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リンドブルム☆アイズ  作者: 粟吹一夢
Episodeー05 機械人形の国のアリス
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Scene:08 二百年前の亡霊(3)

「メルザ! もう協力態勢は終わりだ。大人しく投降とうこうしろ!」

「ふふふ。この海賊メルザ様が大人おとなしくおなわになると思っているのかい?」

「思ってはいないさ。決着を着けたいのなら、ここで着けるのみ!」

 キャミルはエペ・クレールを抜いて、メルザに突き付けた。

 そこにちょうどアズミとファルアが大広間に入って来た。

 その二人の姿を見たメルザは「いいだろう」と言い、ゆっくりと湾曲わんきょくした剣を抜いた。

「メルザ様!」

 アズミとファルアが心配そうに声を掛けた。

「心配しなくて良いよ。キャミルさんは強いけど、私も負けないよ」

 メルザは、両手をだらりと下に降ろして力を抜いたような態勢のまま、キャミルのまわりをゆっくりと回るように移動した。

「さあ、おいで。キャミルさん」

「言われなくとも行く!」

 そう言いながらもキャミルは、なかなか打ち込むことができなかった。どこにもすきが無かった。

「それじゃあ、私から行くよ」

 その台詞せりふが終わる前に、メルザはキャミルに突進をして剣を打ち込んできた。

 キャミルもメルザの剣をエペ・クレールで弾き返すと、目にも止まらない速度での剣の打ち合いになった。お互いに無駄のない二人の動きは、まるで華麗かれい剣舞けんぶのようで、シャミルも副官達も思わず見入ってしまっていた。

 一旦いったん、距離を取って離れたキャミルとメルザとも、少し息が切れていた。

「さすが、キャミルさんだ。ここまで私が本気を出してもびくともしないとはね」

「お前の方こそ、海賊にしておくのがもったいないくらいの腕前だな」

「ありがとうよ。キャミルさんにめられるとはうれしいねえ」

「メルザ様!」

 その時、アズミが大声でメルザを呼んだ。メルザはキャミルから視線を外さずに微笑みを浮かべた。

「キャミルさん。申し訳ないが今日も勝負はお預けにさせておくれ」

「何?」

「キャミルさんと勝負を着けたいのはやまやまなんだけど、キャミルさんを倒したところで、その後ろに何百人といる宇宙軍の兵士まではさすがに相手はできないからね。決着を着ける時は本当に一対一の時にお願いするよ」

 メルザが剣をさやに収めて、右手で床に何かを投げつけると、小さな爆発が起きて大量の煙があたりに充満した。

「くそ! 煙幕えんまくか!」

 キャミルがメルザが立っていた所まで突進したが、既にあたりには誰もおらず、既にこの大広間から出て行ったようだ。

「マサムネ! 今、どこだ?」

 キャミルが手首の情報端末でマサムネを呼び出した。

「兵を率いて廊下ろうかの中を進んでいます。ロボット達の動きが急に止まったので、亀裂きれつの中に入り、今は、右手にロボット工場が見える所にいます」

「メルザが逃げた。逃すな!」

「こちらに向かっていると?」

廊下ろうかの反対側にも外に開けている場所がある。どちらに向かったのか分からない。とにかく急げ!」

「了解しました!」

 情報端末を切ったキャミルにシャミルが言った。

「森の方にはアルスヴィッドが停まって、その兵士達もいっぱいいることはメルザさんも分かっていますから、おそらく宇宙船の発着場所に方に向かっているはずです。アズミさんがメルザさんを呼んだのは、おそらくフェンリスヴォルフ号が着いたことを知らせたのでしょう」

「そう言えば、もう修理も終わっている頃だな」

 カーラが情報端末の時刻を確認しながら言った。

「ああ、逃げる前の、メルザの自信満々の表情からすれば、おそらくそうだろう。くそっ! また逃したか!」

「でも、メルザさんに助けられたことも事実です」

「そうだな」

 キャミルは複雑な顔をしながらシャミルを見ると、ひざまづいてアリスを抱っこしたままのシャミルに近づいて行き、同じようにひざまづいた。

「シャミル。……気分は大丈夫か?」

「ええ、もう大丈夫です。……キャミル。アリスちゃんは少なくとも脳はヒューマノイドでした。ちゃんととむらってあげたいんです」

「そうだな。自分の部屋があるこの惑星で永遠の眠りにつかせてあげよう」


 シャミルは、アリスを部屋まで抱っこをして行き、ベッドに寝かせた。そして、その胸に近くの森で集めてきた花束はなたばと、あやとりとして遊んだひもを置いた。

「アリスちゃん。天国でお父様と会えると良いね」

 シャミルの目からまた涙が溢れてきた。

「シャミル?」

 隣に立っていたキャミルが心配そうにシャミルを見つめた。

「たった一時間しか一緒にいなかったのに、私には、アリスちゃんのさびしさとか、私と会えた時のうれしさとかが、私の心の中にあふれるように感じ取れたんです」

「どこか、シャミルと共鳴するところがあったんだろうな」

「体は機械でしたけど、心はヒューマノイドだったんです。だから、アリスちゃんは、……すごくさびしかったんです」

 しばらく、シャミルとキャミルは、眠っているようなアリスの顔を見つめた。

「……シャミル。行こう」

「……はい」

 キャミルに肩を抱かれながらシャミルは、アリスの家から出た。

 すぐそばに着陸していたアルスヴィッドの前には、正装したアルスヴィッドの兵士達が整然と整列していた。

 シャミルは亀裂きれつそばで待っていたカーラとサーニャの近くに立った。

 キャミルは、整列した兵士達の真ん前に立つと、エペ・クレールを抜いて、胸の前で立てた。

「捧げつつ! 構え!」

 キャミルの号令で、兵士達が胸に抱えていたレーザーライフルを一斉に斜め上に構えた。

「撃て!」

 惑星ハーナルに連邦宇宙軍の弔銃ちょうじゅうが鳴り響いた。


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