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リンドブルム☆アイズ  作者: 粟吹一夢
Episode-07 砂に埋もれた自由への鍵
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Scene:08 自らを賭けたカードゲーム(2)

 シャミル達が店に入ると、それほど広くはないホールに、いくつかテーブルが置かれていたが、ほとんど客はおらず、店の奥に、グローイ族の男達がテーブルを並べて騒いでいた。

 どうやら、テーブルについている二人がカードを使ったゲームをしているようで、その周りに立っている男達がその二人をはやし立てているようだった。

 シャミル達は、入口に近いテーブルに座ったが、キャミルとその副官の軍服は、この店の中で目立ってしまうことは仕方が無かった。

 男が二人、シャミル達のテーブルに近づいて来た。

「何だ! 銀河連邦の軍人が何の用だ?」

「食事をしに来ただけだ。ここは外国人お断りなのか?」

 キャミルは、ちょうど、お冷やを持って来ていた店のマスターに向かって訊いた。

「い、いえ、そういう訳ではありません」

 マスターは、汗を手でぬぐいながら言った。

「何だ、お前は? 本当に軍人なのか?」

 近くでキャミルを見た二人の男は、その余りの若さに偽物の軍人だと思ったようだ。

「そうだ! そういうお前達は何だ? 静かに食事をしたい客の迷惑だ!」

「何だと!」

「外国軍人に暴行を働くつもりか? 外交問題になりかねないぞ」

 先に手を出した方が負けであったが、突っ掛かって来ていた二人の男はそこまで頭が回らなかったようだ。

「野郎! ちょっと可愛い顔していると思って、下手したてに出たら、つけ上がりやがって!」

「待て!」

 奥のテーブルの真ん中に座りカードゲームをしていた、一際ひときわ体の大きな男がドスの利いた声をあげると、二人の男は、電池が切れたかのように、ピタッと動きを止めた。

 大きな男が席を立ち、シャミルの方に近づいて来ると、まわりにいた男達も、腰巾着こしぎんちゃくのように、ぞろぞろとその後ろについて来た。

 キャミルとその副官達もそれを迎え撃つように立ち上がり、しばらくにらみ合った。

「ほ~う、それほど若いのに偽物じゃないとは、何者だ、貴様?」

「銀河連邦宇宙軍少佐キャミル・パレ・クルスだ!」

「少佐だと! 面白い!」

「そっちも名乗ったらどうだ?」

「俺か? 俺はドブルダだ」

「お前がこいつらのボスか?」

「まあ、そう言うことだ。だから、格好悪いところは見せられないんでな」

 そう言うと、ドブルダは短剣を抜いた。

「グローイ共和国政府の承認を得て来ている外国軍人を傷つけたなら、傷害罪だけでは済まないぞ!」

「ふはははは! それがどうした! 俺達は法律などにしばられないぜ」

「お前達は、……アングルボーザか?」

「ほう! 外国にも俺達の名前が知れ渡っているのか? うれしいじゃねえか」

「お前達の思いどおりにはさせないぞ!」

「ここはグローイだ! よそ者のお前達の方こそ出て行け!」

「お取り込み中、失礼します」

 にらみ合っているキャミルとドブルダの間に、シャミルがちょこんと入り込んだ。

「シャミル! 危ないから下がっていろ!」

「こんなつまらないことで喧嘩けんかなんてしたら、キャミルだって困るでしょ?」

「困ることなど無い!」

「まあまあ、ここは私に任せてください」

 そう言うと、シャミルはドブルダに一歩近づいた。

「こんばんは」

 呆気あっけに取られていたドブルダも、すぐに、シャミルの美貌びぼうに目が奪われたようだ。

「これは、これは! グローイでも見たことがないくらいのべっぴんさんだ!」

 ドブルダはシャミルに一歩近づいて、めるようにその全身を見渡した。

「良い女だ。お前はこの女軍人の連れなのか?」

「ええ、そうです。シャミル・パレ・クルスと申します」

「シャミルか? 俺達と一緒に飲みたいのなら歓迎するぜ」

「いえ」

 シャミルは立ち位置を横にずらすと、首をかしげて、奥のテーブルを見つめた。

「あのテーブルでは、何をされていたのですか?」

