表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
リンドブルム☆アイズ  作者: 粟吹一夢
Episode−01 惑星ヨトゥーンのラグナロク
17/234

Scene:04 惑星ヨトゥーン(2)

 シャミルはあたりりを見渡した後、サーニャに言った。

「サーニャ、耳を澄ましてください。木を切っている音がしませんか?」

 サーニャの猫耳は、テラ族の十倍の聴力を持ち、シャミル達が聞き取れないような小さな音も聞き取ることができた。ちなみに嗅覚きゅうかくもテラ族の十倍、目は暗闇でも見ることができ、探検家であるシャミルの目であり、鼻であり、耳であった。

 両方の猫耳に手を添えて集中していたサーニャは、すぐに笑いながらシャミルを見た。

「聞こえるにゃあ。ここから西に三キロというところだにゃあ」

「ご苦労様。それじゃあ行きましょう。あと二キロくらいなら、反重力グライダーの燃料も残っているはずですね」

 三人は再び、反重力グライダーを背負って、低空を西に飛んで行った。

 シャミルの予想どおり、二キロほど飛行したところで燃料が切れて、三人は地上に降り立った。

「サーニャ、まだ音はしていますか?」

「まだ、続いているにゃあ」

「急ぎましょう」

 そう言うと、シャミル達はやや早足になって、西に向けて松林の中を歩いていった。

 しばらくすると、シャミルにも木を切っている音が聞こえてきた。

 ――カーン、カーン、カーン

 音のする方に進んでいくと、ちょっと開けた場所が見えて、二人の中年の木こりが、大きな松の木におのを交互に打ち付けていた。あたりには切り倒した松の木が何本か倒れていた。

「サーニャ。耳を隠してください」

「フードは嫌いなんだにゃあ。耳が折れるから」

 異星人の存在を知らず、テラ族とほとんど同じ容姿のヨトゥーン族に対して、尻尾は服のデザインとして誤魔化すことができるとしても、猫耳は誤魔化しようがないことから、サーニャは嫌々(いやいや)ながらも、自分の服に付いているフードをかぶった。

 ちょうど、一本の松の木が大きな音を立てて切り倒された時、シャミルは、その木こりの近くまで進んで行き、声を掛けた。

「こんにちわ」

 シャミルが、いつもどおりの涼やかな声でその二人の木こりに話し掛けた。

 もちろん、シャミルはヨトゥーン族の言葉を知らないが、異種族との意思伝達法「ラタトスク」は、コミュニケーションを図りたいヒューマノイドの一方が修得していれば有効に作用して、通訳無しで話すことができ、木こり達には、シャミルが話す連邦の公用語が、流暢りゅうちょうなヨトゥーン族の言葉に聞こえているはずであった。

 二人の木こりは振り返ると、いきなり現れた奇妙な三人組を一瞬、怪しんだが、シャミルの美少女ぶりは、その怪しさを感じる感覚をすぐに麻痺まひさせたようだ。

「何か用かい、お嬢さん?」

「北の街から船に乗ってやって来たのですが、船に穴が空いてしまって、何とかこの先の砂浜までたどり着いたのです。船は沈んでしまいました」

「おやおや、それは大変だったなあ。それでどこまで行く予定だったんだい?」

「それが、その地図も海に沈んでしまって……。よろしければ、私達三人をここから一番近い街まで連れて行っていただけませんか?」

「ああ、それは良いが……」

 木こり達は、カーラとサーニャの凸凹コンビが若干気になっているようだったが、本当に困っている顔をしたシャミルを放って行くことはできなかったようだ。

「もう、木は切れたから、我々も街に帰るところだ。一緒に来るかい?」

 あたりには、五本の切り倒された松の木が横たわっていた。

「はい。お願いいたします」

 シャミルは丁寧ていねいにお辞儀じぎをした。

「それじゃあ、切り倒した木を馬車に積み込むので、ちょっと待っててくれ」

「馬車はどちらにあるのですか?」

「あそこだよ」

 木こりの一人が指差した先に馬車が見えた。

「それでは、私の連れがお手伝いします。カーラ、お願いします」

「任しときな」

 カーラはそう言うと、切り倒されていた松の木を二本ずつ両脇に抱えた。

 二人の木こりは目を丸くして驚いたが、とりあえず自分達の仕事を手伝ってくれるということで、深く追及することなく、残りの一本を二人で持って、馬車まで運んで行った。

 馬車に丸太を積み込んで、シャミル達をその丸太の上に座らせると、馭者席ぎょしゃせきに座った二人の木こりは、馬車をゆっくりと出発させた。

 しばらく進むと松林を抜け、一面の田園風景が広がってきた。

 カーラは、去りゆく松林を見つめながら、シャミルに訊いた。

「船長。どうして木こりがいるって分かったんだい?」

「以前、この上空を飛んだ時に、この松林の所々が伐採ばっさいされているのが見えたのです。きっと、この時代だとまき燃料として切り出しに来ているんだろうなって思って。それなら木こりさんもいるはずですよね」

「さすがだにゃあ、船長は」

「でも、街に行ってからどうするんだい?」

「今度の探査は、じっくりと腰をえてしなければいけないと思いますから、とりあえず宿屋を探しましょうか?」

「宿屋って、アタイ達はヨトゥーンのお金を持ってないよ。無銭宿泊をするつもりかい?」

「そんな酷いことはできません。カーラとサーニャに働いてもらいます」

「何をするんだにゃあ?」

「カーラとサーニャじゃないとできないことです」


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