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リンドブルム☆アイズ  作者: 粟吹一夢
Episode−09 受け継がれる記憶と想い出
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Scene:01 賞金稼ぎ

 アルヴァック号は、漆黒しっこくの空間に色とりどりの宝石が浮かんでいるかのようなダルイン恒星系空域を、その第五惑星イリアスに向けて、順調に航海を続けていた。

 そこは、宇宙軍第百四十五師団が警備を担当している空域であったが、一つの恒星系を含む広大な宇宙空間の全域について目を光らせることは不可能なことであり、むしろ定期航路がある空域以外の空域はまったく警備ができていない状況であることは、連邦宇宙軍の実情であった。

 定期便の客船や商船と違い、出発地と目的地が一定ではない探検船や臨時便の商船は、時間と費用を節約するため、わざわざ回り道をしてまで定期航路空域を通ることはなかった。

 アルヴァック号も探査を行った空域から最短距離を通って来ており、定期航路からは離れた空域を航海していた。

 索敵係さくてきかかりがレーダーを注意深く見つめている後ろで、副官席に座っているカーラとサーニャが、今日も暢気のんきにおしゃべりに花を咲かせていた。

「ハシムの野郎のにやけた顔が目に浮かぶぜ」

「本当だにゃあ。お礼に何かご馳走ちそうしてくれるかにゃあ?」

「船長がニコっと微笑ほほえめばイチコロだって」

「それもそうだにゃあ! 何を食べようかにゃあ?」

「肉だ! 肉! 普段、食えないような厚みの肉を食いてえ!」

「二人とも、何、勝手なことを言ってるんですか!」

 副官席に座ったカーラとサーニャの後ろから、シャミルが頬を膨らませながら怒った。

「ちゃんと依頼を遂行すいこうして、最高の結果をプレゼントするんだぜ。ハシムなら色を付けてくれるさ」

「それは、ハシム殿のご厚意に甘えるかどうかであって、二人の言い分では、最初から報酬の中に入っているみたいじゃないですか?」

「まあまあ、ハシムの方から言ってくれたら、船長だって断りにくいだろ?」

「言わそうとしてるんじゃないでしょうね?」

「そんなことなんかしねえよ。なっ、サーニャ!」

「もちろんだにゃあ!」

 カーラとサーニャの満面の笑みを見て、おごりの強要行為が行われることを確信したシャミルであった。

「〇六−十一−八十七の方向から、こちらに向かって来ている船があります!」

 シャミルがカーラ達に説教をしようとしたところに、索敵係さくてきかかりの声が響いた。

 定期航路ではない空域で船に遭遇することはまれであることから、アルヴァック号の艦橋かんきょうに緊張感が走った。

「こちらは公認探査船アルヴァック号! 貴船の船籍をお教え願いたい!」

 シャミルの指示で通信士が相手の船に問い合わせをしたが、答えは返って来なかった。

「回答ありません! それどころか、当船に向かって最短距離で向かって来る進路に変わりました!」

「海賊か?」

「そうでしょうね」

 カーラの問いに答えたシャミルが航海士に回避を指示した。

「〇七−八十七−〇一に転進! 速度は現状を維持!」

 現在の速度を維持しながらコースを変え、相手の出方を見て、追って来るようであれば、間違いなく海賊である。

 果たして、今回の不審船も、進行方向に向かって右に転進したアルヴァック号を追うように進行方向を変え、出力を上げたようで、徐々に距離を詰めてきた。

 しかし、その加速性能から考えると、アルヴァック号が全速を出せば、すぐに振り切れるはずであった。

「〇七−三十五−八十に転進! 距離に注意しながら回り込みます!」

 不審船に背を向けて逃げるまでもなく、相手を斜め後ろに見ながら回り込んで、元のコースに戻ることが可能と、シャミルは判断した。

 その判断は、すぐに正解だと分かった。

 不審船は、五割程度の速度しか出していないアルヴァック号に近寄ることができなかったようで、アルヴァック号は、元々、向かっていた方向に徐々に進路を戻していた。

「〇六−十三−八十四の方向から新たな船が近づいて来ています!」

 索敵係さくてきかかりが、また声を上げた。

 アルヴァック号の真正面の方向から、別の船が向かって来ていた。

「船籍情報を問い合わせてください!」

 シャミルの指示で通信士がその船に問い合わせたところ、今度は、すぐに返信があった。

「こちらは、貨物船協会所属のマーガナルム号である!」

