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リンドブルム☆アイズ  作者: 粟吹一夢
Episode−01 惑星ヨトゥーンのラグナロク
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Scene:03 酒場サラバニ(5)

「どのように?」

 軍の関与も必要になるかもしれないという思わせぶりなハシムの言葉に、キャミルもヨトゥーンに対する興味が出てきたようだ。

「実はな、先発の探検隊が行方不明になってから、ヨトゥーンの空域に海賊達が頻繁ひんぱんに出没するようになっていた。特段、商船なんかが数多く通っている空域でもないのにな」

「ハシムは実際に海賊達を見たのか?」

「いや、商人仲間の噂さ。しかし、噂って言ったって馬鹿にしちゃいけないぜ」

「確かに、あちこちの空域を行き来している商人達の噂は重要な情報源の一つではあるがな」

「保護対象種族が居住している惑星は、連邦軍の特別警戒対象となる。そうだな、キャミル?」

「ああ、法を犯して保護対象種族に接触しようとするやからがいないとは限らないからな」

「今は、ヨトゥーンにも警備艦隊が張り付いているんだろう?」

「そのはずだ」

「つまり、現在のヨトゥーンには軍の警備艦隊が張り付いていて、誰も近寄れないってことだ」

「当然だな」

「つまりさ、現在のヨトゥーンは軍が、保護対象種族の存在が分かるまでは海賊達が、ヨトゥーンに誰も近寄らせていないってことさ」

「どういう意味だ?」

「要するに、ヨトゥーンには見られたら困るようなものがあるんじゃないかって勘ぐってしまう訳よ」

「それは相当うがった見方だろう」

「もう一つ、怪しいことがある。ヨトゥーンの隣の空域に、ルムニルという惑星がある。ヨトゥーンを警備している艦隊の補給基地があるところだ。そこで、やはり商人仲間が不思議な光景を見たらしい」

「どのような?」

「警備艦隊のはずなのに、なぜか大型の輸送艦が停泊していたそうだ」

「輸送艦が?」

「ああ、一体全体、どこに何を運んでいるんだろうな? 怪しいだろう?」

「確かに」

「保護対象種族との接触を避けるため、その惑星は連邦政府の許可を得ない限り、立ち入りが禁止されるよな。そして仮に許可を得たとしても、その惑星からは草一本持ち出してはいけないはずだ。そうだろう、シャミル?」

「そうですね。惑星開発基本法二百五十四条四項に規定があります。『連邦から保護命令を受けた惑星からは、いかなる物質もその惑星外に持ち出してはならない。ただし、連邦惑星開発省の許可を得た場合はこの限りではない』とあります」

「法律の条文がすらすら出て来るなんて、さすが、シャミルだ。インテリ女子は俺の萌え対象なんだよなあ」

「お話を続けてください」

 シャミルは微笑みを絶えさずに言った。

「しゃあねえな。シャミルとの甘い語らいは後のお楽しみに取っておくか」

 ハシムは真剣な顔つきに戻って話を続けた。

「その軍の輸送艦はルムニルとアスガルドを往復しているらしい。しかも、輸送艦が着陸したアスガルドの宇宙港には、ボルディン商会の輸送車が何台も来ていたらしい。ルムニルって惑星には、医薬品の原料になるような産物はこれといって無いはずなんだ」

「まさか、ヨトゥーンから何かを輸送しているのではないかと?」

「ああ、そう考える方が合理的だろう?」

「しかし、お前は、本来の商売もせずに、ボルディン商会の監視ばかりしているんじゃないのか?」

 キャミルがややあきれた様子でハシムに訊いた。

「俺だって、そんなに暇人ひまじんじゃないぜ。商人には商人のネットワークがあって、有料無料で価値ある情報がいくらでも手に入るのさ」

 ハシムの話が一段落したところで、シャミルがハシムに訊いた。

「それで、私への依頼を具体的に言うと、どのようなことでしょうか?」

「もう一度、ヨトゥーンに行ってほしいということさ」

「おい! 今、お前が言ったように、現在のヨトゥーンは立入禁止だ。アタイ達に法を犯してヨトゥーンに入れと言うのか?」

 カーラが憮然ぶぜんとした表情でハシムに言ったが、ハシムはシャミルから視線をはずすことはなかった。

「そうだ。シャミル、君も探検家なら、保護対象種族との接触ということには、魅力を感じているんじゃないのか?」

「正直なところ、おっしゃるとおりです。しかし、リスクが大きすぎます。もし、違法接触が分かれば、懲役五年、罰金五十万ヴァラナートという刑罰に処せられます」

「違法じゃないようにするのさ」

「どのようにして?」

「方法は後から知らせる。連邦軍人がいる前じゃ、ちょっと話しづらいんでね」

 ハシムは、ちらっとキャミルを見た。

「シャミルを犯罪者にするつもりか? ハシム!」

 キャミルは剣のつかに手を掛けながらハシムをにらんだ。

「おいおい、キャミル。キャミルはシャミルを信頼しているんだろう? キャミルが会ったばかりの人間とすぐに親しくなることは珍しいからな。だったら、シャミルの判断も信頼できるってことじゃないのか?」

「うっ……」

 ハシムの言葉にキャミルは反論をすることができなかったようだ。

 シャミルは、ハシムの依頼で一つだけ理由が分からなかったことをハシムに訊いた。

「ハシム殿。一つ確認させてください。あなたの依頼を私が遂行すいこうしたとして、あなたにはどんな利益があるのですか?」

「人間、利益だけで動くと思っているのか?」

「でも、あなたは商人でしょう?」

「……はははは。違いねえ。利益はあるよ、確かにな」

「どのような?」

「商人にとって、他の商人は全て商売敵しょうばいがたきだ。自分以外の商人が一人でも没落することは利益なんだよ。もし、ボルディン商会のような大きな商会が解散なんてことになったら、その事業を継承する権利を得ようと、ハイエナのように商人達が群がってくるはずだ。俺もそのハイエナの一人さ。いや、一匹かな」

「なるほど、理解できました。少し興味も湧きました。詳しくお話をお伺いしましょう」

 ハシムは手を打って喜んだ。

「さすがは俺が目を付けた女だ! なあ、シャミル! 依頼を遂行すいこうしてくれたあかつきには、報酬の他に特別ボーナスを出すぜ。ワイハっていう惑星は知っているか?」

「有名なリゾート惑星ですね」

「ああ、そこの超高級リゾートホテルのスイートを押さえるから、ゴージャスな夜を過ごそうぜ」

「素敵ですね。では、カーラとサーニャも同じ部屋に泊めていただけますか?」

「それは良い。おい、当然、酒は飲み放題なんだろうな?」

「デザートも食べ放題なんだにゃあ?」

「おいおい」

 困った顔をしたハシムを横目に、シャミルは微笑みながら言った。

「ハシム殿。今日はキャミルと知り合うことができた嬉しい日です。ビジネスの詳しい話は、のちほどお聞きすることでよろしいでしょうか?」

「ああ、もちろん。よっしゃ、そんなにめでたい日だったら、俺も一緒にお祝いさせてくれ。とりあえず乾杯するか?」

 全員が杯を上げてうたげが始まった。

 シャミルとキャミルも微笑んで見つめ合いながら、グラスを合わせた。


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