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リンドブルム☆アイズ  作者: 粟吹一夢
Episode-08 仮想現実の国盗り物語
187/234

Scene:13 裏切りの凶刃(1)

「織田信長公に対し征夷大将軍が宣下せんげされました! 日本は、織田家により統一されました!」

 女性の声が、日本中に響いた。

「今から一時間後に、勢力データを書き換えるため、システムが一旦いったん、閉じられます。プレイヤーの皆さんは、その時間までにログアウトしてください。ログアウトしてなくても強制的にログアウトされますが、皆さんのデータ保持のため、可能な限り、事前のログアウトをお勧めします」

 紗魅琉シャミル伽魅琉キャミルは、清洲城下でこのアナウンスを聞いた。

 二人のまわりには、竜之目党の党員が集まり、その偉業をたたえていた。

 その中には、相馬屋そうまやもいた。

「驚いたわ。ほんまにやりおりましたなあ」

「これも相馬屋そうまやさんのお陰です。只で犠牲をいるより、見返りのお金があったからこそ、家老の皆さんも決断できたと思います」

 紗魅琉シャミルから褒められて、相馬屋も照れていた。

「いやいやぁ~。でも、わても織田家と鉄砲の独占納入契約を結ぶことができましたわ。勢力データ変更後は、織田家が最大勢力になっているはずでっしゃろから、わての実入りも大きくなるはずですわ」

「良かったですね」

「あんさんがたのお陰ですわ。ぜひ、リアルでもお礼をしたいくらいですわ」

「ふふふ、お気持ちだけいだたいておきます」


 にこやかに話す紗魅琉シャミル伽魅琉キャミルを取り囲む一団から、少し離れて、小夏と小梅がいた。

「本当に、一日で日本統一しちゃったよ」

「うん。もっとデータを収集したいと言ってたけど、これで無理になっちゃったね」

 その時、小夏と小梅宛てにメールが届いた。

「……本当にやるの?」

「命令だって」

「仕方無いね。どうせ、私達のことは、どこの誰かは分からないはずだし、この後、顔を変える予定だしね」

 小夏と小梅はうなずき合うと、紗魅琉シャミル伽魅琉キャミルに近づいて行った。

紗魅琉シャミルさん! 伽魅琉キャミルさん! やりましたね!」

「すごいですよ! 本当にやっちまうなんて!」

「小梅さん! 小夏さん! お二人には本当にお世話になりました」

「いえいえ~、私達は何もやってないですよ」

「いや、お二人の助けが無かったら、私達も何からして良いのか分からなかったからな」

「うん。お二人のお陰です」

「そんなぁ」

 思い切り照れていた小夏と小梅がうなずき合うと、小夏が紗魅琉シャミル伽魅琉キャミルを見つめながら言った。

「それで、紗魅琉シャミルさん! 伽魅琉キャミルさん!」

「はい?」

「もう、あと三十分もしたら、強制ログアウトされます。紗魅琉シャミルさんも伽魅琉キャミルも、このゲームは、もうしないって言ってたので、たぶん、二度と会えないじゃないですか?」

「最後に、小梅ちゃんの家で、お別れ会をやりたいと思っているんです。せっかく友達になれたのですから、ちゃんとお別れがしたくて」

 小梅も寂しそうだった。

「そうですね。じゃあ、このゲームでの『最後の晩餐』をしましょうか?」

「現実には、お腹に入らないご馳走を食べるか?」

「いくら食べても太らないご馳走ですよ」

「はははは、せっかくだから行こうか、紗魅琉シャミル?」

「そうですね。行きましょう!」

 伽魅琉キャミルとパーティを組んでいた小梅も、伽魅琉キャミルのマサカド退治のおこぼれにあずかり、武将にまで昇進しており、城の近くの上級武士の住宅地にきょを構えていた。

