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リンドブルム☆アイズ  作者: 粟吹一夢
Episode−09 受け継がれる記憶と想い出
205/234

Scene:09 アース族(2)

 マーガレット・デリング博士は、また、コーヒーをすすると、シャミルとキャミルを興味深げに見つめた。

「それはそうと、さっき、お二人の父親はバルハラの生まれと言っていたわね?」

「はい」

「私の父親は、テラ大学で教授をしていたのだけど、退職後はバルハラ遺跡の近くに住んでいたのよ。ひょっとしたら、あなたがたの父親とも顔見知りだったかもしれないわね」

 シャミルとキャミルは、過去に遡って出会ったサミュエル・デリング博士の風貌ふうぼうを思い出していた。

「何だか、もう懐かしいって感じですね」

 シャミルが、ぽろっとキャミルに漏らした言葉に、マーガレット・デリング博士が不思議そうな顔をした。

「えっ? 私の父親は、十年前に亡くなっているのだけど?」

「あっ! そ、その、……アリシアさんから少し話をお聞きましたから」

「ああ、そう言うことね」

 シャミルの言い訳をあっさりと信じたマーガレット・デリング博士は、二人を見つめる目線を少し下げた。

「二人が提げているナイフと剣には、青い宝石のような石がはめ込まれているわね」

「は、はい」

「それは、どこで?」

「あ、あの、父親の形見です」

「バルハラにいた父親の?」

「はい。このナイフと剣が気になりますか?」

 コト・クレールとエペ・クレール自体は、それほど変わったデザインではなく、今まで注目されることはなかったから、シャミルとキャミルは少し驚いた。

「ナイフと剣というより、その青い石が気になるわ」

「ど、どうしてでしょう?」

「実は、私の父親は、バルハラ遺跡の中に入ったらしいのよ」

 二人の脳裏に、黒い狼こと海賊ドミニク・ガンドールが、遺跡の中から出て来たサミュエル・デリング博士を傷つけたシーンが蘇ってきた。しかし、それは、今この現在に繋がっていない過去の並列時空だったはずだ。

「私達が行った時には、どこにも出入り口らしきものはありませんでしたけど?」

「それは、昔も同じよ。あのピラミッド型の遺跡のどこにも中に入れるような扉は無いわ」

「それでは、どうやって中に入られたのでしょうか?」

「一人で遺跡を調査中に、ふと入口が開いたらしいのよ。でも、入口が開いたのは、その時だけで、父親以外の人は誰も見ていないの。だから、夢を見ていたのではないかって言われているんだけど、父親は、絶対、現実だったって、最後まで言い張ってたのよ」

「あの、一つだけ確認したいのですが、十年前にお亡くなりになったデリング博士は、病気でお亡くなりになったのですよね?」

「ええ、そうよ。他にどんな死に方があるのかしら?」

「あっ、いえ、失礼しました」

 シャミルとキャミルが「経験した」過去では、二人がガンドールと対峙たいじしていた時、ピラミッド型の遺跡の何も無い壁にぽっかりと穴が開き、そこからデリング博士が出て来て、ガンドールに殺された。

 しかし、今の時空におけるデリング博士は病気で死んでいる。

 そうすると、今の時空は、デリング博士がガンドールに殺された過去からは繋がってはおらず、デリング博士が、バルハラ遺跡の中に入り、かつ、ガンドールに殺されずに病気で死んだという、二人が「経験」していない過去から繋がっているということになる。

