Scene:08 自らを賭けたカードゲーム(3)
ドブルダが五枚のカードをテーブルに晒した。
「三枚二枚揃だ」
ドブルダの顔は既に勝利を確信していた。
しかし、シャミルは微笑みを絶やすことなく、手持ちのカードを晒した。
「連続同図柄です」
「な、何! そんな馬鹿な?」
「勝負は時の運です。『馬鹿』なことはないと思いますが?」
「ぐっ!」
「それとも、ドブルダさんが負けないような細工でもされていたのでしょうか?」
「貴様!」
その言葉が合図だったかのように、ドブルダの後ろに控えていた男達が一斉に剣を抜いた。
もちろん、その時には、キャミルとマサムネ、そしてカーラも既に剣を抜いていた。
「博打に負けて逆恨みか? 先に剣を抜いたのは貴様達の方だ! 正当防衛で切ることもできるぞ!」
キャミルやマサムネから発せられる剣の達人としての威圧感が感じられたのか、男達は斬り掛かってくることはなかった。
「ドブルダさん。私の勝ちです。約束は果たしていただけますよね?」
シャミルは席についたまま、いつもの穏やかな声でドブルダに迫った。
「……どんなことだ?」
「私達の邪魔をしないでください。それだけです」
「……邪魔とは?」
「砂漠での捜索作業を妨害することです」
「……」
「あなた方は誰かから指示を受けて行動しているのですか?」
「……」
「だったら、あなたの上司の方に正直に話されたらいかがですか? 賭ポルカをやって負けたと」
「ふっ、ふははははは! 本当に面白いお嬢ちゃんだ。分かった。俺もアングルボーザのドブルダだ! 一度交わした約束を違えることはしねえ! だが」
「だが?」
「あんたらの邪魔はしないが、捜し物は続けさせてもらうぜ」
「捜し物? ひょっとして、私達と同じ物を捜していると?」
「ああ、そうだ」
「連邦の商人であるヒルデタント商会の落とし物ですよ。あなた方には関係は無いと思いますけど?」
「中身なんて知らねえ。俺達は上から命令されたことをやるだけだ。俺達もその落とし物を捜せと命じられているだけで、あんたらに先に捜し出されないように、ちょっかいを出していたが、あんたと約束したから、これからは俺達が先に捜し出すことに専念するぜ」
「約束を守っていただいて、ありがとうございます。あっ、それで、もう一つお願いがあるのですけど?」
「何だ?」
「私達は、これからオムリのソテーを食べることにしてますので、その間、少し静かにしておいていただければ嬉しいです」
「残念ながら、こいつらは静かに飲むことができない連中なんだ。だから、別の店で飲むよ」
「すみません。追い出したみたいで」
「追い出したんだろうが!」
ドブルダもシャミルの不思議な魅力に怒る気力も失ったようで、思わず苦笑しながら文句を言った。
「まあ、ゆっくり味わいな」
ドブルダ達がぞろぞろと店を出て行くと、BGMが流れる静かな店となった。
シャミル達は最初に座ったテーブルにつくと、早速、キャミルが訊いてきた。
「シャミル! 最初から勝算があったのか?」
「そうでなければ勝負を挑んだりしませんよ」
「しかし、どうやって?」
シャミルは、ベルトポーチを開くと、ポルカのカードの束を取り出した。
「これは?」
「このテーブルに座った時、私の椅子の前に置いてあったんです。おそらく、私達が来る前に誰かが遊んでいたのでしょう。気づきませんでしたか?」
「いや、奥で騒いでいたドブルダ達に注目していたからな」
「何かに使えるかもと思って、すぐにこのポーチの中に隠したんです」
「そ、それじゃあ、今のは、いかさま?」
「まあ、向こうもしてましたから、化かし合いでしたね」
「ドブルダもいかさまをしていたのか?」
「ええ、最初の練習の時に分かりました」
「まったく分からなかったのだが」
キャミルを始め、シャミル以外の者はみんな分からなかったようだ。
「上着のポケットに予備の札をワンセット入れていて、配られた手札を見て、ポケットからペアになる札を取り出していたんです」
「シャミルも同じように?」
「はい。配られた手札を見て、ポーチから素早くカードを抜いて、カードの山から取ったと見せ掛けて、そのカードと交換してたのです」
「いつの間にそんな技を身に付けたんだ?」
「見よう見まねです」
「どれだけ器用なんだ」
キャミルも呆れてしまっていた。
「でも、キャミル。アングルボーザって?」
「ああ、……まあ、別に秘密にするまでのこともないだろう。このグローイ共和国の中枢にまで影響を及ぼしている犯罪組織のことだ」
「その犯罪組織が、どうして、ヒルデタント商会の落とし物を捜しているのでしょう?」
「私がこの惑星にいることと関係があって、詳しくは教えてあげられないが、その中身はグローイ共和国の反アングルボーザ派勢力に関連があるということだ」
「よく分かりませんが、少なくともアングルボーザが機密文書格納用保護箱を先に手に入れて、その内容を知りたいと言う理由はあるということですね?」
「まあ、そういうことだ」
「分かりました。ドブルダさんも約束を守ってくれると良いのですが」
「今の様子だと、少なくともシャミル達の邪魔はしないのではないかな」
「そうですね。私は、依頼どおり、その機密文書格納用保護箱を淡々(たんたん)と探すだけです。それより、キャミル、お腹空きましたね」
「そうだな、……て、まだ注文してなかったな」
「あっ! そうでした」




