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リンドブルム☆アイズ  作者: 粟吹一夢
Episode−09 受け継がれる記憶と想い出
201/234

Scene:07 テラ解放戦線(1)

 四方を飛行戦車エアパンツァーに囲まれながら、丘の近くまで戻ったシャミル達の目の前で、丘の中腹ちゅうふくがぱっくりと割れ、飛行戦車エアパンツァーが二台並んでも余裕で通れるくらいの出入り口が開いた。

「これは、もう、れっきとした基地だな」

 エアバイクを置き、歩いてその割れ目から中に入ったシャミル達が見たのは、出撃していたのとは別に二十台ほど停車していた飛行戦車エアパンツァーで、そのまわりには、その整備に必要な機器類が置かれていた。

 その先に進むと、装甲機動歩兵の強化服パワードスーツが何十着と配備されていた。

 シャミルとキャミルは、エペ・クレールとコト・クレールを取り上げられることもなく、惑星軍大尉の跡について歩いた。

 惑星軍大尉は、基地の奥まった場所に幾つかあるドアの一つをノックし、ドアを開けると、開いたドアノブを持ったまま、シャミル達を部屋の中にいざなった。

 シャミルとキャミルが入った後、カーラとサーニャが続けて入ろうとすると、惑星軍大尉が腕を伸ばして、二人が部屋に入ることを制止した。

「シャミルさんとキャミル少佐だけに話があります。あなたがた二人は、私と一緒に外で待っていてください」

「二人は私の副官です! 今も私のそばにいてくれるように希望します!」

 シャミルが、捕らえられたがわの人間とは思えないほど、はっきりと要求をしたが、大尉は表情を変えることはなかった。

「少し込み入った話をしたいので、外で待っていてほしいのです。危害を加えたりはいたしません。約束いたします」

 部屋の中にいた男性が、穏やかな声で言った。

 シャミルとキャミルが男性を見ると、惑星軍少将の階級章を付けた、背が高くスリムな体型の男性であった。

「分かりました」

 シャミルが厳しい表情のまま承諾すると、惑星軍大尉がドアを閉めた。

「ようこそ! シャミルさん、そして、キャミル少佐。どうぞ、お座りください」

 部屋の中には、簡素な応接セットしかなく、惑星軍少将は、シャミルとキャミルと向かい合って座った。

「惑星軍第一軍団第一師団長ハウグスポリ少将です」

 ハウグスポリ少将は、座ったままラフに敬礼をした。

「宇宙軍第七十七師団所属キャミル・パレ・クルス少佐です」

 キャミルも条件反射的に座ったまま敬礼をした。

「シャミル・パレ・クルスです」

 シャミルは座ったまま丁寧ていねいに頭を下げた。

「色々と訊きたいことがおありでしょう? 最初は、あなたがたの質問に私からお答えしましょう」

 ハウグスポリ少将は、足を組んで、シャミル達を見た。

 もっとも、えらぶっているようではなく、自然ににじみ出る貫禄と感じられた。

「では、私から」

 キャミルが軽く手を上げて、ぐ、ハウグスポリ少将の顔を見つめた。

「ここは惑星軍第一軍団第一師団の正式な基地ではないですよね?」

「もちろんです。そもそも、こんな密林ジャングルの中に防衛すべき重要な拠点があるはずはないですからね」

「では、ここは、どういった施設なのですか?」

「軍ではなく、我々の組織の基地です」

「我々の組織とは?」

「キャミル少佐。君は、任務で、このシャミルさんと一緒にここまで来ているのでしょう?」

「……はい」

 一瞬、正直に話すことを躊躇ちゅうちょしたが、ハウグスポリ少将の真摯しんしな態度に、キャミルも嘘を吐くことはできなかった。

「ならば、ここにたむろしている我々が、どんなグループなのかは、教えられているのではないのですか?」

「テラ解放戦線ですか?」

「そうです」

「首都アスガルドの防衛を一手にになっている第一軍団の、それも第一師団長自らが……、とは驚きました」

「テラ解放戦線の同志は、惑星軍には、かなりの割合でいるのですよ」

「……軍の上層部は、何か対処をしているのですか?」

「キャミル少佐。君は、いくつか誤解をされているようなので、若干じゃっかん、訂正をさせていただきたい」

 ハウグスポリ少将は、足を組み直し、シャミルとキャミルの顔を交互に見渡した後、言葉を続けた。

「テラ解放戦線は、何も暴力的革命によって政権を奪取だっしゅしようなどとは考えていません。今の世の中、そのような手法が連邦市民の支持を得られるとは考えられませんからね」

