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リンドブルム☆アイズ  作者: 粟吹一夢
Episode-08 仮想現実の国盗り物語
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Scene:12 将軍宣下

 織田家の軍勢は、美濃みの稲葉山城いなばやまじょうに迫っていた。

 もっとも、織田の軍勢と言っても、竜之目党所属の武士だけで構成される小さな軍団であった。

伽魅琉キャミル殿、大丈夫でしょうか? 竜之目党の兵士達も不安がっているようですぞ。もし、斉藤側の兵士達が防戦に出て来たら、おそらく何人かは逃げますぞ」

「ええ、その約束ですから、皆さんも逃げてもらって良いですよ。私一人で戦います」

「しかし……」

「ゲームで痛い思いをするのは誰も嫌ですからね。しかし、仮に、向こうの軍勢が出て来たとしても、おそらくハッタリですよ」

 凜々(りり)しい若武者のような甲冑かっちゅう姿の伽魅琉キャミルは、乗っていた馬を少し前に出した。

「もっとも、いくさにはならないはずです。紗魅琉シャミルが、きっと、全員を調略ちょうりゃくしてくるはずですから」

「誰かが城から出て来ています! 白旗を上げています!」

 伽魅琉キャミルの言葉が終わらないうちに、斥候せっこうが知らせてきた。

 城の大手門から、紗魅琉シャミルが、斉藤家の家老とおぼしき十数人の武将を引き連れて、馬に乗って出て来た。

「どうやら、紗魅琉シャミル調略ちょうりゃくは、今回も成功したようですね」

 織田家の陣まで十数頭の馬が駆けて来ると、先頭にいた紗魅琉シャミルが馬を下りて、馬上の伽魅琉キャミルそばに立った。

伽魅琉キャミルご家老様! 今川家の家老全員、織田家に仕官すると誓約の上、連れてまいりました」

「う、うむ。ごくろう」

 よそよそしい紗魅琉シャミル口上こうじょうに少し照れてしまった伽魅琉キャミルであった。

 連れて来られた今川家の家老達は、全員、武将に降格され、織田家の家臣となった。

「あと城に残っているのは誰だ?」

「斉藤の殿だけでございます」

「使者を出せ! 降伏勧告をするのだ!」


 家老プレイヤーが全員いなくなった斉藤家は、今川家と同様、ノンプレイヤーキャラクターである当主の人工知能も戦うことの無意味さを判断したようで、織田家に全面降伏し、今川家に続き、斉藤家もあっけなく滅んだ。

 これにより、織田家は、尾張おわり三河みかわ遠江とおとうみ駿河するが美濃みのの五国を領する大大名となった。

 相模さがみ武蔵むさしを領国とする北条家、そして甲斐かい信濃しなのを領国とする武田家と同盟を結んだ織田家は、その軍勢を一気に西に向けた。

 織田家は、その後、わずか三時間の間に、南近江みなみおうみの浅井家、越前えちぜんの朝倉家、伊勢いせの畠山家の家老を全員引き抜いた上、滅亡させた。

 近畿の諸大名家も、今更、織田家に逆らうことの無意味さをさとり、雪崩なだれを打って、織田家に降伏をした。

 もちろん、各家の家老連中も切腹を回避するため、進んで織田家に寝返ってきた。

 その結果、近畿の全域を支配下に置いた織田家は、東海、北陸、美濃地方と併せて三百万石以上の大勢力となった。


「征夷大将軍の宣下せんげを受けるのに、これだけの支配率でどうだろうか?」

「とりあえず、朝廷に接触して、感触をさぐってみましょう」

 紗魅琉シャミル伽魅琉キャミルは、有力貴族である菊亭晴季きくていはるすえ邸の門前にいた。

「右大臣殿にお会いしたいのですが」

 不戦勝ではあるが、度重たびかさなり、先頭に立って、他勢力の攻略をした結果、伽魅琉キャミルは織田家の筆頭家老になり、また、織田信長の官位も従四位じゅよんい左近衛中将さこのえちゅうしょうにまで上がっており、その名代みょうだいとして、紗魅琉シャミル伽魅琉キャミルが面会に来たのだ。

