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リンドブルム☆アイズ  作者: 粟吹一夢
Episodeー06 時空を超えた再会
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Scene:07 黒い狼(2)

若干残酷なシーンが出てきますので、苦手な方はお気をつけください。

「自らは名乗らず、いきなり貴様呼ばわりか!」

 礼を失した物言いに、キャミルも思わず言い返した。

「ふははは。元気の良いお嬢さんだ」

 大男は、湾曲わんきょくした太刀たちを抜くと、シャミルとキャミルに突き付けた。

「貴様らが手に持っている剣とナイフにも青い宝石が埋め込まれているな。どうやら、その剣とナイフは、俺が探し求めていた物のようだ。大人しく俺に渡せ!」

 キャミルもエペ・クレールを抜き構えた。

「貴様は何者だ! なぜ私達の剣とナイフを欲する?」

「お前達がそれを知る必要はない。なぜなら、お前達は、ここで死ぬからだ」

 大男から放たれているまよい無き殺気と、すざまじい気迫は、大男が言っていることがハッタリではないことを証明していた。

 キャミルは、太刀たちを構えた大男に撃ち込むすきを見つけられなかった。

「キャミル! 気をつけて!」

 シャミルにも、油断すべきでないという危険信号が感じ取れた。シャミルもコト・クレールを抜き、キャミルの後方で構えた。

「ふふんっ! 小娘こむすめのくせに、なかなかの腕前のようだな。やはり、その剣の持ち主ということか?」

「どう言う意味だ?」

「お前達の剣とナイフは、持って良い者と持つことすら許されない者があるのだ。ほとんどの者は持つことすら許されない者だ。しかし、貴様らは持っても良い者なのだろう。だが、俺は、その剣とナイフを持つべき者なのだ」

「言っている意味が分からんな。この剣とナイフは我々のものだ!」

「ならば奪い取るまでだ!」

 大男が目にも止まらない速さで、上段じょうだんから、キャミルに太刀たちを打ち込んで来た。キャミルもエペ・クレールを頭上に構え、その一撃を食い止めたが、予想を上回る怪力に思わず数歩後ずさりをせざるを得なかった。

 大男は息継ぎをさせるひまも与えず、太刀たちを何度も打ち込んで来たが、キャミルもその強烈な衝撃をまともに受けることのないように、太刀たちを払うようにして防いでいた。

 一瞬、キャミルが大男の太刀たちを払う際に体勢を崩して、大男に右肩を見せる格好になった。

「もらった!」

 大男が太刀たちを振り上げた。

「キャミル!」

 シャミルが、咄嗟とっさにコト・クレールを大男に向けて投げつけた。

 コト・クレールが青い光となって大男の太刀たちに当たると、その動きを一瞬止め、そのすきにキャミルは素早すばやく後ろに引き下がり、体勢を立て直した。

「二人掛かりか。ふははは、良いだろう」

 大男は、そう言うと、左腕にはめている小さなたてにはめ込まれている青い石を右手でさすった。すると、その青い石が一層輝き始めた。

「さあ、行くぞ!」

 大男は再び太刀たちを構えると、キャミルに突進して行った。

 キャミルはフェイントを掛けるように体を素早すばやく左右に動かした後、大男の一撃をかわして、大男の背中に回り込んだ。そして、間髪かんぱつ入れずに打ち込んだエペ・クレールが大男の背中にヒットしたが、エペ・クレールは、青い火花を散らして跳ね返されてしまった。

 今度は、大男が振り向きざまに太刀を横に払ったが、キャミルもるように避けて、そのままバック転をして再び間合いを取った。

 シャミルが、すぐにキャミルのそばに駆け寄った。

「キャミル! あの夢と一緒です!」

「よく分からないが、確かに、見えないバリアのようなもので跳ね返されたみたいだ」

 大男は勝ち誇ったような顔をして、左腕のたてをさすりながら、えるように笑った。

「ふははははは。こいつがある以上、貴様らの剣もナイフも、この俺を傷付けることなんかできやしないのさ」

「何だと!」

「これを身に付けている者は、あらゆる攻撃から守られる。つまり、俺は負けないのさ。俺に勝負を挑んでくる者は敗北によってでしか、その勝負を終わらせることはできないのだ」

「そんな馬鹿な!」

「もう一度、やってみます!」

 シャミルは仁王立におうだちしている大男に向かってコト・クレールを投げつけた。コト・クレールは、いつものように青い光となった大男の胸に突き刺さったかのように見えたが、大男の胸から二十センチほど前の空間で青い火花を散らすと、そのままブーメランのようにシャミルの手元に戻ってきた。

