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リンドブルム☆アイズ  作者: 粟吹一夢
Episode−09 受け継がれる記憶と想い出
202/234

Scene:07 テラ解放戦線(2)

「お二人もご存知のとおり、連邦内のヒューマノイド種族に顕著けんちょな遺伝子情報の酷似こくじは、超古代に栄えていたヒューマノイド種族の共通の祖先によるものだという説です。魅力的な説ですよね」

「そうですね。私もロマンを感じます」

 これまで再々(さいさい)、ヒューマノイド共通起源説に関係する場所にも出掛けているシャミルも同意をした。

「私はロマン以上のことを感じますよ。そう、運命です」

「運命?」

「そうです。ヒューマノイド共通の祖先である、超古代に繁栄した種族は確かにいたでしょう。そして、その種族の遺伝子情報を最も濃く受け継いでいるのがテラ族なのです」

「それは、科学的根拠に基づいて言われているのですか?」

「その超古代の種族に会えない以上、科学的に立証することは不可能でしょう。しかし、今の連邦に占めるテラ族の興隆を考えれば、誰が考えても同じ結論を出さざるを得ないでしょう?」

「科学的に立証できなければ、それは空想と同じで、個人的観測と願望でしかあり得ません」

「しかし、今、私の目の前に大きな証拠がいます」

 ハウグスポリ少将の目線は、シャミルに向けられていた。

「ジョセフの娘のお二人、特に母親もテラ族であるシャミルさんです」

 またもや、予期せずして、父親の名前が出た。

「私とキャミルの父親であるジョセフをあなたはご存じなのですか?」

「ええ」

「惑星軍で?」

「ほう~、自分達の父親の本当の職業をご存じですか? 世間的には、探検家と言っていたはずですが?」

「つい最近、知りました」

「そうですか? 我々は、ジョセフからいろんな話を聞いています」

「どのような話ですか?」

「ジョセフは私達に言いました。自らをヒューマノイドの共通起源である超古代種族の末裔まつえいだとね」

「……!」

 シャミルとキャミルは言葉が出なかった。父親が、根拠も無く、そんなことを言うとは考えられなかったからだ。

「その超古代種族は、現在の我々が失っている超能力を持っていたらしいのです。そして、ジョセフは、実際に、その受け継いだという超能力の一端いったんを我々に披露してくれましたよ。シャミルさんが見せた力よりは小さな力ですが、我々にとっては驚愕きょうがくの事実でした」

 父親が超能力を持っていたことも初耳だった。

「テラ族が超古代種族の遺伝子情報を色濃く受け継いでいるというのは、ジョセフが言ったことです」

「……」

「そして、テラ族の中でも、より超古代種族と似た遺伝子情報を持つ者同士を交配させていくと、いつかは超古代種族とまったく同じ遺伝子を持った者が現れるはずです。ジョセフはそれを実行していたのです」

「父上が……」

「あなたがたの母親は、ジョセフ同様に超古代種族の遺伝子情報を濃く受け継いでいるかただったのでしょうね。キャミル少佐の母親はイリアス族だが、そうだったのでしょう」

「……」

「つまり、ジョセフは、あなたがたをこの世に出現させるために、あなたがたの母親と関係を持ったのです」

「嘘です!」

 シャミルに、押さえようのない怒りが沸き上がった。

 シャミルは、自分達の母親を愛していると言ったジョセフの言葉を、そして、それを言った時のジョセフの目を信じていた。それを否定されることは、両親に対する冒涜ぼうとくでしかなかった。

「少し言葉足らずだったかもしれませんね。似た遺伝子情報を持った者同士、どこか惹かれ合ったのかもしれませんね。ご本人達の内心までは分かりませんが、少なくとも、あなたがた二人を産むという目的はあったはずです」

「……」

「そして、目的は達せられたのです」

「目的とは?」

「リンドブルムアイズの誕生です」

 シャミルは、タイムスリップした過去において、自分達の父親が何かを探していることを、レンドル大佐と話していたことを思い出した。

 その時、それには特段の名前は無かったようだが、シャミルが口走った「リンドブルムアイズ」という言葉を使おうとジョセフが言っていたことから、その後、惑星軍の一部において、その言葉は普通に使われていたのだろう。

「……リンドブルムアイズとは何ですか?」

「あなたがたが知らないはずがありません」

「ええ、その名前は父上から聞いています。でも、私達は、リンドブルムアイズが何なのかを知りません。あなたがたはもう知っているのですか?」

「ジョセフから聞いた訳ではなく間違っているかもしれませんが、我々は、これまで収集した情報を分析した結果、一つの結論を導き出しました。我々が出した結論とは……」

 ハウグスポリ少将は、前屈まえかがみになって、シャミルをにらみつけるように見つめた。

「シャミルさん、あなたがリンドブルムアイズだということです」

「えっ?」

「リンドブルムアイズを手に入れた者は『強大な力』を得ることができる。ジョセフは、確かに、こう言いました。シャミルさんが持っている力こそが、その『強大な力』であると言うしかないでしょう」