「父親も記憶に鮮明に残っていたらしくて、私が実家に帰省するたびに、バルハラ遺跡の中の話を何度も聞かされたのよ」

 シャミルとキャミルは身を乗り出して聞き入った。

「何でも、遺跡の中に入ると、その先は大きな下り坂の通路が続いていて、そこを下りきった所に、直径五十メートルほどの広い円形の広場があったみたいね」

「下り坂と言うことは、あのピラミッド型の遺跡の地下に広場があったと言うことになりますね?」

「そうなるわね。そして、その広場の奥には、壁が少しへこんだ箇所があり、そこには、直径十センチほどの青い石が置かれていたのですって」

「青い石が?」

「ええ、父親は、それを持ち出そうとしたのだけど、重すぎるのか、接合されていたのか、とにかく持ち上げることはできなかったそうよ」

「……」

「その青い石は、不思議なあわい光を放っており、ずっと見つめていたいと思ってしまう不思議な魅力があったそうよ」

「不思議な魅力が?」

 マーガレット・デリング博士は、エペ・クレールとコト・クレールを交互に見た。

「あなた方の青い石も不思議な石ね。何故だか、その二つの青い石に見とれていたいって思ってしまうわ」

「あ、あの、先生は、私達のナイフと剣が、バルハラ遺跡の中にあった青い石と何か関係があるとお考えなのですか?」

「分からないわ。でも、二人のナイフと剣にはめ込まれている石を見てると、ふと、父親の言った青い石のことを思い出してしまったのよ」

 バルハラ遺跡の中にも青い石があったということは、二人がバルハラ遺跡で感じた感覚が、エペ・クレールとコト・クレールが近づいた時に感じる感覚を強くした感じであったことから納得できるものだった。おそらく、中にあるという大きな青い石と、エペ・クレールとコト・クレールの青い石が共鳴したのだろう。

 シャミルが少しの間だけ思案をしてから、マーガレット・デリング博士に問い掛けた。

「先生は、バルハラ遺跡に何かがいると感じたことがありませんか?」

「何かとは?」

「何かです」

「……ふ、ふふふふ。あなたがたは、その何かを感じたのね?」

「はい」

「やっぱりねえ」

「と言うことは、先生も何かを感じられたのでしょうか?」

「残念ながら、私は何も感じたことはないわ。でも、アリシアは、何かを感じているみたいね」

「アリシアさんが?」

「ええ、だからこそ、私の父親同様、あの遺跡にこだわっているのでしょうね」

「アリシアさんは、何と感じるとおっしゃっているのですか?」

「時々、誰かは分からないけど、呼び掛けられているって言っていたわね」

「アリシアさんがそんなことを?」

「ええ、変人扱いされるから、誰にも言うなとは言ってるんだけどね」

 現在の時空において、アリシアに会った時、シャミルとキャミルは単なる観光客としてバルハラ遺跡に行っており、遺跡自体に深い関心を持っていた訳ではなかったから、当然、アリシアとそんな話まではしなかった。

 シャミルとキャミルは、また、バルハラ遺跡に行かなければならないと思った。

「先生、バルハラ遺跡の中に青い石があるということは、ご家族と私達以外の誰かにお話をされたことはあるのですか?」

「う~んと、そうねえ…………。もう一年くらい前だけど、同じような青い石を持っている人が私を訪ねて来て、その人にも話をした記憶があるわね」

「……その人は青い石がはめ込まれた盾型の腕輪をしている人でしたか?」

 シャミルの脳裏にあの「うざい顔」が浮かんだ。

「ああ、そうそう! その人ともう一人の男性の二人連れだったわね」

「お二人のお名前は?」

「え~とねえ、……私も元々悪かった記憶力が更に悪くなってしまってさあ、……思い出せないね」

「ヒューロキンさんとおっしゃいませんでしたか?」

「そう! それ! 何だ、知ってる人だったの?」

「はい。もう一人のかたは憶えていらっしゃいますか?」

「もう一人は名乗らなかったけど、良い体をしている人なつっこい顔をした男性だったわね」

「先生。その男性とは、この人でしょうか?」

 キャミルが自分の左腕にはめた情報端末の画面をマーガレット・デリング博士に見せた。

「ああ、そうそう! 何だ、二人とも知っている人だったのね」

「それで、その二人は、どんな話をしに先生を訪れたのでしょうか?」

「ほとんど憶えていないけど、今日と同じようなヒューマノイド共通起源説の話だったと思うわ。まあ、私が話せるのはその話しかないからね」


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