 小梅の家に着き、広い居間に入ると、既に、四つの大きなぜんにご馳走が用意されていた。

「時間が無かったから、街の料理屋さんから配達してもらったんです」

「小梅ちゃんは、料理しようにも、料理スキルが十五しか無いからできないでしょ?」

「ばらすなぁ!」

 小夏に突っ込まれて照れた小梅が、紗魅琉シャミル伽魅琉キャミル上座かみざに座らせると、その前に並んで、小夏と小梅が座った。

 四人は甘酒が注がれたお猪口ちょこを持った。

「じゃあ、紗魅琉シャミルさんと伽魅琉キャミルさんの偉業達成と、私達の素敵な出会いに、乾杯!」

 小夏が音頭を取り、四人はお猪口ちょこを掲げた。

「こんな出会いがあるから、オンラインゲームは止められないんだよ」

「そうだね。リアルで、紗魅琉シャミルさんと伽魅琉キャミルさんにお会いしたいです」

「そうですね」

 小夏と小梅がそれぞれ甘酒が入った徳利とっくりを持つと、席を立って、小夏が伽魅琉キャミルの隣に、小梅が紗魅琉シャミルの隣に座った。

「どうぞ!」

 小梅がおしゃくをするため、徳利とっくり紗魅琉シャミルに差し出した。

 小夏も伽魅琉キャミルにおしゃくをしようとしていた。

「ありがとうございます」

 紗魅琉シャミルが、甘酒をいでもらおうと、お猪口ちょこを持って体をひねった時、背中に激痛が走った。

 一方、伽魅琉キャミルは、小夏の不穏な動きを感知して、本能的に、体を投げ出すように横っ飛びして、回転しながら体勢を立て直した。

 伽魅琉キャミルが座っていた場所には、小夏が脇差わきざしを突き出していた。

「ちっ!」

 舌打ちをした小夏は、すぐに立ち上がり、脇差わきざしを放り投げると、大刀たちを抜き、伽魅琉キャミルに向かって構えた。

 伽魅琉キャミルは、座ったまま崩れ落ちる紗魅琉シャミルの後ろから脇差わきざしを持って立ち上がった小梅を見た。

紗魅琉シャミルに何をした?」

 小梅が持っていた脇差わきざしから、紗魅琉シャミルが刺されたことは分かったが、倒れた紗魅琉シャミルを見て、さすがの伽魅琉キャミルも冷静さを失った。

「貴様ぁー!」

 伽魅琉キャミルは、まず目の前に立ち塞がっていた小夏に刀を打ち込んだ。

 しかし、小夏は伽魅琉キャミルの刀を自分の刀で受け止め、そのまま右に払った。

 そして、小梅も刀を抜き、小夏とともに伽魅琉キャミルに向かってきた。

 そもそも、たかが学生である小夏と小梅が、剣の達人である伽魅琉キャミルの刀を受け止めたことだけでも驚きであるが、二人は鋭く刀を振り回し、伽魅琉キャミルに打ち込んでいた。 

 倒れたままの紗魅琉シャミルが気になったが、二人掛かりの攻撃に防戦一方となった伽魅琉キャミルは、紗魅琉シャミルに近づくことすらできなかった。

「どうして、こんなことを?」

 小夏達の攻撃が一瞬、止まった時、伽魅琉キャミルが二人に訊いた。

伽魅琉キャミルさん、ごめんなさい」

本意ほんいでは無いけど、やらなきゃいけないの」

 二人は、それしか言わなかった。

「その剣の腕前! 学生だと言うのは嘘だったのか?」

 二人は、伽魅琉キャミルの問いには答えず、再び、間合まあいを縮めてきた。

 伽魅琉キャミルが、紗魅琉シャミルを見ると、必死に痛みに耐えているように、顔をしかめて、歯を食いしばっていた。もちろん、血は出ていなかったが、壮絶そうぜつな痛みに襲われているはずだ。

 伽魅琉キャミルに押さえようがない怒りがこみ上げてきた。

「貴様ら! 紗魅琉シャミルに与えた痛みを百倍にして返してやる!」

 しかし、伽魅琉キャミルが前に踏み出そうとした瞬間、自分の体がいきなり重くなった。体中に何トンもの重りを付けられたように、立っていられなくなり、床にいつくばってしまった。

「こ、これは?」

 伽魅琉キャミルは、体が床に張り付いたように、体を動かすことができなかった。

「ふふふふ。伽魅琉キャミルさんにも、紗魅琉シャミルさんと同じ痛みを味わってもらうよ」

 小夏が不気味に笑いながら、伽魅琉キャミルの近くに立つと、伽魅琉キャミルの背中の上で、刀を垂直にして構えた。

うらまないでね。もう少しすれば強制的にログアウトされるよ。それまでの我慢だから」

 既に興味を無くしているように、無気力ささえも感じられる小夏が、刀を伽魅琉キャミルの背中に突き刺した!


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