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リンドブルム☆アイズ  作者: 粟吹一夢
Episodeー06 時空を超えた再会
138/234

Scene:06 キャミル死す

若干残酷なシーンが出てきますので、苦手な方はお気をつけください。

 次の日の朝。

 早起きしたシャミルとキャミルは、デリング博士とアリシアが起きる前に、朝ご飯を作って、二人が目覚めた時には、バターと蜂蜜はちみつがたっぷり掛かったトーストと、ベーコンエッグ、新鮮野菜のサラダ、生オレンジジュースとコーヒーという朝食がテーブルの上に並べられていた。

「お前さん方がずっといてくれたら、わしも楽ができるのにのう」

 元いた時間に帰ることができるまで、この家に滞在できたら、シャミル達も助かるのだが、いつ帰ることができるのか分からないのでは、おいそれと「お世話になります」と言うことはできなかった。

「お前さんがたは、今日はこれからどうするんじゃ?」

 トーストをほおばりながらデリング博士がシャミル達に訊いた。

「まだ日程的に余裕もありますので、もう一回、バルハラ遺跡に行ってみようかと思います」

「お前さんがたも物好きじゃのう。儂も遺跡に行って調査をするつもりじゃったから、一緒に行くか?」

「ええ、ぜひ」

「みんなが行くのなら、アリシアも行く!」

「そうか、そうか」

 デリング博士はうれしそうだった。おじいちゃんの調査にくっついて行っても、普段は退屈であろうが、シャミル達も行くと聞いて、一緒に行きたくなったようだ。

「お姉ちゃん達は今日も泊まってくれるの?」

 シャミル達も、元の時間に戻ることを第一に考えると、できないかもしれない約束は、アリシアの期待を裏切ることにもなり、したくなかった。

「残念だけど、今日は別の所にお泊まりするの」

「え~、そうなの」

 アリシアは、本当に残念そうだった。

「そうだ、おじいちゃん! お姉ちゃん達と写真を撮りたい!」

 シャミル達との別れをしんだアリシアが、写真だけでも残しておこうと考えついたようだ。

「おお、そうじゃの! 待ってろ。カメラ、カメラと……」

 デリング博士も、可愛い孫の注文に応えるべく、居間にあるキャビネットの引き出しの中をかき回して探していた。

「シャミル、さすがに写真はまずいだろう?」

「そうですね、本来はこの時間にいないはずの私達がいた証拠を残してしまいますね。でも……」

 シャミルはワクワクと楽しそうな目をしているアリシアと目が合うと、何も言えなくなってしまった。

「あった、あった!」

 デリング博士が古ぼけた全自動印刷機能付きデジタルカメラを取り出すと、アリシアを挟んでソファに座るようにシャミル達に言った。

「キャミル。もう、アリシアちゃんとこうやって会っていることだけでも未来は変わっているかもしれません。写真の一枚や二枚大丈夫ですよ」

 まったく根拠のないシャミルの言葉であったが、シャミルがアリシアのことを思いやって言っていることだとキャミルも分かっていた。

「そうだな」

 二人は、アリシアをなかにしてソファに座り、とびきりの笑顔をカメラに向けた。

 シャッターを押したデリング博士がカメラの印刷ボタンを押すと、たちまち写真が二枚印刷されて出て来た。そのうち一枚をデリング博士がシャミルに手渡した。

「まあ、これも何かの記念じゃ」

「ありがとうございます」

 シャミルとキャミルがその写真を見ると、二人に囲まれて、うれしそうなアリシアの笑顔がはじけけていた。


 シャミルとキャミルは、デリング博士とアリシアとともにバルハラ遺跡に来ると、奥にあるピラミッド状の建造物の前で立ち止まった。

「シャミル、どうだ?」

 シャミル達はデリング博士と少し離れて立っていたが、アリシアがシャミルに手をつながれて立っていたので、キャミルは小さな声でシャミルに訊いた。

「……駄目です。何も感じません」

「ここで何も起きなければ、もう元の時間に帰ることはできないぞ」

「そうですね」

「二人とも! ちょっと来てみなされ!」

 デリング博士が大きな声で二人を呼んだ。

 シャミル達がデリング博士のほうを見ると、博士はピラミッド状の建造物の基礎部分をしゃがんで見つめていた。

 二人がアリシアを連れて小走りにデリング博士に近づくと、デリング博士が石の壁の一角を指差していた。その先を見てみると、縦に一筋、カッターナイフで切り込みを入れたような細い切れ目が付いていた。