 男達が全員、奥のテーブルの方に振り向いた後、すぐにシャミルの方に向き直った。

「ポルカというゲームさ」

 奥のテーブルの上には、トランプのようなカードが無造作に配られていた。

「面白そうですね。ちょっと、教えていただけますか?」

「そ、そうか? 良いぜ」

 シャミルが、つかつかと奥のテーブルに向かうと、ドブルダと手下達がぞろぞろとついて行った。

 キャミル達も心配になって、その後について行った。

「じゃあ、そこに座りな」

 ドブルダが今まで座っていた椅子に座ると、その対面の椅子をシャミルに勧めた。

「シャミル! どうするつもりだ?」

「まあ、見ていてください」

 キャミルに小さな声で答えたシャミルは、ドブルダの前の席に座り、そのまわりを取り囲むように、キャミルや副官達がシャミルの後ろに立った。

「お嬢ちゃん。やるのは良いが、これは、ままごとでやってるんじゃねえぜ。金を掛けてやってるんだ。金は持ってるのか?」

「少しなら」

「少しじゃ参加できないな。ほれ!」

 ドブルダは手元に積まれていたグローイ金貨の山を押し出した。

「これくらいは持ってないとな」

「そんなには持っていません」

「じゃあ、どうだい? あんたの体をけるっていうのは?」

「何!」

 シャミルのすぐ後ろにいたキャミルがエペ・クレールを抜こうとしたが、シャミルが手を横に伸ばして制止した。

「キャミル。心配いりません」

「しかし」

「ドブルダさん、それで結構です」

 シャミルは、ドブルダの目をしっかりと見つめて、毅然きぜんとした態度で言い放った。

「ふははははは。面白い! それなら俺はこの手元にある金貨を全部掛けてやる。いや、お嬢ちゃんの体ならそれでも足りないくらいだな」

「私は金貨はいりません。その代わり、私が勝ったら、私のお願いを聞いていただけますか?」

「どんな願いだ?」

「それは、勝った時に言います。命をくださいなんて言いませんから、ご心配しないでください」

「ふははははは。分かったぜ」

「何を考えているんだ、シャミル?」

「本当に勝てるのか?」

「もし、負けたらどうするつもりなんだにゃあ」

「みんな、心配いりませんよ」

 後ろに並んだキャミル達を見渡してから、シャミルはドブルダを見つめた。

「ドブルダさん。私もポルカのルールは、こちらに来てから調べて、何となく知ってはいるのですが、するのは初めてなんです。一回、練習させていただけませんか?」

「良いだろう」

 ポルカは、連邦のカジノでも盛んに行われているポーカーがグローイ共和国に伝わり、グローイ共和国に元々あったゲーム用カードを用いて遊べるようにアレンジされたもののようで、ルールはほとんど同じであった。

 ドブルダがトランプのようにカードをシャッフルして、自分とシャミルにそれぞれ五枚のカードを配ると、残りのカードの山をテーブルの中央に置いた。

「お嬢ちゃんが先攻で良いぜ」

「では、四枚変えます」

 シャミルは手持ちのカードから四枚を捨てて、カードの山から四枚を取った。

「俺は三枚だ」

 ドブルダも同じようにカードを変えた。

「ドブルダさんからどうぞ」

三枚揃スリーカードだ」

 ドブルダは、不敵な笑みを浮かべながら、テーブルに五枚のカードをさらした。

「私は、……残念、一枚揃ワンペアでした」

 シャミルのカードには、同じ数字のカードが二枚しか無かった。

「へへへへ、お嬢ちゃん。俺も無慈悲むじひな男じゃないんだ。降りるんなら降りても良いんだぜ」

「いいえ、勝つ自信がありますから」

「ははははは、馬鹿なのか無鉄砲なのか知らねえが、面白いお嬢ちゃんだ。なら、行くぜ」

「はい」

 ドブルダがテーブルのカードをまとめて、シャッフルした。そして、交互に五枚ずつカードを配った。

「先ほどは、ドブルダさんが勝たれたのですから、ドブルダさんからどうぞ」

「そうかい? じゃあ、遠慮無く」

 ドブルダは二枚のカードを捨てると、カードの山から二枚を取った。

「私の番ですね」

 シャミルは四枚のカードを交換した。

「勝負だ」

「はい」


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