Scene:09 人たらし
紗魅琉と小梅達は、堺の街にいた。
紗魅琉達が相馬屋の玄関を入ると、罵声が飛んで来た。
「あんたら! よくも、わての前に顔を出せたもんですな!」
「こんにちは、相馬屋さん」
不機嫌そうな相馬屋の表情を無視して、明るく紗魅琉が返事をした。
「あんたらのせいで大損をこいてしもうたわ!」
「私達のせいで? 私達が何か、しましたっけ?」
「『しましたっけ』じゃないがな! 鉄砲一丁二十貫なんて、めちゃくちゃな値段で買うたくせに!」
「確かに鉄砲一丁二十貫で買いましたけど、相馬屋さんが、その値段で売ってくれたのですよ」
「そりゃそうや! 新しい鉄砲が出るというデマが飛び交ってたからな! でも、よくよく聞くと、そのデマを言いふらしていたのは、そこの二人でっしゃろ!」
相馬屋は、小梅と小夏の二人を指差した。
「言いふらしたなんて言いがかりです! 私達、二人で話していただけですから。ちょっと声は大きかったかもしれないけど」
「こうなることを狙って、大声で話していたんやろ?」
「知らないですよ。南蛮商人さんと話して、実際、私達もそう思ったんですもの」
「うぬぬ」
口をへの時に結んで小梅達をにらんだ相馬屋に、紗魅琉が穏やかな表情で話し掛けた。
「それより、相馬屋さん。今、ログアウトできなくなっていることは、ご存じですよね?」
「もちろんだす。でも、どうせ何かのバグで、そのうち解消されますやろ」
「でも、ゲーム内時間で、一日ほど経過しましたけど、運営から何のアナウンスも無いですよ」
「まあ、そやな。でも、そのうち直るって」
「楽観的なんですね。実時間だと、おそらく六時間ほど経過していることになるでしょうか? きっと、現実の私達の体は、お腹の虫が鳴っているでしょうね」
「ああ、それもそうなあ」
「このまま、実時間で何日もログアウトできなければ、そのまま衰弱死してしまうかもしれませんよ? 相馬屋さんは助けてくれる家族の方と一緒に暮らしているのですか?」
「い、いや、わては一人暮らしだす」
「ログインして、もうどれくらいですか?」
「ゲーム内時間で四日ほどや。実時間だと、……丸一日は過ぎてるなあ」
「ええ、ゲームの中で飲み食いすれば、満腹感が満たされますから、そう言った危機感が湧かないと思いますけど、相馬屋さんの現実の体は、もう息も絶え絶えになっているかもしれませんよ。中の人が死んでしまえば、当然、ゲームを続けることもできませんよね」
「あ、あんた! 何が言いたいんや?」
「今は、それだけ、切迫した状況だと言うことです。相馬屋さんのように、危機感を覚えていないプレイヤーの方が多いですけど、この異常事態が解消される保証はどこにも無いんですよ」
「……それはそうやが。……って、その話をしに、わての所まで、わざわざ来たんかい?」
「はい。そして、この事態を打開するために、私達はある計画を実行中なのです。そして、そのためには、相馬屋さんにご協力いただけると、すごく助かるのです」
「どんなことだす?」
「協力してくれますか?」
「そ、それは内容によるわ! また、大損させられたらかなわんからな!」
「こんな時にも、まだ、儲けのことを考えているんですか!」
小梅が怒った。
「そりゃ、そうや! そりゃあ、ログアウトできないことは、少し不安ではあるが、逆に、絶対にこのままということも考えられんやろ! そう言う状況になっていることが、運営会社から警察とかに連絡が行ってて、運営だけやのうて、色んな組織が解決に当たってくれているはずや。今の科学力をもってして、ログアウトできないままってあり得ないやろ?」
「運営が、すぐに警察とかに連絡するでしょうか?」
「えっ?」
「ゲームに不具合があったことは、できるだけ公表を控えたいって思うんじゃないですか? 可能な限り、自分達だけで解決しようとして、いよいよ、プレイヤーの命にかかわってくると言うほどになってから連絡することが考えられますね。そうすると、実時間で、後二・三日は無理かもしれませんよ」
「……で、あんたが、わてに協力を求めたいこととは何や?」
「簡単なことです。織田家に、と言うより私達の武士団である竜之目党に投資をしてほしいのです」
「武士団に投資? 投資と言うからには、何かしらの利益があるということでっしゃろな?」
「ええ、もちろんです。今度の日本統一イベントで、織田家は日本を統一します」
「何、夢物語をほざいてるんでっか? まだ開始もされていないイベントで、日本統一を果たすやなんて!」
「イベントが終わった後、織田家の勢力は増大しているはずです。その織田家に恩を売っておいて損は無いと思いますけど?」
「あんさん。わての話が聞こえなかったんかいな? 織田家が日本を統一するって、決まってるんでっか?」
「ええ、決まってますよ。相馬屋さんが投資していただければ、より確実になります」
「わてが投資すれば、日本統一が達成されるんでっか?」
「ええ! そして、織田家に投資していた相馬屋さんは、莫大な利益を手に入れることができますよ」
「そりゃそうでっしゃろ。でも、それも織田家が天下を取った場合でっしゃろ? あんさんが確実に天下を取れるなんて言う根拠がまったく分からないんやけど?」
「ログアウトはできずに、戦をすると、実際の痛みを伴うという今の状況からすると、確実です」