「では、ここにあるおびただしい兵器や武器は何のためなのですか?」

「自衛のためです。思想の自由は連邦憲章で保障されているにも関わらず、我々の思想は危険だと勝手に判断され、弾圧されるおそれがあります。実際、あなたがたがここを探りに来た。誰から頼まれたのですかな?」

「軍人たる者、答えられるはずがありません」

「私も依頼主が誰かは、契約上の守秘義務に当たりますので、お話しすることはできません」

 シャミルとキャミルが毅然きぜんとした態度で言った。

「お二人ともお若いのにしっかりとされている。さすがというところですね。もっとも……」

 ハウグスポリ少将は、また足を組み直して、不敵ふてきな微笑みを浮かべながら、二人を見つめた。

「見当は付いてますがね。宇宙軍の上層部でしょう? ……ああ、返事はしなくて結構です。将来のあるキャミル少佐を裏切り者にするつもりもないですからな」

「ハウグスポリさん、私は部外者ですので、素朴な疑問を訊いてもよろしいでしょうか?」

 シャミルがハウグスポリ少将を見つめながら言った。

「どうぞ」

「宇宙軍と惑星軍って、仲が悪いのですか?」

 部外者と言うより、シャミルならではのストレートな質問に、隣のキャミルは少し狼狽うろたえ、ハウグスポリ少将も思わず白い歯を見せた。

「ははははは、そうですね。そのとおりかもしれませんね」

 実際、連邦軍を構成する宇宙軍と惑星軍は、必ずしも仲が良いとは言えなかった。

 高校卒業後、第三士官学校で二年間ともに学んだ士官候補生も、三年目からは、宇宙軍の第一士官学校、惑星軍の第二士官学校と分かれて養成され、仕官後もお互いの組織に出向するようなことは原則的にはなく、非ヒューマノイド種族との全面戦争といった大規模な作戦が実行される際には、統合参謀本部が間に立ち、統一的な作戦が遂行すいこうされるが、それ以外の時には、各々の参謀本部長の指揮の元、個別に作戦が実行されていたことから、宇宙軍と惑星軍は基本的に別の組織と言って良かった。

「惑星軍の中では、少将殿の行動は、公然の秘密なのですか?」

 宇宙軍では、テラ解放戦線の話をまったく聞いたことがなかったキャミルが尋ねた。 

「もちろん、公然とされている訳ではない。しかし、私のような階級の人間も多数いることから、いくらでも誤魔化すことができる」

「連邦政府の意思に従わずに兵器や武器を準備していることだけでも処罰されますぞ」

「惑星軍として、とある作戦オペレーションを実行中だと私が言い張れば、こんなジャングルの中に兵器を隠している理由にはなるでしょう。それが、どんな作戦オペレーションなのかは宇宙軍に話す義理も無いですし、その真偽は宇宙軍では確認しようがないはずですな」

「師団長のあなたが、そう言い張れば、それ以上は何も言えないでしょうね。しかし、あなたよりも上のかたの意思も働いているのでしょうか?」

「そこまで、ぺらぺらと話すほど、私は、お人好しでもおしゃべりでもないのですよ」

「そうですか。……それで、これから私達をどうするおつもりですか?」

「ああ、そうそう。大事な用件を忘れるところでした」

 ハウグスポリ少将は、芝居がかったアクションを取った後、シャミルを見つめた。

「あなたのことは色々と調べさせてもらっています。うちの情報部のお気に入りのようですからね」

 二人の頭にレンドル大佐のにやけた顔が浮かんだ。

「我々は、お二人の超人的な能力に興味があります。特に、シャミルさんの不思議な力に注目しているのです」

「不思議な力とは?」

「今更、おとぼけはないでしょう? 惑星ブラギンで見せた超高層建造物の破壊、最近では、オンラインゲームの中にいながら、そのゲームのプログラムを書き換えるという離れ業をやってみせていることは、惑星軍の上層部には知れ渡っていますぞ」

「……惑星ブラギンのことは、正直、自分がやったという自覚はありません」

「あなた以外に考えられないと判断しています」

「もし、それらのことを私がしたとして、そのことが、あなた方の活動とどのように関係するのでしょう?」

「シャミルさん、あなたはテラ族ですよね?」

「はい」

「キャミル少佐も父親がテラ族だ」

「……」

「お二人は、ヒューマノイド共通起源説をご存じかな?」

 唐突とうとつに飛び出した、これまでと脈絡みゃくらくの無い話に、シャミルとキャミルも戸惑とまどいながらもうなづいた。


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