「昨日までは、こんな切れ目は無かったはずじゃ」

「デリングさん! この切れ目は大きな四角形をしていますね」

「おお、確かに! まるで何かの入口のようじゃ!」

 デリング博士はその入口のような部分を、押したり、引いたり、ずらそうとしたりしたが、まったく動かなかった。

「むう~、全然、動かないのう」

「キャミル。何かの兆候かもしれません。他の面も探してみましょう」

「そうだな」

「デリングさん、私達はこっちがわを見てみますね」

「おお、そうか。頼むぞい」

 シャミルとキャミルがデリング博士とアリシアから少し離れた時、突然、その入口のような部分が無くなった、としか表現のしようが無いように、ぽっかりと穴が開いた。

 そして、すぐに、その空いた穴を通って、建造物の中から大柄おおがらな男が出て来た。

 黒い長髪をドレッドロックスに編み上げ、口髭と顎髭を蓄えた顔。やや吊り気味で切れ長の目からは鋭い眼光が放たれていた。

 白いシャツに黒のバッカニアコートを羽織はおり、幅広の黒いベルトに黒いズボンと黒いブーツ。ベルトには湾曲わんきょくした太刀たちと銃がぶら下がっていた。

 左の二の腕には、小さなたてが付いているような腕輪が、バッカニアコートの上からはめられていた。そのたてなかには青い宝石のような石がはめ込まれており、その石が青白く輝き始めたのが見えた。

 大男の後ろで穴が消えて、元の石の壁に戻ると、その男はおもむろに太刀たちを抜き、何事かと、唖然あぜんとしているデリング博士とアリシアに近づいて行った。

 危険を察知したキャミルが、咄嗟とっさに右手で左の腰をまさぐりながら二人の方に走って戻ろうとした。いつもはベルトの左にぶら下げているエペ・クレールを本能的に抜こうとしたのだが、エペ・クレールは少し離れた場所に置いているリュックにぶら下げていた。

 エペ・クレールを手に持つために走ることを止めては間に合わないと判断したキャミルは、丸腰のまま、アリシア達に向かって突進した。

 しかし、そんなキャミルも見えていないように、大男は無言でデリング博士を一刀の元に切り捨てると、そのやいばをアリシアに向けた。振り下ろされた大男の太刀たちは、駆け寄るなり、大男に背を向けてアリシアを抱きしめたキャミルの背中を容赦ようしゃなく切り払った。

 背中から血飛沫ちしぶきを上げながらも、キャミルはアリシアを抱きしめたまま、横向きに転がって少し間合まあいを取った。

「キャミル!」

 シャミルは、悲痛な叫びを上げつつも、リュックにぶら下げていたコト・クレールをはずして、大男に向けて投げつけた。しかし、青い光を放ちながら大男の胸に刺さったはずのコト・クレールは、男の手前で目に見えないバリアにはばまれたようにして跳ね返されて、シャミルの手元に戻って来た。

 大男は、シャミルのことは無視するかのように、アリシアを抱きしめたまま横たわり、うごめいているキャミルにゆっくりと近づいて行った。

 シャミルは、もう一度コト・クレールを大男に投げつけたが、結果は同じだった。

 シャミルは、キャミルに向かって太刀たちを振り下ろそうとしている大男に突進して、コト・クレールを右手に持って突き刺そうとしたが、大男に簡単にかわされて、右手首を大男につかまれると、片手でり下げられてしまった。

「なかなか良い女じゃねえか。おめえは俺の女にしてやる。そこでちょっと待ってろ!」

 大男がシャミルの手首を持ってボールでも投げるように腕を一振ひとふりしただけでシャミルは五メートルほど吹っ飛ばされてしまい石畳いしだたみに全身を強く打ち付けられた。

 シャミルが顔をしかめながら上半身を起こした時、大男の太刀たちが、キャミルの背中からアリシアごとつらぬいた。

「キャミル!」

 シャミルの叫びもむなしく、キャミルとアリシアは血の海の中で身動き一つしなかった。

「キャミル! キャミル! キャミルー!」

 シャミルの悲痛な叫びが、バルハラ遺跡に木霊こだました。


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