Scene:03 酒場サラバニ(3)
「あなたがお持ちのその剣。ちょっと見せていただいて良いですか?」
「あ、ああ」
キャミルはベルトから鞘ごと剣をはずして、テーブルの上に置いた。
シャミルもベルトからナイフシースごとナイフをはずして、その剣の隣に置いた。
キャミルの剣の柄にも、シャミルのナイフと同じ青い宝石のような石がはめ込まれていた。
すると、ナイフと剣のそれぞれの青い石が少し輝き始めたと思うと、その中に光の幾何学模様を描き出した。
「こ、これは?」
キャミルは驚いた様子でシャミルに訊いた。
「私のナイフは『コト・クレール』と言い、父上が私に残してくれた形見の品です。あなたの剣も?」
「確かに、この剣は、母親が死ぬ間際に、父親からの形見の品だと言って、私にくれたものだ。銘は『エペ・クレール』という」
二人が話している間にも、ナイフと剣のそれぞれの青い石から稲妻のような小さな光が軌跡を残しながら、相手の青い石に向かって何度も放たれていた。
「まるで久しぶりに会って、昔話に花を咲かせているみたいですね」
確かに久しぶりの再会を喜んで、共鳴しているかのようだった。
「しかし、シャミル。どうして、こんなことが分かった?」
「まず、あなたの剣が軍支給の軍刀ではなかったことから、注目して見てみると、コト・クレールと同じような青い石が見えました。私のコト・クレールは、この青い石のお陰で不思議な力を発揮することができます。エペ・クレールもそうなのでは?」
「うむ。何度、命を助けられたか分からないほどだ」
「実は、今日、初めてお会いした時に、微かにコト・クレールが震えているのが分かったのです。そして今も」
「私は全然気がつかなかった」
「私のコト・クレールが父上の形見であるのなら、同じ父親を持つあなたの剣もそうだろうと思っただけです」
「なるほど」
「キャミル殿。父上は、私とあなたを差別していたとは思えません。きっと、あなたにはちょっと連絡しづらい理由があっただけなのでしょう。そうでなければ、あなたにエペ・クレールを残すはずはありません」
「そうだろうか?」
「ええ、きっと」
シャミルは、自分と違って、父親の記憶がないことで、ちょっと拗ねているかのようなキャミルが可愛く思えてきた。
「でも、キャミル殿。嫌いと言っている割には、お父上のファミリーネームを名乗っているのですね?」
「ちゃんと認知されているからといって、小さい頃から母親がこのファミリーネームを名乗らせていたから、そのままにしているだけだ」
「私も同じです。ということは、あなたも私と同じように父上の遺産を相続する権利をお持ちということですね」
「法的にはそうなる。しかし、あの男からもらって嬉しい遺産などある訳がない」
「私が探検家になった、もう一つの理由。それは父上が追い求めていたけれども、発見することは叶わなかった『リンドブルムアイズ』を探し出すことです」
「『リンドブルムアイズ』? 何だ、それは? 宝物か?」
「さっぱり分かりません。でも父上からのメールには何回も出てきました。どうやら一度、探し出して入手していたけれど、再び行方不明になったものらしいのです。でも、それを再び発見したというメールをもらうことなく、父上は音信不通になってしまったのです。それからずっと、私は父上の代わりに『リンドブルムアイズ』を探し出そうと、心に決めているのです」
「そうなのか」
「もし、『リンドブルムアイズ』を探し出すことができれば、それは父上の遺産であり形見です。あなたにも、それを受け継ぐ権利があります」
「残念ながら、私はその『リンドブルムアイズ』というものには興味がない。それはシャミルが受け継げば良い」
「『リンドブルムアイズ』を探し出すには、父上の血を受け継いでいることが必要みたいなのです。それがどういう意味を持っているのか、今はまったく分かりませんが、キャミル殿のご協力を必要とすることがあるかもしれません」
「シャミルの頼みであれば、協力などいくらでもしよう」
「ありがとうございます」
シャミルは少し頭を下げた後、優しい笑顔を浮かべながらキャミルを見つめた。
「キャミル殿。なんだか心強い仲間を得たような気がします。これからもよろしくお願いします」
「シャミル。私はもう君に敬語は使っていない。姉妹であるのなら『殿』は不要だし、敬語を使う必要もない」
「分かりました、キャミル。でも、……私の話し方は昔からこうなので、すぐには直らないと思います」
本当に困ってしまったシャミルの顔を見て、キャミルはちょっと照れたように顔を赤くした。
「わ、分かった。それがシャミルであると言うのであれば、それで良い」
「ありがとう、キャミル。……それでは、みんなのところに行きましょうか?」
「そうだな。そうしよう」