 広いたたみに通された紗魅琉シャミル伽魅琉キャミルが正座をして待っていると、御簾みすが下ろされた正面に、きらびやかな烏帽子(えぼし)直衣(のうし)姿で、白粉おしろいを塗った白い顔に、丸く描かれたまゆの男性が座り、にやりと笑った口から真っ黒な歯が見えた。

「ぷっ!」

 紗魅琉シャミルは、思わず吹き出してしまい、慌てて両手で口をおおった。

紗魅琉シャミル!」

「だって」

麿まろ晴季はるすえじゃ!」

「織田左近衛中将信長の使者としてまいりました伽魅琉キャミルと申します」

「シャ、紗魅琉シャミルで、ご、ございます」

 なかなか笑いが収まらない紗魅琉シャミルも体を震わせながら、何とか無事、口上こうじょうを済ませた。

「うむ! して、本日は何の用じゃ?」

「我があるじ、信長の征夷大将軍宣下せんげにつき、ミカドに上奏じょうそうされたく、お願いに上がりました」

「ほ~う、信長殿を征夷大将軍にのお? 確かに、その領国も他家を圧倒しておるし、官位的にも問題は無さそうじゃな」

「はい! ぜひに!」

「考えてやらぬではないが、麿まろも色々と物入りでのう。おかみ上奏じょうそうするひまが無いのじゃ」

「そ、そうですか」

「じゃが、山吹色やまぶきいろの物を見れば、ひまができるはずなんじゃが」

山吹色やまぶきいろ? 晴季はるすえ様、山吹色やまぶきいろとはどんな色なのでしょうか?」

「何? とぼけておるのか? ほれっ、これくらいの楕円形だえんけいの平べったい形をした奴じゃ」

「……紗魅琉シャミル、分かるか?」

「さあ? 何かのアイテムをどこかで見つけて来なければいけないのでしょうか?」

「何だか分からないな」

 紗魅琉シャミルの方を向いていた伽魅琉キャミルは、晴季はるすえほうに向き直った。

「申し訳ありません、晴季はるすえ様。その山吹色やまぶきいろの物が何か分かりません。絶対に持ってきますので、そのアイテムの名前を教えてください」

「……何を言っておるのだ? 仕方が無いのう。近こう寄れ」

 伽魅琉キャミル紗魅琉シャミル御簾みすの直前まで進み出た。

「もっと近こう!」

 二人は御簾みすの中に入り、晴季はるすえの目の前に座った。

「近くで見ると、二人とも美しいのお。麿まろの女房にならぬか?」

「お断りします!」

 即答の紗魅琉シャミルだった。

「つれないのう」

「その代わり、山吹色やまぶきいろの物をたくさん持ってきますから」

「さようか」

「ですから、ぜひ、その山吹色やまぶきいろの物が何か教えてください」

「頭の悪い者どもじゃのう。ぜにに決まっておろう」

 晴季はるすえ扇子せんすで口元を隠しながら、小さな声で言った。

「……お金ですか?」

「そうじゃ」

「な~んだ。それなら持ってますよ。いかほど?」

「それは、おぬし達の気持ちに従うが良い。おほほほ」

「ですって、伽魅琉キャミル

「まあ、相馬屋そうまやさんから投資してもらったお金を残しても仕方無いし、全部、差し上げることにしよう」

 伽魅琉キャミルが、「トレード」メニューを出し、贈呈金の額を入力すると、目の前に目録が出てきた。

晴季はるすえ様。では、これで、いかがでしょうか?」

「うむ。最初からそうすれば良いのじゃ」

 晴季はるすえは、伽魅琉キャミルがうやうやしく差し出した目録をゆっくりと開いた。

「…………う~ん」

 晴季はるすえは、白目をむいて気絶してしまった。

「あっ、晴季はるえ様! しっかりしてくださいませ!」


 ほどなくして、織田信長は、ミカドから征夷大将軍を宣下せんげされた。



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