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リンドブルム☆アイズ  作者: 粟吹一夢
Episodeー05 機械人形の国のアリス
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Scene:04 未探査惑星の住民(1)

 シャミルと二人の副官は、メルザから借りたエアカーに乗って、不時着地点から西に向かっていた。カーラが運転して、助手席のサーニャと後部座席のシャミルは、手掛かりを見逃すまいとキョロキョロと前後左右を見渡していた。

 アルヴァック号が惑星ハーナルの上空を周回して作製した惑星地図は、海岸線と若干じゃっかんの高度が分かる程度のごく簡単なものでしかなかった。しかし、それによると、シャミル達が不時着したのは、南半球にある、ほぼ四角形をしている大陸の中心に近い位置だった。そして、不時着した後、襲って来た戦闘機達の編隊は、北西の方向に飛び去って行ったことから、シャミル達は西を、メルザ達は北を調査することにし、遅くとも五時間後には不時着地点に戻ることにしていた。

 シャミル達が進んだ西方向は、不時着地点から延々(えんえん)と続く森林地帯であった。このあたりまで来ると、樹木がそれほど密生みっせいしている訳でもなかったから、木々の間をエアカーは順調に進んでいた。しかし、手掛かりとなるものは何も見つからなかった。

「行けども行けども森ばかりだ。本当に何かあるのかな」

「まさか、あの戦闘機もずっと重力圏内で飛び続けていることはないと思いますから、あの大編隊を着陸させておく、大きな基地か空港のようなものがあるはずです」

「そりゃそうだけどよ。他の大陸から飛んで来たという可能性はないのかい?」

「アルヴァック号が、この大陸の上空に着いてすぐに、あの戦闘機達がアルヴァック号を取り囲むように飛行して来たのです。あの戦闘機達の速度から時間的に考えると、この大陸のどこかから飛び立ったと推測すいそくされますね」

「なるほどなあ」

 その時、走り去る森の風景の中に不思議なものを見た気がしたシャミルが大声を出した。

「停まってください!」

 カーラもシャミルの声に驚いて急ブレーキを踏んだ。

「何だよ、船長?」

「今、何かがいたような気がしたのです」

 シャミルは、ドアを開けて外に出た。

 あちらこちらに日だまりができている程度の密度で樹木が生えており、その下には低い背丈せたけの草が生い茂っていた。

 二人の副官も外で出て、あたりを見渡してみたが、植物のみしかなく、動物を始め、動く姿は何も見えなかった。

「木の陰でも見間違えたんじゃないのかい?」

「そうかしら」

 その時、がさがさと草が揺れる音がした。シャミル達がその音がした方に振り向くと、そこには、一人の少女が木と木と間に立って、じっとシャミル達を見ていた。

「……!」

 もっともいるはずのない存在の少女の姿を見て、シャミルも一瞬、言葉を失ってしまった。

 亜麻色あまいろの髪を三つ編みのお下げ髪にして、人間離れした大きな緑の瞳が輝いている白い顔は可愛い顔立ちをしていた。長袖ながそで膝下丈ひざしたたけのスカートのすそに白いフリルが付いている、青いチェック柄のワンピースを着て、足元は白いタイツに赤いストラップシューズと、まるで人形のような姿も違和感を倍増させていた。

「ねえ、遊ぼう」

 その少女はそう言いながら、シャミル達の近くに歩み寄って来た。しかし、その無表情な顔は遊びたがっている子供の顔には見えなかった。

「ねえ、遊ぼうよ」

 その余りにも不釣ふつり合いな光景に不気味さを感じたのか、カーラが太刀たちを抜いて少女に向けた。

「止まれ! ここで何をしている?」

「お友達がやって来るのを待っていたの」

「……お友達?」

「そう。アリスと遊んでくれるお友達」

 シャミルは、その抑揚よくようの無い話し声や感情をあらわさない表情から、少女が人間ではないことが分かった。シャミルは一歩、少女に近づいた。

「あなたは、アリスちゃんと言うお名前なの?」

「そうだよ。あなたは?」

「私は、シャミルと言うの」

「シャミルちゃん。可愛い名前」

「ありがとう。アリスちゃん、もう少し、アリスちゃんの近くに行って良い」

「良いよ」

「船長、危険だ! そいつは怪しすぎるぜ」

 カーラが止めたが、シャミルは、後ろにいたカーラの方を見ず、アリスから視線を外さずに首を横に振った。

「いいえ、悪意は感じられません」

 シャミルは、おだやかな顔つきをして、アリスに話し掛けた。

「アリスちゃん。私が近くに来ても悪戯いたずらしないでね。アリスちゃんがいじめるのなら、私はすぐに帰っちゃうわよ」

悪戯いたずらなんかしない。だから帰らないで」

 シャミルは、アリスのそばまで近づいて行くと、ひざまづいてアリスの目線に自分の顔を持っていった。

 シャミルがアリスを見つめると、アリスもその大きな瞳でぐにシャミルを見た。その目には、生気せいきが感じられなかった。

「ちゃんと挨拶してなかったね。こんにちは、アリスちゃん」

「こんにちは、シャミルちゃん」

「アリスちゃんは、どこから来たの?」

「どこからって?」

「だから、……えっと、アリスちゃんのお家はどこかしら?」

「アリスのお家?」

「ええ、そうよ」

「アリスのお家に来たいの?」

「そ、そうね。……お父さんとかお母さんはいるのかな?」

「いない」

「そうなの? それじゃあ、アリスちゃんはひとりぼっちなの?」

「そう。アリス、ひとりぼっちでさびしかったの」

「……アリスちゃんは、いつからここにいるの?」

「ずっと前」

「ずっと前?」

「そう。……ずっと前」

「誰もここには来なかったの?」

「そう。ずっとひとりぼっち。…………シャミルちゃんは、私の友達になってくれる?」


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