Scene:02 破格の依頼
惑星探査の依頼を無事終え、依頼主の商人の元に向かっていたアルヴァック号の艦橋では、副官席に座ったサーニャの足元で、赤ん坊のように座ったピキが前足を器用に使って、ご飯代わりのクッキーをかじる、サクサクという音が響いていた。
「しかし、ピキの奴、偏食も甚だしいだろ」
副官席に頬杖を突いて、ぼんやりとピキを見つめながら、カーラが呟いた。
「仕方が無いにゃあ。肉も魚も食べないんだからにゃあ」
ピキの親代わりであるサーニャが、ピキを擁護する。
「よく虫歯にならないもんだな。歯磨きだってしてねえだろう?」
クッキーを食べ終わったピキは、満足そうにお腹をさすり、猫のように前足で口の周りをこすった後、立ち上がり、足と同じくらい大きな尻尾を使って、よちよちと二本足で歩きながら、船長席に座ったシャミルの足元までやって来ると、その体型からは考えられないほど身軽にシャミルの太腿の上に飛び乗ると、シャミルを背もたれにするように座った。
ピキが寝る時は、サーニャの足元で丸くなって寝るが、眠くなるまでの間は、シャミルに抱っこされるように座るのがピキのお気に入りになっていた。
「へへへ。サーニャよりも船長の方が好きみたいだな」
「ウチよりもカーラの方が好きみたいなら面白くないけど、船長なら納得するにゃあ」
「何だよ、そりゃ! アタイだってピキを呼べば、尻尾を振ってやって来るはずだぜ」
「そんなに言うんなら、やってみるにゃ!」
カーラは立ち上がり、船長席の前に進むと、愛想笑いを浮かべながら、ピキに話し掛けた。
「おい、ピキ! おいで! 船長の太腿よりアタイの太腿のようが座り心地が良いぜ」
ピキはカーラを一瞥しただけだった。
「にゃははは! カーラの太腿は固くて、座り心地が悪いんだにゃあ!」
「何だと!」
「二人ともうるさいです! ピキが眠れないじゃないですか!」
それまで黙ってモニターを見ていたシャミルが、ピキを軽く抱きしめ、苦笑しながら言った。
カーラも首をすくめて自分の席に戻り、艦橋に再び沈黙が訪れた時、通信士がシャミルに報告をした。
「船長! 探検家ギルドからメールが入っています!」
「探検家ギルドから? モニターに表示してください」
メインモニターにウィンドウが開くと、メッセージが表示されるとともに、音声で読み上げがされた。
『惑星ノルナゲストに本店があるヒルデタント商会から、探検家ギルド会員の皆様への告知です。当商会の機密データが格納された機密文書格納用保護箱が海賊に強奪され、グローイ共和国領域内の惑星ブラギンに遺棄されました。当商会としては、その回収をしたいのですが、遺棄場所が特定できません。そこで当商会は、グローイ共和国政府との交渉の結果、機密文書格納用保護箱探索のために、小型民間船に限り、五十隻まで惑星ブラギンに着陸する許可を得ました。つきましては、探検家ギルド所属の探検家の皆様に惑星ブラギンに行っていただき、機密文書格納用保護箱捜索の御協力を求めるものです。参加していただいた方には、費用込みで一日に一万ヴァラナート、機密文書格納用保護箱を見つけていただいた方にはプラス二千万ヴァラナートを差し上げます。連邦標準暦十一月二十八日午後三時に、惑星ノルナゲストの当商会本店で説明会を実施いたします。参加を希望される方はぜひ御参集願います。なお、希望者多数の場合は抽選にさせていただきます』
「うほっ! 二千万ヴァラナートだと!」
カーラが驚くのも無理はなかった。参加するだけの一日一万ヴァラナートでも十分、儲けが出る上、成功すると二千万ヴァラナートという、高級住宅街の豪邸が一括で買えるほどの報酬がもらえるのである。
「船長! ちょうど探査も終わったところだ。この依頼を受けようじゃないか!」
カーラは、既に成功報酬を手中にしたかのように嬉しそうだった。
「そうだにゃあ! まるで、宝探しみたいで面白そうだにゃあ!」
サーニャも遊びに行くような雰囲気であった。
「二人とも、グローイ共和国の惑星ブラギンって、どんな惑星なのか知っているんですか?」
「……」
シャミルから突っ込まれて、返答に困った二人だった。
「船長は知っているのかい?」
「さすがに外国の惑星のことまでは知りませんよ」
「どんな惑星だって、大した違いは無いだろう? 船長は反対なのかい?」
「反対と言うか、このメールの情報だけじゃ判断できかねます」
「だったら、説明会に出席するだけでも良いじゃないか。それに、滅多に行けない外国空域に行けるんだぜ」
シャミルの弱点を突いてくるカーラであった。
「もう、人を乗せるのが上手いんだから」
「へへへへ。探査結果の報告を済ませたら、惑星ノルナゲストに直行だぜ!」




