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リンドブルム☆アイズ  作者: 粟吹一夢
Episode−01 惑星ヨトゥーンのラグナロク
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Scene:03 酒場サラバニ(1)

 アスガルド首都特別区であるアルフヘイム島沖に作られた人工島にアスガルド第一宇宙港があった。連邦内でも一、二の乗降客数を誇る大規模な宇宙港である。

 当然、そのまわりには、乗降客や船乗り達を相手とするホテルや飲食店、土産物みやげもの店などの商店がのきを連ね、船乗り達のいこいの場である酒場も数多く存在していた。

 そんな飲食店街の一角に酒場サラバニはあった。

 おもに船乗り達を客層とする店で、高級感(あふ)れる店ではないが、店内にはVIPルームもあるなど、ちょっとした接待せったいでも利用できるくらいには小綺麗こぎれいな店であった。

 シャミルが、カーラとサーニャを引き連れてサラバニに入ると、そこは大きなワンフロアのホールで、多くの丸テーブルと椅子が置かれ、その三分の二くらいには客が座っており、店内はざわめいていた。

 シャミルは、やや薄暗い照明の中でキャミルを探したが、その姿は見えなかった。

 とりあえず、入口に近い丸テーブルにシャミル達が座ると、かなり露出が多いメイド服のような制服を着たウェイトレスが注文を取りに来た。

 もともと酒が飲めないシャミルは生オレンジジュースを、カーラとサーニャはラム酒を注文した。

 ウェイトレスが飲み物をテーブルに置いてカウンターの方に去って行くと、それを見計みはからったかのように、隣のテーブルで飲んでいた船乗りらしき三人の男達が、シャミルのテーブルまでやって来た。

「お嬢さん。我々とご一緒にいかがですか?」

 もっとも若い男がシャミルの近くに近づきながら、シャミルのテーブルの上にあった花瓶から花を一つ抜いてシャミルに差し出した。

「お誘い、ありがとうございます。でも、人を待っておりますので」

 いつもどおり丁寧ていねいな言葉使いでやんわりと断ったシャミルだったが、男達はあきらめなかった。

「お嬢さんのような美しい方とは、ぜひ、お近づきになりたいと思いまして」

「ナンパだにゃあ」

 シャミルの右隣の席で、サーニャがにやにやと笑いながら、シャミルの左隣に座っていたカーラに向かって言うと、カーラは、すっくと立ち上がり、三人の男達に向かってドスの利いた声で話し掛けた。

「うちの船長に何の用だい? アタイが代わって聞いてやるよ」

 シャミルが船長だと聞いて、ちょっと驚いた男達であったが、それでますますシャミルに対する興味が湧いたようだ。

「おめえには用は無いんだよ。こっちの船長様にお話があるんだ」

 相当酔っぱらっている中年の太った男が、後ろからシャミルの肩に手を掛けようとした時、カーラがその男の手を取ってひねりあげた。

「あいててて!」

 苦痛に顔をゆがめる太った男を、そのまま床に放り投げたカーラは男達に吠えた。

「下心を持った汚い手で、うちの船長に触るんじゃないよ!」

 その間、シャミルは何事も起きて無いかのように、生オレンジジュースをストローでゆっくりと味わっていた。また、その隣ではサーニャが両手で頬杖ほほづえをつきながら、にやにやしながらカーラと男達とのやり取りを眺めていた。

「てめえ! 女だと思って下手したてに出てりゃ調子に乗りやがって!」

「やる気かい? 良いだろう! だが、ここじゃ店に迷惑が掛かってしまう。表に出な!」

「あ~っ、ちょっと待った! 待った!」

 その時、一人の男がカーラと三人の男達の間に割って入ってきた。

 その男は、砂漠の民の民族衣装であるトーブに似た、白く長い上着を着ており、豪華な装飾が施されているベルトには、宝石がちりばめられた黄金のさやに入った短剣がぶら下がっていた。足下まである上着のすそからは、少し足先がとがった黒いブーツが見えていた。

 平均的な身長よりやや高いテラ族で、天然パーマらしき黒い短髪に褐色の肌をしており、愛嬌あいきょうのある顔立ちをしていた。

 男は愛想笑あいそわらいを浮かべながら、三人の男達に話し掛けた。

「兄さん方。ここは俺が酒をおごるから、どうか、この女達を許してやっておくれよ」

 トーブを着た男は、ふところから一万ヴァラナート金貨を取り出し、三人の男達に差し出した。サラバニ程度の店であれば店を貸し切りにして飲めるくらいの大金だ。

 カーラの迫力に気後きおくれしていたと思われる三人の男達は、渡りに船と、その金貨に手を伸ばした。

「すまねえな、兄さん。おい、今日はこの兄さんに免じて、許しておいてやらあ」

 三人の男達は、精一杯威勢を張って、カーラに啖呵たんかを切ってから、貰った金貨を手に、もっと若い酒場娘がいる所に行こうと話しながら、サラバニを出て行った。

「いやあ、危なかったねえ」

 トーブを着た男は、ちょうど立ち上がっているカーラが座っていた、シャミルの左隣の椅子に腰を下ろして、シャミルに笑顔を向けながら話し掛けた。

 すぐにカーラがその男のそばに近寄り、立ったままその男に文句を言った。

「誰も助けてくれなんて言ってないよ! 誰なんだい、あんたは?」

「俺か? 俺はハシム・ファサド。イリアスの商人さ」

 ハシムと名乗った男は、カーラをあおぎ見ながら答えると、すぐに視線をシャミルに戻した。

「イリアスの商人がアスガルドで何をしている?」

 カーラが疑問に思うのも当然だった。イリアスはアスガルドから遠く離れた惑星だった。

「アスガルドの商人との大きな商談を終えて、一人祝杯を挙げていたところさ。そんな時に喧嘩けんかなんてされたら、しらけちゃうだろう」

 ハシムは、シャミルから視線をらせることなく答えた。

 一方のシャミルは、ハシムの方を見ることなく、悠然ゆうぜんと生オレンジジュースを味わっていた。

「それは分かった。しかし、とにかく立て! そこはアタイの席だ」

「良いじゃないか。ほれ、そこにもう一つ席がある。そっちに座りなよ」

 ハシムは、シャミルの対面に置かれた椅子を指差した。

「アタイは船長の護衛役だ。船長の隣の席がアタイの指定席なんだ!」

「船長さんの護衛なら俺がつとめてやるぜ。こんなに綺麗きれいな船長さんなら、この身をていしてでも守ってやるぜ」

「ふっ、さっきの奴らと同じか」

 カーラは、ハシムの胸ぐらをつかみ、無理矢理立たせた。

「いててて。お、おい、無茶するなよ!」

「さっきも言ったはずだ。下心を持って、うちの船長に近づいてくる野郎どもは許さないとな!」

「俺は変な下心を持って近づいたりしてねえよ。純粋にその船長さんと仲良しになりたいだけだよ」

「そう言うのを下心って言うんだよ!」


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