Scene:14 仕組まれた動乱(2)
パーソナルシールドを装着しているシャミルと副官には、レーザービームが当たっても痛くも痒くもなかったが、無防備なモルグズ族にレーザービームが命中すると致命傷となる。
シャミルは門に向けて走って行き、両腕を広げて、警備兵達の前に立ち塞がった。
「撃つのを止めなさい! 相手は丸腰です!」
「そこをどけ! 攻撃を仕掛けてきたのはモルグズ族の方だ! これは正当防衛だ!」
警備隊長らしき人物がシャミルに対して怒鳴った。
確かに、爆弾を投げたのはモルグズ族の部族から走り出てきた者であり、警備兵側とすれば、第二、第三の爆弾攻撃が無いと判断することはできないであろう。
また、シャミルや副官達だけで、これだけの数の警備兵を制止することも不可能と思われた。
警備兵の説得を諦めたシャミルは、モルグズ族を早く安全な場所まで退避させようと振り返った。
モルグズ族の各部族民は、何が起きたのか理解できずにパニックに陥っているようで、その場から逃げることもできずに、前から飛んでくるレーザービームに恐れおののき、その場で座り込んでしまう者がほとんどであった。
破壊された柵門の近くには多くのモルグズ族の人々が倒れていた。おそらく、最初の爆発で怪我をした者達と思われた。
「アスクさん!」
最も柵門に近い所にいたアスクが血みどろで倒れていた。
シャミルが駆け寄り、上半身を抱え起こすと、まだ息があるようだった。
「船長! 大丈夫か?」
シャミルを心配して、カーラとサーニャが走り寄って来た。
「私は大丈夫です。それより、アスクさんが」
「こりゃあ、まずいな」
カーラもアスクの怪我を見て危険な状況だと判断したようだ。
「カーラ! アスクさんを早く安全な場所に移して治療を!」
「わ、分かった!」
「シャミルちゃん」
気がつくと、ノラルが近くにいた。
「アスクは?」
父親代わりのアスクのことが心配でやって来たのだろう。
「ノラルちゃん! ここは危ない! アスクさんはすぐに安全な所に移すから、一緒に逃げて!」
サーニャも協力して、意識の無いアスクをカーラが背負い立ち上がった。
「行くぜ!」
「ノラルちゃんも早く!」
シャミルがノラルに手を差し伸べたその時! ――レーザービームがノラルの体を貫いた!
「ノラルちゃん!」
倒れたノラルは身動きしなかった。
すぐにシャミルが跪き、ノラルを抱え起こしたが、胸から大量に出血しており、息をしているようではなかった。
「ノラルちゃん! ノラルちゃん!」
繰り返し名前を叫んでも、ノラルは目を開けることはなかった。
「船長! 早く!」
「船長!」
カーラとサーニャが呼び掛けても、シャミルはノラルを抱き締めたまま動こうとしなかった。
「……許さない」
「えっ?」
「許さない! オレイハルコンなんて、たかが鉱石が、人の命よりも重いはずがありません!」
キッと顔を上げたシャミルは、高くそびえる鉱山プラントをにらんだ。
「あんな物、無くなってしまえば良いのです!」
「おや、あれは?」
キャミルが、艦橋モニターを凝視していたレンドル大佐の視線の先を見ると、オレイハルコン鉱山の門前に青い光が見えていた。
その光にキャミルは見覚えがあった。
その光はどんどんと強くなり、艦橋モニターで見ていても、眩しくて直視できないほどであった。
「艦長! 鉱山プラントが!」
艦橋スタッフの声に、キャミルが、別のモニターに映し出されている超高層ビルのような鉱山プラントを見ると、それは映像が乱れているかのように、あちこちが歪んでいた。
そして、見えない大きな手で、雑巾のように捻られているように曲がったかと思うと、ひび割れ、まるで腐った樹皮が剥がれ落ちるように、ボロボロと崩れ始めた。
さすがのレンドル大佐もぽかんと口を開け、その光景に見入っているだけであった。
鉱山プラントはあっという間に崩れ去り、跡には瓦礫の山が築かれているだけであった。
「いったい、何が起きたのだ?」
レンドル大佐の独り言のような問い掛けに、キャミルは心の中で答えを返していた。
この不思議な光景を見ている間、ずっとシャミルが近くにいる時に感じる感覚を覚えていたキャミルが正面の艦橋モニターに目を移すと、青い光はもう消えてしまっていた。
「何だ? いったい何が起きたんだ?」
カーラが発した問いは、そこにいたみんなが問いたかったことだった。
「船長! 大丈夫かにゃあ?」
シャミルの体が青く輝きだして、目を開けていられないほどだったが、その光も収まり、シャミルも元通りでいたことで、安心をしたサーニャがシャミルに近づいて来た。
「ええ、私は大丈夫です。……って、何があったんですか?」
「にゃに? 船長、憶えてないのにゃあ?」
「えっ、何を?」
「何をって、船長の体が、また青く光り始めたと思ったら、ほれっ、あそこにあった高い建物があっという間に崩れてしまったんだよ」
カーラが指差した先の光景を見て、シャミルも驚いてしまった。
「あら、本当だ」
「何だよ、その脳天気な反応は? アタイは、てっきり、船長がやったのかと思ったぜ」
「私が? そんなこと、できる訳ないじゃないですか」
「まあ、そうだよな」
「う~ん」
小さなうめき声が聞こえた。
シャミルが抱きかかえているノラルが弱々しく目を開けた。
「ノラルちゃん!」
「……シャミルちゃん?」
シャミルがノラルの胸を触ると血は出ていなかった。
「ノラルちゃん、痛くない?」
「どこが?」
「胸が」
「……ううん。全然痛くない」
「そ、そう」
あれほど大量に出血していた傷が跡形もなく消えてしまっていた。
「ここは?」
カーラが背負っていたアスクも気がついたようだが、なぜ、カーラにおんぶされているのか分からなかったようだ。
しかし、その顔色は良く、傷も血も消えてしまっていた。
アルスヴィッドから、キャミルとマサムネが指揮を執る精鋭百名の兵士が降り立ち、素早く、鉱山敷地内に展開をした。
「警備兵が攻撃を仕掛けてきたら応戦しても良いが、できるだけ降伏するように勧告しろ!」
しかし、鉱山の警備兵達も、鉱山プラントの破壊の様子を見て怖くなったのか、建物の中に逃げてしまったようで、柵門の近くには誰もいなかった。
シャミル達の近くにキャミルが近づいて来た。
「シャミル! 無事か?」
「キャミル! はい、このとおりです」
シャミルは立ち上がって、手足を伸ばして見せた。
「良かった。ここの治安はこれから我々が守る。怪我人の治療を最優先させてくれ」
「そうですね」
シャミルの近くにいたアスクとノラルは、不思議なことに怪我が全快していたが、それ以外の部族民には重傷軽傷の者が多数出ていた。
「シャミル。門を爆破したのは、モルグズ族なのか? アルスヴィッドのモニターだとそこまでは分からなかったんだ」
「モルグズ族の中から走り出た男性が爆弾を投げました。でも、おそらく、モルグズ族ではないでしょう。そもそもモルグズ族は火薬の知識をまだ持っていません」
「するとグローイ族か?」
「いいえ。きっと、この星に関与したくてたまらない人達でしょうね」




