Scene:11 御前会議
午後零時。
清洲城において御前会議が始まった。
列席したプレイヤー家老は、伽魅琉を含め、十二名だった。
新参だったが、マサカド退治で名を上げていた伽魅琉が、信長から最初に指名された。
「そちの意見はいかがじゃ?」
「はっ! ここは戦あるのみ! すべての敵を蹴散らしてやりましょうぞ!」
伽魅琉の好戦的意見に同意したのは誰もいなかった。
「伽魅琉殿! 伽魅琉殿は、今の状況が分かっておるのか?」
「分かっているからこそ、日本を統一しようとしているのです」
「ログアウトできないことではない! 痛みを感じるバグのことじゃ!」
「もちろん知っています」
「そのバグが直るという確かな情報が無い以上、進んで戦に参加しようなどと思う者はいませんぞ!」
「そうでしょうね。しかし、我が陣営には、『竜之目党』がいます。今の異常事態を打破するために、自らの命を投げ出す覚悟をしている者どもです」
「……そうであったな」
「兵が集まらないのは、どの勢力も同じです。それであれば、我が竜之目党の百人の軍勢のみでも、合戦では、大きな力となるはずです」
「しかし、他の勢力にも、竜之目党と同じような武士団が無いとは限らない。そして、一旦、宣戦布告をしてしまうと、勝敗が着くまで戦争を止めることはできないのですぞ。ここは各勢力とも穏便に事態の好転を願っている時であり、一人織田家のみが突出することは避けなければならない」
「このままログアウトできなくても良いのですか?」
「このままログアウトできないと言い切れるのか?」
ある程度の地位にある者は、その地位に憐憫としてしまう。織田家の家老達が、どの勢力も兵を起こさないことが予想される今回の日本統一イベントで、無茶をする必要は無いと考えてしまうことも、やむを得ないことだった。
「また、今回、無理をして、周辺勢力と軋轢を残すことになってしまっては、今後のためにならない!」
「現在、織田家は大名家の中では、上位の勢力を保っているが、他のすべての勢力を敵に回すだけの圧倒的な戦力を有している訳ではない。そんな状況で、周辺勢力の全てとの友好度を下げてしまうことは危険だ」
「次のイベントまで、領国内の内政を充実させ、軍事力の増強を図る方が得策かと」
他の家老達からは、合戦見送りの意見が相次いだ。
「他に意見は無いか?」
信長が家老達を見渡しながら言った。
しばらくの沈黙の後、信長が何かを告げようとした時、控えの間から声が掛かった。
「火急の伝言なれば、失礼いたしたい」
「苦しゅうない! 入れ!」
控えの間の襖が開くと、忍者身分の家老と言える忍者頭プレイヤーが座っていた。
その後ろには、紗魅琉も控えていた。
「何事じゃ?」
信長が甲高い声で問い質すと、忍者頭も混乱しているようで、目を泳がせながら報告した。
「今川家の家老が、当家への仕官を求めて参っております」
「寝返りだと?」
「して誰じゃ?」
「そ、それが、か、家老全員でございます」
「何?」
御前会議に列席していた者全員が、呆気にとられてしまった。
「どう言うことじゃ?」
「こちらにおります上忍の紗魅琉が、全員を寝返らせてございます」
「何と!」
「紗魅琉とやら! 近こう寄れ!」
信長に呼ばれて、前に進み出た紗魅琉は、正座をして座った。
「天晴れである! 褒めてつかわす」
「ありがとうございます、お殿様」
「その者は、我が竜之目党の者でございます」
誇らしげに紗魅琉を紹介した伽魅琉は、家老達を見渡した。
「いかがですかな? 今川家には今、家老プレイヤーは一人もいません。軍団を編成することすらできないのです。目の前に、只のご馳走がぶら下がっているにもかかわらず、誰も食べないのですか? 早くしないと他の勢力に食べられてしまいますよ」
今まで、開戦を反対していた家老達は口を開くことができなかった。
「紗魅琉には、これから斉藤家の調略に行ってもらいます。そして、我々は、軍馬を駿府城、そして稲葉山城に進めましょうぞ!」




