Scene:08 帰還
気がつくと、二人は、白い空間に飛ばされる前と同じく、ピラミッド状建造物の前に立っていたが、辺りには誰もいなかった。
「も、戻って来たのか?」
二人は同時に左腕の情報端末を見た。
確かに自分達が元々いた日付であった。時間は十五分ほど経過していた。
「シャミルさ~ん! キャミルさ~ん!」
アリシアが息を切らしながら走って来た。
「はあはあ、良かった。ちょっと事務所に帰ったら、野暮用ができていて、戻って来るのが遅くなってしまって、お二人がもうお帰りになってしまったのではないかと心配してしまいました」
「いえ、大丈夫ですよ」
「あれっ、いつ着替えられたのですか?」
シャミルとキャミルは、今までいた時間と同じ服装でリュックを背負っていた。
「あっ、そ、その、さすがに軍服は目立ってしまうので」
キャミルは歯切れ悪く答えたが、アリシアは気にすることはなかった。
「そうですか。でも、その服のお二人はすごく素敵です!」
「あ、ありがとうございます」
「ああ、そうそう。カメラを持って来たので、記念に写真を撮らせていただいてよろしいですか?」
「ええ」
カメラが自動で三脚を出して自らを固定させると、アリシアは、自分の情報端末にその撮影画面を映し出した。
「それじゃあ、ここにお願いします」
アリシアを真ん中に、両隣にシャミルとキャミルが立つと、アリシアが遠隔操作でカメラを微調整して、構図を決めた。
「それじゃあ、撮ります!」
アリシアがシャッターボタンを遠隔操作で押すと、すぐにカメラから一枚写真が印刷されて出てきた。画面で見るよりも、実際に紙にプリントして、いつでも手元で見ることができる写真は、この時代でも廃れることなく、人々の記憶をとどめる媒体として存在していた。
カメラから写真を取り、シャミルとキャミルの側に来たアリシアは、二人に写真を見せた。
「わあぁ! シャミルさんとキャミルさんに囲まれて写真が撮れるなんて夢みたいです。宝物にします」
「私達はそんなたいしたものではないですよ。でも、素敵な出会いの思い出を残しておけるのですから、宝物に違いありませんね」
「はい!」
アリシアはそう言って、さっき撮ったばかりの写真を見つめていたが、ふと不思議そうな顔をした。
「あれっ?」
「どうしたんですか?」
「……いえ、何かこの写真、昔に見たような気がして」
「あっ!」
「どうしたのですか、シャミルさん?」
「あっ、いえ、何でもないです。……アリシアさん?」
「はい」
「アリシアさんは、テラの生まれなんですか?」
「そうですよ。私はお爺ちゃん子で、このすぐ近くに家があったのです」
「お爺様は今?」
「もう十年前に亡くなりました」
「十年前ですか?」
「はい、病気でしたが、天寿を全うしたと思います」
「お爺様のお家はまだあるのですか?」
「いいえ。お爺さんが亡くなると、家は壊してしまって、私は父親に引き取られたのです」
「お父様に、……それではニコルバーグというファミリーネームは?」
「両親は離婚をしていたのですが、父親に引き取られてからは、父親のファミリーネームのニコルバーグを名乗っているんです」
「それまでのファミリーネームは?」
「デリングです」
「だとしたら、あなたが師事しているという連邦アカデミーのデリング博士というのは……」
「はい、私の母親です。でも、ヒューマノイド共通起源説の研究に限っては、教授と研究員という立場に違いはありませんから」
「ヒューマノイド共通起源説は、テラ大学のデリング博士が最初に唱えられたというのを聞いたことがありますけど」
「テラ大学のデリング博士が私の祖父で、連邦アカデミーのデリング博士の父です」
「そうですか。……アリシアさん、どうもありがとうございました」
「いえ、こちらこそ、お会いできて嬉しかったです」
シャミルとキャミルは、アリシアに別れを告げると、並んで遺跡を出た。
「キャミル、これ」
シャミルは、リュックの中のポケットから一枚の写真を取りだした。
「あっ、ああ、なるほど。これは、アリシアさんには見せられないな」
「ええ、消え去ってしまった過去の出来事……のはずです」
少し変色したその写真には、幼き日のアリシアを真ん中にして、微笑んでいるシャミルとキャミルが写っていた。




