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リンドブルム☆アイズ  作者: 粟吹一夢
Episode-10 銀河を継ぐ者
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Scene:01 呼び覚まされた記憶

 イリアスの聖セイラ園。

 ハシムは、もやもやとした気持ちでここを訪れていた。

 昨日、イリアスの酒場で出会った海賊の女ボス。

 一瞬であるが、記憶の断片が繋がった気がした。

 聖セイラ園の孤児の中には、社会に出てからも言われ無き偏見と差別に悩み、道を踏み外した者も少なからずいた。ハシムのように成功している者はどちらかというと少数派であった。

 あの女海賊も、昔、園で一緒だった者かもしれないという漠然とした思いに取りつかれて、仕事に集中できなかったハシムは、持ち前でもある、気持ちの切り替えの速さを発揮し、仕事を放り出して、聖セイラ園に来ていた。

 ハシムが、園の門をくぐると、待ち構えていたように院長先生が園の玄関に立っていた。

 少し照れくさそうな顔をしてハシムが近づいていくと、院長先生はいつもの優しい笑顔で出迎えてくれた。

「いらっしゃい、ハシムちゃん」

「また来たぜ。こんな所で何をしてるんだ?」

「ハシムちゃんが来そうな気がしてたのよ」

「へっ? 何で?」

「昨日、懐かしい人に会ってね。ハシムちゃんもよく知ってる人だったから」

「……女海賊か?」

「あらっ、ハシムちゃんもどこかで会ったの?」

「昨日、イリアスの酒場で会った。部下達からメルザと呼ばれていて、……何だか分からないけど、その名前が頭に引っ掛かって」

「メルザちゃんを忘れたの?」

「メルザちゃん?」

「まだ、ハシムちゃんが小さな頃だったから憶えてないのかしらね」

「……やっぱり、メルザって言うのは、ここにいたのか?」

「ええ、ハシムちゃんが園にやって来て、三か月後くらいにはお父様が現れて引き取られて行ったから、ハシムちゃんと一緒にいたのは、その三か月の間だけだったけど、新しく入って来たハシムちゃんのお世話をしてくれて、ハシムちゃんも本当のお姉さんのように、メルザちゃんになついていたのだけどね」

「引き取られるまでの三か月間……」



 突然、ハシムの脳裏にある光景が浮かんだ。

 背の高い男性と手を繋いだ少女。歳の頃は十歳前後か?

 少女の紫色の髪は大きなウェーブを描いて、その瞳は嬉しさと寂しさが同居しているような複雑な輝きを放っていた。

 少女は、ハシムに向かってバイバイと手を振った。訳も分からず、無邪気に手を振る自分がいた。

 男性と少女を呼ぶ声。

 声の主は、赤ん坊を抱いた赤毛の女性。

 少女が手を振ると、女性も優しい微笑みをたたえて手を振り返した。

『そろそろ行くよ』

 男性が赤毛の女性に近づき、やはり赤毛の赤ん坊の頭を撫でながら言うと、女性は少し寂しげな顔をしたが、しっかりとうなづいた。

『キャミルをよろしく頼む』

『はい』

『テラにキャミルと同じ日に生まれた女の子がいる。二人は必ず巡り会うだろう』

『テラは遠く離れてますよ?』

『巡り会うことが二人の運命さだめなのだ。その子とキャミルは、リンドブルムアイズを探し出す鍵だ。お互いに引かれあうはずなのだ』

『そのリンドブルムアイズが何かとは教えていただけないのですよね?』

『私が言わなくても、キャミルはそれを知ることになるだろう』

 男性は、ハシムと女性に背を向けると、少女の手を引いて去って行った。

 少女が聖セイラ園の門を出ると、少女が園からいなくなることが何となく分かった自分は、急に悲しくなって少女の跡を追った。

『メルザお姉ちゃん! 行かないで!』



「思い出した! メルザ姉さん。そして、……リンドブルムアイズ!」

「ハシムちゃん?」

 ハシムが我に返ると、院長先生が心配そうな顔をして、ハシムの顔を見つめていた。

 ハシムは、頭の中に浮かんできた記憶の断片を繋げてみたが、欠落している部分があった。

「院長先生! メルザ姉さんを迎えに来たのは父親だったんだよな?」

 院長先生を睨むような勢いで、ハシムが尋ねた。

「ええ、そうよ。行方不明になっていたけど、やっと見つけたって」

「その父親ってのは、キャミルのお母さんとも知り合いだったのか?」

「ええ、元々、キャミルちゃんのお母さんと仲が良くて、キャミルちゃんの家に来ていた時に、うちの孤児院でメルザちゃんを見つけて、もしやということで調べてみたら、生き別れになっていた自分の娘だったと分かったらしいの」

「……そいつは何で名前だったんだ?」

「確か、ジョセフと言ってたと思うけど?」

「ジョセフ……。なあ、院長先生?」

「なあに?」

「先生は、リンドブルムアイズという言葉は聞いたことはないか?」

「……さあ、分からないわね」

「そうかい。……いや、先生、ありがとう。何となく、すっきりした」

 と言いつつ、ハシムは腕組みをしてうつむいた。

「ハシムちゃん」

 呼ばれたハシムが顔を上げた。

「何だい?」

「メルザちゃんのお父さんは、キャミルちゃんのお母さんと仲が良かったって言ったけど、それは本当のことだったみたいなの」

「どういうことだ?」

「実は、昨日、メルザちゃんがうちに来て、話してくれたのよ。メルザちゃんは、キャミルちゃんとシャミルちゃんのお姉さんなんだって」

「えっ!」

「私も初めて聞いたんだけど、……嘘だとは思えなかったわ」

 脳裏に浮かんだ、ジョセフのキャミルに対する親しげな態度も納得ができた。

「院長先生! そ、そのことは、キャミル達には?」

「まだ伝えていないわ。でも、そんな大事なこと、伝えた方が良いわよね。メルザちゃんも秘密にしてくれなんて言わなかったし」

「そうだな。……分かった。俺の方から二人には伝えるよ」

「じゃあ、ハシムちゃんにお願いするわ」

「ああ、任しとけ」

 ハシムは、乗って来たエアカーに向けて歩き出したが、次第に腹の底から怒りがわき上がってくるのが分かった。

 ハシムは、シャミルから、メルザもリンドブルムアイズを探しているということを聞いていた。

 同じ父親の血を受け継ぐ姉妹に、リンドブルムアイズという何かを見つけることを競わせるようにして、自分は行方不明になっているジョセフに、ハシムはぶつけようが無い怒りを覚えた。

 

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