 その通信が入ったちょうどのタイミングで、不審船がマーガナルム号に向かって進行方向を変えた。

 貨物船協会所属の船であれば、満載した積荷を運んでいるはずで、アルヴァック号には追いつけないと判断した不審船が、そのターゲットをマーガナルム号に変えたようだ。

「不審船がそちらに向かっています! ご注意ください!」

 シャミルがマーガナルム号に警告を発信した。

「ご忠告に感謝する!」

 しかし、警告を受け入れたはずのマーガナルム号は進路を変えることなく、不審船は刻々(こっこく)とマーガナルム号に近づいて行った。

「モニター限界に達しました! 映し出します!」

 回り込むコースを取っていたアルヴァック号は、不審船とマーガナルム号との双方と距離を縮めていたことから、ほぼ同時に撮影限界距離に達したその二隻をモニターに映し出した。

 マーガナルム号は、貨物船特有のずんぐりとした卵形の船体であった。

 一方の不審船は、マーガナルム号の約半分の大きさで、黒い船体のあちこちにレーザー砲台を備えている戦闘艦であった。

「あっちは間違いなく海賊船だよ。マーガナルム号はどうしちまったんだよ?」

 カーラが心配するとおり、海賊船が向かって来ているというのに、マーガナルム号は全く回避行動を取らなかった。

「私の忠告に対して、ちゃんと返信もありました。非常信号も出していないことから考えると、……何らかの意図いとがあるのかもしれませんね」

「何らかの意図いと?」

 シャミルの言葉の意味が分からずに、カーラが不審げな顔でモニターを見つめていた間にも、海賊船はマーガナルム号を目視できる距離まで近づいた。

 すると、マーガナルム号の船体表面の多くの箇所で、扉が開くと同時に、レーザー砲台が飛び出てきた。

「な、何だ、ありゃあ?」

「偽装戦闘艦ですね」

「商船の皮をかぶった戦闘艦ということか?」

 海賊船より先にマーガナルム号が発砲し、そのレーザービームが海賊船の船尾エンジン部分に鮮やかに命中した。

 船尾を大きく破壊された海賊船は、航行不能になったようで、慣性により漂いだした。

 マーガナルム号は、その海賊船の下に潜り込むようにゆっくりと近づいて行き、まるで海賊船を背負うようにして船体を密着させた。そして、マーガナルム号の船体上部からつめのような短いアームが出て、海賊船をつかむように固定すると、マーガナルム号は、エンジンを噴射し、ゆっくりと発進をした。

「ああやって、海賊船を背負ったまま航海していくのか? 初めて見たぜ。しかし、軍の艦船じゃないってことは、賞金稼ぎか?」

「おそらく、そうでしょうね」

「いくら海賊が相手だからといって、だまし討ちみたいなのはどうなのかねえ」

 連邦内では、軍事力の保持は、原則的には、連邦軍のみにしか認められていないが、海賊や異常現象といった危険が満ち溢れている銀河の大海原を航海する宇宙船やその乗組員は、許可を得れば武装をすることができた。連邦宇宙軍だけでこの広い銀河の大海原をすべて警備することは不可能であることから認められている自衛のための特例である。

 その特例を利用して、武装した船に乗り込み、海賊の襲撃から商船を守ることを業とする民間護衛業者がいる訳だが、積み荷を強奪された商人や、海賊の襲撃により亡くなった遺族達の中には、個別の海賊に高い賞金を掛けてその討伐をうながしている者がおり、その賞金を目当てに、もっぱら海賊討伐を行う民間護衛業者を、通称「賞金稼ぎ」と呼んでいた。

 専守防衛が本来である護衛業者が、海賊相手とはいえ、積極的に戦闘を仕掛けるがわになるということはそもそも想定されていなかったが、結果として、海賊の殲滅せんめつという目標に近づくこととなる連邦軍としても、その存在を黙認している状態であった。

 しかし、賞金稼ぎの中には、賞金以上の不当な要求を商人に突き付ける粗暴な者や、許可を得た武装内容を越える武器を密かに搭載している違法業者もいたりして、一般的に賞金稼ぎのイメージは良くなかった。カーラのつぶやきは、そのイメージから来るものであった。

 マーガナルム号は、アルヴァック号の前方を同じ方向に向けて航海していた。

「どうやら、あのまま、イリアスに連行するみたいですね」

「追い抜いて行くかい?」

「あの後、どうするのか、気になりますね。ついて行きましょう」

 アルヴァック号の性能であれば、あっという間に抜き去って行けたが、アルヴァック号はマーガナルム号の跡をついて行くように惑星イリアスに向かった。


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