「無駄だ、無駄!」

 大男は、じりじりと二人の方に近づいて来た。

「やっぱり、あの夢と一緒です」

 シャミルの脳裏に今朝見た「夢」の光景がよみがえってきた。

「さあ、その剣とナイフを俺に渡せ。命を助けてやらんこともないぞ。よく見れば良い女達だ。ずっと俺のそばなぐさみ者にしてくれようぞ! ふははははは!」

 すべもなく、キャミルとシャミルは後ずさりするしかなかった。

「ふはははは。さあ、どうする?」

「お前は一体、何者なんだ?」

「そんなに俺のことが知りたいか? まあ、良いだろう。その剣を持てる者への敬意として教えてやろう。俺はドミニク・ガンドールだ」

「ドミニク・ガンドール?」

 どこかで聞いた名前だった。

「ああ、世間じゃ『黒い狼』などと呼ばれているがな」

 シャミルとキャミルは、昨夜のニュースで、「黒い狼」こと海賊ガンドールがテラに向かったという情報が流れていたことを思い出した。

「貴様が海賊ガンドールか? どうして、こんな所にいるんだ?」

「ふははは。ここは俺にとっては幸運を呼ぶ場所なんだよ。また幸運が落ちてないかと思ってやって来たら、ほれっ、目の前に幸運が転がり込んで来たという訳よ」

「キャミル、ここは逃げるしかないです」

 キャミルとシャミルは、一瞬のすきを見せることが死ぬ時ということが分かるほどの殺気を感じて、逃げるにしても、安直あんちょくにガンドールに背中を見せることが危険であると感じ取っていた。

 その時、ピラミッド状建造物の壁面に再び穴が開いたと思ったら、デリング博士がきょろきょろとしながら、建造物の中から出て来た。

「何じゃ? どうなっておるんじゃ?」

 デリング博士は何か考え事をしていたようで、目の前に大男とシャミル達がいることにすぐに気がつかなかったようだった。

 ガンドールがそれを見逃すことはなかった。

 ガンドールは素早すばやくデリング博士に走り寄ると、左手でデリング博士の服のえりを後ろからつまんで、軽々と持ち上げ、右手の剣を突き付けた。

 シャミルとキャミルも何ら反応できないほど、一瞬の出来事であった。

「貴様あ!」

 キャミルが思わずガンドールに突進した。

「止まれ! そして、その剣とナイフを放り投げろ! そうすれば、こいつの命が助かるかもしれないぜ」

 キャミルも立ち止まざるを得なかった。そのすぐ後ろに、シャミルもやって来た。

 デリング博士はいったい何が起きているのか理解できていないようで、呆然ぼうぜんとした目でシャミルとキャミルを見つめていた。

「私達がこの剣とナイフを渡したら、その人を助けてくれるんだろうな?」

「どうかな? 助かるかもしれないし、助からないかもしれない。しかし、貴様達がその剣とナイフを寄越よこさなければ、このじじいは確実に死ぬ」

 ガンドールが右手の太刀たちを少し下げて、軽く振ると、デリング博士の右足のひざから下がポトリと地面に落ちた。

「ぎゃあああ――」

 デリング博士は、断末魔だんまつまのような悲鳴を上げると、そのまま失神してしまったようだった。

「貴様らが早くその剣とナイフを寄越よこさないと、次は、左足が無くなっちまうぜ」

 ガンドールの顔には、まったく躊躇ちゅうちょが無かった。

「許さない。……絶対に許さない」

 キャミルが、血が出るほどくちびるみしめながら、低い声でつぶやいた。

「シャミル。私はこの鬼畜野郎きちくやろうを許すことはできない。目の前で、デリング博士が傷付けられているのに、それを見捨てて逃げることはできない」

「……私も同じです。キャミル。あなたを一人で死なせることはしません。思う存分戦ってください。もし、あなたが敗れることがあったとしたら、私も後を追います」

「その必要はない。私は、あの男を必ず倒す!」

「でも、……」

「シャミル。私に力を与えてくれ。あのヘグニ族相手に戦った時のように。それでも駄目なら、……三人とも、ここであいつに殺されるだけだ」

「分かりました」

 シャミルは、少し下がるとひざまづき、祈るように胸の前で手を結んで、頭をれた。

 エペ・クレールが、ひときわ青く輝きだした。そして、キャミル自身も赤い光に包まれた。まるで、キャミルの怒りが光となって、全身から放たれているようだった。


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