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リンドブルム☆アイズ  作者: 粟吹一夢
Episode−01 惑星ヨトゥーンのラグナロク
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Scene:04 惑星ヨトゥーン(3)

 間もなく、馬車は「ケムル」という小さな街に着いた。

 シャミル達は、木こり達に礼を言って別れた後、宿泊代は後払いで良いという宿屋を探し出して、チェックインをした。

 荷物を降ろしたシャミル達は、すぐに宿屋を出て、街の中を散策した。

 シャミルは、探検家としての本能が沸々(ふつふつ)きだして、手にした小さな端末で映像を保存しながら、保護対象種族の世界を少しでも脳裏に焼け付けようとした。

「見て、カーラ! あれが井戸と言うものですよ。我々のご先祖様もああやって地下から水をみ出していたのね」

「あっ、あれはパンを焼いているのね。……う~ん、良い香り。私達が食べているパンより、ずっと自然に近くて美味おいしそうです」

「まだ動力源を持たない日々の生活って、何だか素敵ね。こんなスローなテンポの生活がやっぱりヒューマノイドには適しているのよ」

 カーラとサーニャの反応はお構いなしに、はしゃいでいるシャミルに、二人の副官達も苦笑しながらも付き合っていた。

 ヨトゥーン族の特性なのか、おのぼりさんのように、あちこち歩き回っては、はしゃいでいるシャミル達を見ても、空気のように気にすることなく、みんな、普段の生活をそのまま続けていた。

 そうしているうちに、街で一番広いと思われる石畳いしだたみが敷かれた広場に出てきた。

 広場のあちこちで、街の人が様々な物を売り買いしていたり、婦人達が立ち話をしていたり、子供達がおはじきのような遊びをしていたりとにぎわっていた。

「ここが良いですね」

 シャミルがあたりを見渡しながら、カーラとサーニャに言った。

「二人とも、ここで人気者になりましょう」

「はあ、どういうことだい?」

 怪訝けげんそうな顔をしているカーラとサーニャには構わず、シャミルは、宿屋でもらった小さな木箱を地面に置いてから、大きな声を出した。

「みなさ~ん! こんにちわぁ!」

 広場にいたヨトゥーンの人達が一斉にシャミル達に注目した。

「私達は北の街から船に乗って来たのですが、船に穴が空いてしまい、荷物もお金も全部、海に沈んでしまいました。でも、只でお金を恵んでくださいとは言いません。これから、ここにいる二人が面白いことをしますので、これはお金を払ってでも見たいと思った方は、ここに置いてある箱にお金を入れてください。よろしくお願いします」

 シャミルは、笑顔でカーラとサーニャに言った。

「いつもの二人を見せてあげてください」

 カーラとサーニャもシャミルの考えていることがすぐに分かったようで、ため息をつきながらも、前に進み出た。

 そして、二人(そろ)って右手を胸に当てながら優雅に一礼すると、いきなり、サーニャが高く跳躍ちょうやくして、カーラの肩に両足で立ったと思うと、カーラはサーニャをまるでボールのように何度も高く放り投げ、サーニャも自らくるくると回転しながら、まるで人間ジャグリングのように宙を舞った。

 ヨトゥーンの世界には、サーカスのような見世物がないのか、あったとしても、この小さな街には来たことがないのか分からなかったが、広場にいた街の人々は大喜びで、やんややんやの拍手喝采であった。

 シャミルが前に置いた箱の中には、見る見るとコインが放り込まれ、溢れるばかりとなった。

 最後に、五メートル以上の高さに放られたサーニャが回転しながら地上に着地して、カーラとともに優雅に一礼をした。

「これで私達も路頭に迷うことはなくなりました。本当にありがとうございました」

 シャミルも丁寧ていねいに街の人達にお辞儀じぎをすると、箱の中にいっぱいになったコインを持っていた巾着袋きんちゃくぶくろの中に入れた。

 街の人達もこの愉快な三人組に興味が湧いたようで、シャミル達を取り囲んで話し掛けてきた。

 適当に話を合わせていたシャミル達であったが、その広場に、まわりの人々とは雰囲気が異なる一団が歩いて来ているのを見つけた。

「まるでエシル教の司祭みたいな格好だね」

 カーラが言った「エシル教」とは、銀河連邦で一番大きな勢力を誇る宗教で、各惑星には必ず教会があるほどであった。

 今、前から歩いて来ている一団は、そのエシル教の聖職者が着ている服とうり二つの衣装を着ており、まるでエシル教の布教団のようだった。

 その一団が歩いて行く先では、自然と人が左右に分かれ、その通り道を開けていた。もっとも、恐れていると言うよりは、尊敬を込めて、その一団に道を譲っているようだった。

 シャミル達もはしに寄って、一団を通り過ごすと、シャミルは近くにいた老年の男性に訊いた。

「あの方々はどなたですか?」

「えっ、あんた、知らないのかい?」

「はい。先ほども言ったとおり、私達は北の街から来たのですが、私達の街では、あのような方々は見たことありませんので」

「あの方々は、フェーデ教会の方だよ」

「フェーデ教会?」

「ああ、最近できた教会なんだが、すごい勢いで信者を増やしているんだ。なんでも教祖様がいくつも奇跡を起こしているらしい。実際にその奇跡を目撃した人がどんどん信者になっているようなんだよ」

「奇跡を……。具体的にはどのようなことを?」

わしもまだ実際に見たことは無いからな」

「この街にも信者の方は大勢いるのですか?」

「もちろん。どんどん増えているみたいだよ」

「お爺様も信者なのですか?」

「いや、まだ入信していないが、息子達も入るって言っていたからなあ」

「この街の教会はどこにあるのですか?」

「ほれ、あの丘の上にある大きな建物がそうじゃよ」

 聖職者の一団が向かっている先の街のはずれには丘があり、その丘の上に、ひときわ大きな建物が建っていた。やはり、ヒューマノイドの美意識は共通するものなのであろうか、見るからに教会と分かる荘厳そうごんな造りであった。

「どうもありがとうございました」

 シャミルは老人に礼を述べると、聖職者の一団を見失わない程度に距離を取りながら、その後をついて行った。

 聖職者達は丘の上の教会に着くと、そのまま教会の中に入っていった。

 シャミル達もそのまま教会まで行くと、教会の前はちょっとした広場になっており、信者らしき多くの街の人がたむろしていた。

 シャミル達が教会のまわりを歩きながら調べてみると、教会の裏手にはさくで囲まれた広大な畑があった。

 さくの中では、数十人のヨトゥーンの人達が、人参にんじんのような赤い色をした植物を土の中から一つ一つ引っこ抜いて、肩からぶら下げた袋に入れていた。


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