 子供の頃、シャミルは、ジョセフからリンドブルムアイズを探しているというメールをもらったことがある。シャミル自身がリンドブルムアイズであれば、そんなことは言わないはずである。

 また、過去にタイムスリップした時、ジョセフは、エペ・クレールとコト・クレール、そして、エキュ・クレールの三つが揃った時、リンドブルムアイズは見つかったも同然とも言った。

 少なくとも、ジョセフが指していたリンドブルムアイズは、シャミル自身ではないことは明らかだったが、シャミルは、それをこの場で指摘することは止めた。

「私がリンドブルムアイズだとして、私をどうされるおつもりですか?」

「我々の先頭に立っていただきたいと思っています。テラ族が有能な種族であることを体現たいげんされているシャミルさんが先頭に立てば、態度を曖昧あいまいなままにしている連中も、我々の主張になびかざるを得ないでしょう」

「お断りします!」

 毅然きぜんとした態度と表情で言い放ったシャミルだったが、ハウグスポリ少将も表情を変えることはなかった。

「あなたが先頭に立つと、テラ族の全員が、自らの優越性に疑問を呈することは無くなるでしょう。テラ族の心を一つにするため、あなたが必要なのです」

「今、外で待っている私の仲間は、バウギ族とミミル族です。でも、私はその二人が劣っているなんて思ったことはありません! これまで、何度、彼女達に助けられてきたか分からないほどです!」

個々(ここ)の出来不出来を言っている訳ではありませんよ。種族全体のことを言っているのです」

「同じことです!」

 シャミルは本気で腹を立てていた。

「シャミルさんには、自分の意思で、テラ解放戦線の先頭に立ってもらわなければ意味がありません。いつかは、我々の主張の正当性を理解していただけるはずです、その時まで、じっくりとお待ちしますよ」

「どれだけ待たれようと、私の考え方は変わりません! あなたがたの主張には百二十パーセント同意できません!」

 ハウグスポリ少将は、駄々(だだ)をこねる子供を見るような目をしてシャミルを見た後、キャミルに視線を移した。

「キャミル少佐」

「はい」

「連邦軍人である君は、今の連邦政府の腐敗ぶりをどう考えますかな?」

「確かに、最近でも、最高評議会議員とアスガルドの商人との癒着ゆちゃくが報道されていました。汚職は連邦に対する裏切り行為ですが、直ちに、今の政治体制をくつがえさなければならないほど、連邦政府が腐敗しきっているとも思いません」

「若いのにめた見方をされるようだ」

 少将は、また足を組み直した。

「民主主義は愚衆ぐしゅう政治に陥りやすい。実際、今の状況は、まさにそのとおりです」

「そうでしょうか?」

 同じ軍人相手に話しづらそうにしているキャミルの横からシャミルが疑問を呈したが、それが、ハウグスポリ少将のスイッチを入れたようだった。

「そうです! 今の政権が何とかもっているのは、開拓の欲求があるからです! つまり、新しい惑星で新しい生活ができるようになると、しばらくの間、市民は、政治の閉塞感を忘れてしまう。次々に新しい惑星の開拓を推進していることで、連邦政府は市民の不満をはぐらかしていると言えるのです。しかし、抜本的解決には何らなっていない!」

「……」

「優秀なテラ族が他の種族を導き、強権的に不正を正しながら、連邦を治めることが究極の解決策です!」

 しばらく三人の間に沈黙が訪れた後、シャミルが落ち着いた声で話した。

「ハウグスポリさん、この話について、私達が結論を一致させることは、おそらくできないと思います」

「今日のところは、そうかもしれませんね」

「では、私達をどうされるおつもりですか?」

「このまま、お帰りいただいて結構です」

 ハウグスポリ少将は、座ったまま左手をドアの方に伸ばして、退室を認めた。

「私達が、ここで見聞きしたことを、私の依頼主に報告をしても差しつかえないのですか?」

「先ほどお話ししたとおりです。我々、惑星軍第一軍団第一旅団の一部隊は、ここで極秘の任務を遂行すいこう中であると説明するだけです。作戦の立案遂行りつあんすいこうについて全責任を負っている私がそう言えば、反論などできる訳がありません」

「分かりました。では、正直に話させていただきます」

「どうぞ」

 シャミルとキャミルは揃って立ち上がり、出口に向かって歩き出したが、すぐにシャミルが立ち止まり、まだソファに座ったままの少将に尋ねた。

「最後に、一つだけお訊きしたいことがあるのですが?」

「何でしょう?」

「私達の父親であるジョセフ・パレ・クルスの行方ゆくえを軍は知っているのですか?」

「いいや。我々も三年前から彼とは連絡が取れていない。彼に訊きたいことが山ほどあるのですがね」

「分かりました。ありがとうござました」

 シャミルは丁寧ていねいにお辞儀じぎをすると、キャミルと一緒に部屋を出た。


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