Scene:12 動き始めた「新たな計画」
命により惑星ブラギンにやって来たキャミルであるが、ずっと、ドーマルディの宇宙港での待機が続くと、さすがに気持ちが倦んできていた。
たまに街に繰り出してはみたが、シャミルのような趣味は持ち合わせていないキャミルの退屈を吹き飛ばしてくれるようなことはなかった。
一方、レンドル大佐は、国防長官を乗せて来た時には貴賓室に模様替えしていた会議室の一角に、専用のヴァルプニール通信機を運び込ませて、鍵を掛けて締め切った部屋の中に一人でいた。
おそらく、配下の工作員と連絡を取り合っているのだろう。
しかし、待機を始めて、三日後。
レンドル大佐は出航を命じた。
当初の計画どおり、行き先はオレイハルコン鉱山であった。
アルスヴィッドほどの大きさの船が、惑星大気圏内で一定速度を超える高速を出すと、大気に震動を起こしてしまうため、超微速で目的地に向かって飛んで行った。
「アングルボーザ対策の『新たな計画』がいよいよ始まりました。今回の作戦遂行の全権限は私に委任されています。今後は、私の指示に従ってください」
「分かりました」
艦長席に座ったキャミルの側に寄って来たレンドル大佐が声を潜めながら話し掛けてきた。
「オレイハルコン鉱山のすぐ近くに着陸して、同鉱山をテロから守ることが任務です。まあ、ギャラクシー級戦艦がそびえ立っているだけで、かなりの抑止力になるでしょうから、当面、何かをするということは無いでしょうが」
「テロの情報があると?」
「ええ、モルグズ族の部族長会議が近日中に開かれるようですが、そこでモルグズ族の各部族が団結して、オレイハルコン鉱山を襲撃するという噂が流れていましてね」
「モルグズ族が? 以前におうかがいした話だと、グローイはモルグズ族に特段の圧政を敷いているようなことはおっしゃっていませんでしたが?」
「グローイがモルグズ族から搾取したり、その自由を束縛したりはしていませんが、オレイハルコン鉱山は、モルグズ族の聖地を取り込んでいるのですよ」
「モルグズ族の聖地?」
「ええ、モルグズ族がフリーズキャルヴと呼んでいる土地なのですが、そのほとんどがオレイハルコン鉱山の敷地となっているのです」
「それは、グローイ族がモルグズ族の聖地を侵略していることと同じではないのですか?」
「モルグズ族から言えば、そうなるでしょうな」
「それであれば、オレイハルコン鉱山がモルグズ族に襲われたとしても、グローイ族にとっては自業自得なのでは?」
「まあ、そこは外国の内政問題ですからなあ」
キャミルに一つ疑問が生じた。
「大佐殿。オレイハルコン鉱山はアングルボーザの財源であるとおっしゃっていましたね?」
「ええ」
「我々がそのオレイハルコン鉱山を守るのですか?」
「そうです。我々が直接攻撃できる訳がありません」
アルスヴィッドが直接、手を下せば、連邦とグローイ共和国は戦火を交えることになることは必至である。
「しかし、被征服民の反乱を滞りなく実行させることの手伝いをすることはできます」
「そ、それはどう言う……?」
「おっと、もう着いたようですな」
艦橋の正面モニターに、砂漠のど真ん中にそびえる巨大なプラントが映っていた。
地中深くにあるオレイハルコン鉱脈まで掘られた縦穴を覆う、鉱石搬出用のエレベーターなどを含む建築物が超高層ビルのようにそびえ立ち、それから少し離れた場所に、ほぼ円柱形の大きな岩が、プラントの五分の一ほどの高さで砂漠から生え出たようにあった。
そして、その岩を含む広い範囲の土地が高い壁で囲まれていた。
「あの大きな岩がフリーズキャルヴです。あの中に空洞があって、モルグズ族の神が祭られているようですな」
「あれでは、モルグズ族はフリーズキャルヴに行くことができないではないですか?」
「そうです。モルグズ族がここを襲う十分すぎる動機にはなりますな」
「では、そのモルグズ族の襲撃を黙って見過ごせと?」
「ふふふ。さて、どうなりますか? まあ、しばらく高みの見物といきましょうか」




