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リンドブルム☆アイズ  作者: 粟吹一夢
Episode−01 惑星ヨトゥーンのラグナロク
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Scene:03 酒場サラバニ(2)

 カーラがハシムのむなぐらをめ上げている、ちょうどその時、前回会った時と同じ軍服姿のキャミルが二人の副官を従えて、サラバニに入って来た。

 連邦宇宙軍の軍人、それも士官の登場に、店の中は一瞬、静まりかえった。

 キャミルは、シャミル達のテーブルに歩み寄ってくると、あきれた声で話し掛けた。

「何をしている、ハシム?」

「おおお、キャミルか! 見てのとおりだ。助けてくれ!」

 ハシムは懇願こんがんしているというよりも、冗談めいた口調でキャミルに話し掛けた。

「はあ~、まったく」

 ため息をつくと、キャミルはシャミルに一歩近づき話し掛けた。

「シャミル、すまない。何があったか、まあ想像はつくが、その男は悪い奴ではない。ちょっと冗談が過ぎるのが玉にきずの男だ。許してやってくれ」

 シャミルがちらっとカーラの顔を微笑みながら見ると、カーラはハシムの胸ぐらをつかんでいた手を離した。

「げほげほっ。……とんでもなく力が強え女だな」

 ちょっとき込みながらも、ハシムは、乱れた服を素早く直して、キャミルに向かって礼を述べた。

「ありがとうよ、キャミル。しかし、キャミルが酒場に来るとは珍しいな」

「そこにいるシャミルに会いに来たのだ」

 ちょっと驚いた様子で、ハシムは、シャミルとキャミルを相互に見渡した。

「ほう、このお姫様はシャミルさんというのか。それにキャミルの知り合いだったとはねえ。こりゃあ良い。俺もその仲間に入れてくれ」

「なぜ、お前を仲間に入れる必要がある?」

「友人関係なんて、必要かどうかで決まるものじゃないだろう?」

「相変わらず調子が良い奴だ」

「こうやってお知り合いになれたのも何かの縁だ。どうだい、奥の席を押さえるから、みんなで行かないか?」

 ハシムは店の奥にあるVIP席にみんなを案内しようとした。

「良いだろう。少しは静かに話ができそうだからな。しかし、ハシム。その前に、シャミルとは二人だけで話したいことがある。みんなは先に行っておいてくれ」

 キャミルはそう言うと、ちょうどいていたシャミルの左隣の椅子に座った。

「お前達は先に行っていろ」

 キャミルが二人の副官に命令すると、二人はキャミルに敬礼をしてハシムについて行った。

 一方、シャミルもカーラとサーニャに無言でうなづくと、二人もハシムの用意した席に向かった。

 みんなが離れて行ったことを確認してから、キャミルは静かに話し始めた。

「シャミル。君のことを少し調べさせてもらった」

 そう言われたシャミルは、キャミルに微笑みを返しただけだった。

「シャミル・パレ・クルス。銀河暦三百三十四年七月七日テラ生まれ。連邦アカデミーを飛び級かつ首席で卒業したIQ三百のアカデミー創設以来の超天才。高級官僚採用試験及び弁護士試験にも合格しておきながら、現在は新進気鋭しんしんきえいの探検家。そんな素晴らしい方とお知り合いになれるとは光栄です」

 シャミルは、ちょっとはにかみながらも微笑んで、キャミルに話し掛けた。

「失礼ながら、私もあなたのことを調べさせていただきました」

「ほう、どうやって?」

「探検家に必要なもの。それは多くの情報を収集する能力、そして、その情報を正確に分析する能力です。強制捜査権を使わなくとも、いろんなところから情報は収集できます」

「なるほど」

「キャミル・パレ・クルス。銀河暦三百三十四年七月七日イリアス生まれ。連邦第一士官学校を飛び級かつ首席で卒業し、連邦軍でも三十年ぶりの中尉任官を果たした超エリート軍人。その後も戦功を重ね、先日、少佐昇進を果たされたばかり。こちらこそ、そんな立派な方とお知り合いになれて恐悦至極きょうえつしごくです」

 シャミルはキャミルに対して少し頭を下げた。

「なるほど。ファミリーネームのみならず生年月日までも同じということも調査済みか」

「ええ、……キャミル殿。あなたのお父上とお母上のお名前は?」

「母親はイリアス族で、名前はロザリオ・ピレスという。イリアスで船乗り相手の酒場を開いていたが、四年前に病気で死んだ」

「そうですか。おやみ申し上げます。……それでは、お父上は?」

「父親は、……いない」

「お母上と結婚されていないという意味ですか?」

「そうだ」

「それなら私も同じです。私の母上はテラ族で、マリアンヌ・シモンといいます。今もテラで骨董店こっとうてんをしています」

「なるほど。古都テラであれば、色々な骨董品こっとうひんがありそうだ」

「はい」

 地球テラは、連邦の首都がアスガルドに遷都せんとされてからは、テラ族の故郷として、古き良き物が残る観光惑星となっており、シャミルの母親は、宇宙に飛び出す前のテラ族が使用していた骨董品こっとうひんを扱う店を一人で切り盛りしていた。

 シャミルは、キャミルを真正面から見つめながら話を続けた。

「私の父上も四年ほど前から音信不通になっています」

「そうなのか」

「はい。その私の父上の名は、……ジョセフ・パレ・クルス」

「……!」

「聞き覚えのある名前なのでは?」

「……思い出したくない名前だ」

「やはり、そうなのですね。……どうやら私達は、同じ父親を持つ異母姉妹のようですね」

「確かに、初めて会った時から他人のような気がしなかった。……しかし、なぜ私達の父親が同じだと分かった?」

「私の母上が、今も時々、父上の思い出話をするのです。父上は探検家でしたが、未知の惑星に対するのと同じくらい女性にも興味があったかたのようで、どうやら、あちらこちらで火遊びをされていたようです。イリアスにも子供がいるという話も聞いていましたので」

「そうか。私の母親は、父親についての話はほとんどしなかった。まあ、あちこちの港で女をつくっていたとは言っていたがな」

「キャミル殿は、お父上がお嫌いなのですか?」

「もちろん嫌いだ」

「どうしてですか?」

「そもそも結婚もせずに、あちこちに女性をかこっている、その浮ついた態度がだ」

「ふふふ。そうですね。確かに感心はしませんね」

「シャミルは父親が嫌いではないのか?」

「嫌いなら、同じ職業を選ぶでしょうか?」

「……そうか。では、探検家になったのは?」

「私が小学校を卒業するまで、父上は毎日、私にメールを送ってくださいました。今日は、どこそこに冒険に行ったとか、新しい惑星で未知なる生物を見つけたとか、……父上からのメールを読むたびに、私はわくわくして夜も眠れないくらいでした」

「だから探検家に?」

「はい」

「シャミルは、父親に愛されていたのだろう。私には、父親の記憶は何も残っていないし、そもそも父親の顔すら憶えていない」

「キャミル殿。あなたも、お父上の記憶を持っているのではないのですか?」

「どういう意味だ?」


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