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リンドブルム☆アイズ  作者: 粟吹一夢
Episode−01 惑星ヨトゥーンのラグナロク
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Scene:05 辺境警備艦隊司令部

 ヨトゥーン空域の隣の空域にある惑星ルムニル。

 ヨトゥーン空域の警備を担当する辺境警備艦隊の司令基地が設置されており、キャミルは、艦隊司令官を表敬訪問するため、その基地の艦隊司令室にいた。

「連邦宇宙軍第七十七師団所属戦艦アルスヴィッド艦長、キャミル・パレ・クルス少佐であります」

 キャミルが、二人の副官を従えて、敬礼をした相手は、脂ぎった顔に、両端でくるりと巻き上がった口髭くちひげたくわえて、ぶよぶよとみにくく太った体型のためか、だらしなく敬礼をしながら名乗った。

「連邦宇宙軍第二百三十四師団第九警備艦隊司令サド大佐である。しかし、遊撃艦隊である第七十七師団の戦艦が単独でどういうご用件かな?」

「首都空域でちょこまかと悪さをしている奴らが、どうやら、隣のヨトゥーンの空域に逃げ込んだという情報を得て、やって来たのです」

「ほう、何という奴らかな?」

「それは捜査上の秘密ゆえ、同じ軍の方とて、お話することはできません」

「さようか」

 サド大佐は、キャミルの用件よりも、若い女性士官であるキャミル自身に興味津々(きょうみしんしん)のようで、キャミルの全身をなめ回すように見つめた。

「しかし、少佐。まだ、お若いようだが……。それに、ギャラクシー級戦艦の艦長を少佐の階級で任されるとは、軍の中枢部のお気に入りなのかな?」

 艦隊司令とはいえ、辺境空域の警備の任務をおおせ付かっているサド大佐は、ややねたみを含んだ口調で皮肉っぽく話した。

若輩者じゃくはいものゆえ、よろしくご指導をお願いいたします」

 キャミルも敬礼をしながら、やんわりと皮肉で返した。

「うむ。……ところで、本日はどちらにご宿泊かな? 遠路はるばるお越しいただいたのだ。歓迎のうたげもよおしたいのだが」

「ご厚意はありがたくお受けいたしますが、残念ながら、我々が追って来た連中をいち早く探し出したいものですから、このままヨトゥーン空域の捜索をさせていただきたいと思います」

「我が艦隊の精鋭達が常に警戒をしておる。それに、ヨトゥーン空域は立入禁止空域であるから、我が警備艦隊以外の船が航行をしておればすぐに分かる。不審船を見つけたら、貴殿にも早急に御連絡を入れよう。だから、貴艦が自ら捜索する必要もないであろう」

「ありがとうございます。しかし、そいつらは私が長年追い求めている賊ゆえ、居ても立ってもいられないのです」

「さようか」

「不審船がヨトゥーン空域を航行していたという情報はありませんか?」

「うむ」

 サド大佐が横に立っていた副官を見ると、副官が無機質な声で答えた。

「エンジントラブルで、ヨトゥーンに墜落した船があるようです」

「ヨトゥーンに墜落?」

「はい。古い型の商船のようでしたが、減速することなくヨトゥーンの大洋地域に突っ込んで行ったそうですから、そのまま墜落してしまって大破していることでしょう」

「乗員は?」

「大気圏内で脱出したかもしれませんが、船は壊れてしまっているはずですから、ヨトゥーンから出ることはできないでしょう。いずれにしても、ヨトゥーンには立ち入ることはできませんから、もう確認もできませんが……」

「そうですか。商船タイプの船であれば、我々が追い求めている奴らではないと思われます。やはり、ヨトゥーン空域の捜索をさせていただきたいと思います。大佐殿、よろしいでしょうか?」

 連邦艦隊の船であっても、立入禁止空域を航行するには、その空域の警備を担当している艦隊司令の許可を取る必要があった。

「我が艦隊の警備シフトとぶつからないように、エリアと時間帯を指定するので、その間であれば差しつかえない」

「ありがとうございます。……ところで、大佐殿。ひとつお訊きしてもよろしいでしょうか?」

「何かな?」

「大佐殿の艦隊には輸送艦は配備されているのですか?」

「ゆ、輸送艦とな。それはどういう意味かな?」

「いえ、この基地に輸送艦が頻繁ひんぱんに訪れているという話も聞きましたので」

「どこから?」

「商人達のもっぱらの噂のようですが……」

「おそらく、駐留用の物資を運んでおる船のことであろう」

頻繁ひんぱんに補給をされているのでしょうか?」

「それほど頻繁ひんぱんではない。商人どもが誇張こちょうして話しておるのであろう」

 サド大佐は少し不機嫌そうな顔をしながら言った。

「なるほど。……それでは、これから早速、ヨトゥーン空域に向かいたいと思います」

「うむ。警備シフトを確認して、担当官から追って連絡させる」

「お待ちしております。では失礼します」

 そう言うと、キャミルと副官は、サド大佐に敬礼をしてから司令官室から出て、司令本部の出口に向かって歩き出した。

「シャミルは、無事、ヨトゥーンに入ったようだ」

 キャミルは、少し後ろを歩く副官達に向かって、振り向くことなく、小さな声でつぶやいた。


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