父親の意思だとして、何としても自分がリンドブルムアイズを見つけるのだとの決意を新たにしていた。
そのために何をすべきかを、シャミルとキャミルが話し合った結果、まず、次の二つのことをしようという結論になった。
まず一つ目は、シャミルとキャミルの二人が揃って、賞金稼ぎのヒューロキンと会うことだ。
万能のパーソナル・シールドのような力を持つエキュ・クレールは、シャミルとキャミルが時空を遡って出会い戦った海賊ガンドールが持っていた。その後、ガンドールは連邦軍の海賊討伐の際に死亡したようであるが、エキュ・クレールは行方不明になっていた。しかし、たまたま、シャミルが出会った賞金稼ぎのヒューロキンがエキュ・クレールを身につけていた。
時間を遡って出会ったジョセフは、コト・クレールとエペ・クレール、そしてエキュ・クレールの三つが揃えば、リンドブルムアイズは見つかったも同然だと言った。
だから、シャミルとキャミルがヒューロキンと会った時、何かが起きるはずだと考えたのだ。
そして、やることの二つ目は、テラのバルハラ遺跡の再調査だ。
バルハラはジョセフの故郷でもある。そして、シャミルとキャミルが出会ったアリシア・ニコルバーグという遺跡の女性調査員は、バルハラ遺跡で誰かに話し掛けられていると感じているらしい。それは、まさしく、シャミルとキャミルの二人もバルハラ遺跡で感じた感覚なのだ。
やはり、バルハラ遺跡には、リンドブルムアイズを解く鍵があるとしか思えなかった。
一つ目の「したいこと」は、すぐに実現できることとなった。
「船長! 探検家ギルドの掲示板に返信があるようです!」
「早いな! 一時間前に掲示したばかりだぜ」
通信士の報告にカーラも呆れ顔をした。
「きっと、一時間おきにチェックしてたんだにゃあ」
「賞金稼ぎってのは、そんなに暇なのかねえ?」
シャミルは、賞金稼ぎのヒューロキンに話を聞きたいと思い、探検家ギルドの掲示板にヒューロキン宛てのメッセージを入れたのだ。
「開いてください」
シャミルの指示で、掲示板への返信メッセージをダウンロードして、アルヴァック号の艦橋モニターで再生すると、ヒューロキンの顔がモニター全面に映し出された。
「うへっ! 映像付きかよ!」
見たくもない物を見たカーラが吐き捨てるように言った。
『私宛のメッセージ、確かに拝見いたしました! どんな仕事も後回しにいたしますゆえ、シャミル殿のお好きな時間と場所を指定いただければ馳せ参じます! お会いするためには、この掲示板を通じて連絡を取り合うのは非効率ですので、ぜひ、シャミル殿のパーソナルアドレスをお教えいただきたいと思います』
「何だよ、こいつは!」
「思わず、ひっぱたきたくなるくらい、うざいにゃあ」
「船長、パーソナルアドレスを教えるのかよ?」
「そんな訳ありませんよ。キャミルと相談してから、面会の日時をまた掲示板でお知らせします」
「だよな」
シャミルが呼べばどこにでも来るというヒューロキンの申出に甘えて、今、アルスヴィッドが停泊している惑星ビュグビルに来てもらうこととした。それであれば、キャミルも一日休暇を取れば対応できるからだ。
最近開拓が始まった惑星ビュグビルには、移民と資材が次々とやって来ており、行き交う貨物船で宇宙港が混雑するほどであった。
そして、人と物資が動く所には、それを狙って海賊も寄って来るということで、アルスヴィッドは、そんな海賊を討伐するためにやって来て、既に十隻を超える海賊船を撃沈していた。
ここは、海賊を相手にする賞金稼ぎのヒューロキンにとっても「美味しい」場所のはずで、シャミルがヒューロキンへの返信メッセージを掲示した翌日には、ヒューロキンは、この惑星にやって来ていた。
休暇を取っているにも関わらず、軍服姿のキャミルが、シャミルとの待ち合わせの時間に珍しく十分ほど遅れてやって来た。
「キャミルが約束の時間に遅れて来るなんて珍しいですね」
「すまない。メルザがこの空域に潜入しているのではないかという情報が寄せられたものだから、ちょっとバタバタしていたんだ」
「メルザさんがここに?」
「ああ、フェンリスヴォルフ号がこの空域を航海していたという目撃談があったんだ」
「そうなんですか。また、どこかで会っちゃうかもしれませんね」
「捕まえたいと思う一方で、今は、それどころじゃないから会わない方が良いと思ったりもするんだよ」
「そうかもですね。でも、メルザさんもリンドブルムアイズを探していました。何か因縁があるのかもしれませんね」
「ところで、ヒューロキンは?」
「もう待ち合わせ場所に来ているはずです」
シャミルとキャミルは、会談場所に指定したホテルに歩いて向かった。
ホテルが見えてくると、シャミルが隣を歩くキャミルに言った。
「キャミル、感じませんか?」
「感じる! エペ・クレールが震えている!」
「コト・クレールもです! ホテルの中で待っているのは、間違いなく、エキュ・クレールです!」
シャミルとキャミルはホテルに入った。
ロビーを見渡すと、嬉しそうな顔をしたヒューロキンがすぐに立ち上がった。
その左腕には、青い石が輝く盾型の腕輪がはめられていた。
「お持たせして申し訳ありません」
ヒューロキンの前に立ったシャミルがお辞儀をした。
「いえいえ、シャミルさんにお会いできるのでしたら、何時間でもお待ちいたしますよ」
シャミルは、相変わらず、うざいヒューロキンの台詞を無視して、隣のキャミルを紹介した。
「こちらは、私の姉妹のキャミルです」
「銀河連邦宇宙軍第七十七師団所属キャミル・パレ・クルス少佐です!」
敬礼をしたキャミルに対して、ヒューロキンは、右手を左胸に当てて、優雅に一礼をした。
「お噂はかねがねおうかがいしております。連邦宇宙軍のエースと呼ばれるキャミル少佐とお会いできるとは光栄です。まさに噂どおりの美人姉妹ですな」
ヒューロキンは本当に嬉しそうだった。
三人が応接セットに座り、全員がコーヒーを注文してウェイトレスが離れていくと、早速、シャミルが話し始めた。
「今日、お呼び立てさせていただいたのは、ヒューロキンさんにお訊きしたいことがあったからです」
「何でもお訊きください」
「では、私から」
ここは、他人を詰問することに慣れているキャミルの出番であった。
「いきなりで申し訳ないですが、ヒューロキンさんはドミニク・ガンドールという海賊をご存じですか?」




