Scene:01 親子面談(1)
惑星テラ。
連邦の主力種族テラ族の故郷惑星であるこの惑星を訪れることは、テラ以外の惑星で生まれたテラ族にとっては、そのルーツを探るたびであり、それ以外の種族であっても、アスガルドに遷都するまでの銀河連邦の首都惑星であり、「古き良きもの」が残っているとして、連邦でも一・二を争う人気の観光惑星テラを訪れることは、銀河連邦の歴史を省みる旅であった。
この惑星で、昔「パリ」と呼ばれていた景観保護地区内に、煉瓦造りの洒落た店作りの「シモンズ骨董店」はあった。
そこはシャミルの実家であり、店の隣にある住宅の応接間に、シャミルとキャミルはいた。
キャミルは、命を受けて、戦艦アルスヴィッドで、テラの近くで海賊達の巣窟を探し出し、見事、海賊達を一網打尽に捕らえた後、乗組員の休暇を兼ねて、テラに寄港したところ、たまたま実家に帰っていたシャミルがそれを知って、キャミルを実家に招待したのだ。
二人掛けのソファにシャミルと並んで座っている軍服姿のキャミルは、いつになく緊張しているようだった。
「キャミル。何だか顔が固いですよ」
「そ、そうか?」
「何も母上はキャミルを取って食べようなんてしませんよ」
「それはそうだが」
キャミルは、なぜだか分からないが、まるで花嫁の親に結婚の申し込みに来た男性のような気分になっていた。もちろん、キャミルにそんな経験はなかったが。
「急に来てしまって、ご迷惑だったのではないか?」
「そんなことはありませんよ。それに、私がキャミルを招待したのですから、逆にお待たせして申し訳ないです。ごめんなさい」
「いや、それは全然、気にしなくて良い」
「キャミルって優しい!」
シャミルは思わず、キャミルの腕にしがみついて、その肩に自分の頭を乗せた。
「お、おい!」
そこにちょうど、ドアがノックされると同時に開かれると、膝丈のグレースーツ姿に黒いパンプスを履いている、キャリアウーマンを絵に描いたような、シャミルの母親が応接間に入って来た。
「あらっ、お邪魔だったかしら」
シャミルがキャミルに甘えているような格好の二人を見て、母親は笑いながら言った。
キャミルは慌てて、シャミルの腕を振りほどいて、その場で立ち上がった。
「も、申し訳ありません!」
まるで結婚前の娘とイチャイチャしているところを娘の親に見られた彼氏のように謝ってしまったキャミルであった。
「ふふふふ。こちらこそ、お待たせして申し訳ありません」
立ち上がったキャミルの側まで来ると、母親は丁寧にお辞儀をした。シャミルのお辞儀が母親譲りなのが、すぐに分かった。
「どうぞ、お掛けください」
「はい」
キャミルは再びシャミルの隣に座り、対面の一人掛けソファに座ったシャミルの母親を見つめた。シャミルと同じプラチナブロンドの髪をアップにして、細身の眼鏡を掛けているが、年頃の娘の母親というには若く、シャミルの姉と言っても通用する美貌を誇っていた。
ちなみにこの時代には、近視や老眼、乱視と言った視力障害は、医学の進歩で治療や予防ができるようになっていたが、眼鏡はファッションとして、引き続き愛用されていた。
「初めまして。マリアンヌ・シモンと申します」
「キャミル・パレ・クルス少佐です。よろしくお願いします」
いつもの癖で、キャミルは座ったまま、敬礼をした。
「パレ・クルス。……キャミルさん、お顔をじっくりと拝見させていただいてよろしいかしら?」
「は、はい」
マリアンヌは穏やかな笑顔を浮かべながら、キャミルの顔をじっと見つめていたが、しばらくすると、何かを懐かしんでいるかのような顔つきになった。
「お父上の面影もあるような気がします。二人が並んで座っていると、姉妹だと言うことも納得ができますね」
「そうですか、母上? 私自身は、キャミルとは、あまり似ていないような気がするのですが?」
キャミルと似ているとカーラやサーニャにも言われたことはなかったし、シャミル自身もキャミルと似ているとは思っていなかった。
「自分では分からないかも知れませんね。お父上を知っている者からすれば、その血を受け継いでいることは、すぐに分かります」
「そ、そうですか?」
しばらく穏やかな顔で微笑んでいたマリアンヌが少し背筋を伸ばした。
「キャミルさん。シャミルから色々とお話はうかがっています。本当に素晴らしい方のようで、そのような方がシャミルの姉妹であって、そして親しくお付き合いしていただいているということで、親として嬉しいばかりです。本当にありがとうございます」
「いえ、感謝したいのは私の方です。……この歳で士官となって、特に軍では周りはほとんど年上の男性ばかりでしたから、シャミルと知り合えたことで、自分をさらけ出して安心できる場所を見つけた気がして、……すごく嬉しかったのです」
嘘偽りでも社交辞令でもないキャミルの本心であった。
「軍のような大きな組織で、その年齢で人々の上に立つ立場にいらっしゃると、確かに色々と大変でしょうね。ええ、どうかシャミルを思う存分利用してください。シャミルも良いわよね?」
「はい! もちろんです!」
キャミルともっとイチャイチャして良いというお墨付きをもらった気がしたシャミルは嬉しさを爆発させた。
「ところで、キャミルさんのお母上は、もうお亡くなりになられているそうですね?」
「はい。四年前に」
「お母上とも、ぜひお話をしたかったのに残念です」
「母上。キャミルのお母上とはどんな話をしたかったのですか?」
「決まっているじゃありませんか。お父上のことですよ」
「あ、あの、こんなことを訊くと、すごく不快に思われるかも知れないのですが……」
珍しくキャミルが言い淀んでいたが、マリアンヌは穏やかな顔つきを変えることはなかった。
「何となく想像がついていますけど、……どうぞ、ご遠慮なさらずに何でもお訊きになってください」
「あなたは、私や私の母親の存在を……許すことができるのですか? つ、つまり、シャミルの父親の浮気相手のような私の母親とその子である私を……」
「ふふふふ。キャミルさん、私は、シャミルの父親であるジョセフと結婚をしていた訳ではありませんよ。いわば、あなたのお母上と同じ立場なのです。浮気うんぬんと言うことにはならないと思いますけど」
「……」
「確かに、あなた方の父上は沢山の女性と浮き名を流していましたけど、それで修羅場になったという話は聞いていません。私とお付き合いを始める時にも、ジョセフは、はっきりと結婚するつもりはないと言っていましたし、他に、つき合っている女性もいると言っていました。きっと、他の女性に対しても同じ態度だったと思います」




