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リンドブルム☆アイズ  作者: 粟吹一夢
Episodeー05 機械人形の国のアリス
109/234

Scene:03 惑星ハーナル上空(4)

 間髪かんぱつ入れずマサムネが艦橋かんきょうに飛び込むと、振り向きざまに、ドアの影に隠れていた相手に刀を振り下ろした。相手は叫び声を上げることもなく、立ったまま動かなくなった。

「艦長、お怪我けがはありませんか?」

 マサムネが、名刀マサムネをさやに収めながら、キャミルの方に振り向いた。

「大丈夫だ。相変わらず見事な腕前だな、マサムネ」

 回転しながら既にエペ・クレールを抜いていたキャミルも、エペ・クレールをさやに収めながら、立ち上がった。

「いえ、艦長の身のかわし方の方が鮮やかでした。しかし、こいつは?」

 マサムネは、ドアの近くで立ったまま絶命している男に近づいた。

 テラ族の白人のように見えるその男性の右肩から左の脇腹部分にかけて鮮やかに服が切断されていたが、血はまったく流れておらず、まるでマネキン人形のように剣を構えたまま動きを停止していた。

「どうやら、人型機械人形アンドロイドのようだな。それもかなり精巧せいこうに造られている」

 キャミルもその男に近づき見てみると、外見はまったくヒューマノイドと違いは分からないが、マサムネが付けた切断面からは、様々(さまざま)な機械類が見えていた。

「ここには、こいつしかいないようだな」

 艦橋かんきょうの中には、航海士や通信士といった航海スタッフの席、そして船長席や副官席など十名ほどの席があったが、誰も座っていなかったし、いた形跡もなかった。

「艦長、それでは我々は荷物室を見てきます」

 マサムネに率いられた兵士達が荷物室を探索するため艦橋かんきょうから出て行った。

 残ったキャミルは、兵士達が探索をしている間、艦橋かんきょうを調べてみた。天井の非常灯の他、操作パネルの一部のみが薄暗い艦橋かんきょうの中で光を点滅させていた。どうやら非常電源の管理パネルのようであった。

 キャミルがその管理パネルに近づいて画面を見てみると、次々とメッセージが表示されていた。どうやら、主電源の復旧を試みているようだった。

 しばらくすると、マサムネと兵士達が艦橋かんきょうに戻って来た。

「艦長。隅から隅まで探しましたが、船内には、荷物室の他には部屋はなく、乗組員は、どうやらこの一体だけだったようです」

「ごくろうだった」

 キャミルに探索結果を知らせた後、マサムネが人型機械人形アンドロイドそばに近寄った。

「それより艦長。こいつのことですが」

 マサムネが人型機械人形アンドロイド右頬みぎほほを軽くなぐったが、当然、反応はなかった。

「先ほどの動きは遠隔操作では無理ですし、実際、この船には他に誰もいませんでした。そうすると、こいつは自ら考えて艦長を襲ってきたということになります」

「自律的思考回路を持ったロボットと言うことか? しかし、そんなロボットは製造も所持も禁止されているはずだ。いったい誰が?」

「……関係はないと思いますが、この船の貨物室に積まれていたのは、合金を満載したコンテナでした。そのコンテナには、ファサド商会の名前が刻印こくいんされていました」

「ハシムの商会が……」

「単にこの輸送船の相手に合金を売り払っただけだとは思いますが……」

「しかし、その取引契約をする時、誰が相手だったんだ? ……ハシムに話を訊かざるを得ないな」

 そう言うと、キャミルは自分の左腕にはめている情報端末を操作してハシムを呼び出すと、すぐにハシムが出た。

「キャミルか。珍しいな」

「ハシム。今日は職務で連絡している」

「職務? 俺は宇宙軍にお世話になるようなことは何もしてないぜ」

「最近、合金を誰かに売ったか?」

「最近って言うか、昨日、売ったばかりだ」

「買い主は誰だ?」

「契約上の秘密だが……、それは軍の調査権に基づく正式な聴取ちょうしゅか?」

「そう考えてもらって良い」

「分かった。まあ、それほど相手方の利害を害するって訳じゃないだろうからな」

「うむ。頼む」

「俺も初めて取引をした相手なんだが、サリド商会というところだ」

「サリド商会? 何をしている商会だ?」

「製造業もしているが、収益のほとんどは特許パテント収入らしい」

「らしい? 初めての取引相手なのに調べなかったのか?」

「支払いは手形が多いから、基本的には事前に調べる。しかし、今回の取引は一括前払いっかつまえばらいだったので、こっちとしては、誠実に商品を調達して来て納品するだけだったからな」

「納品はどこで?」

「惑星ピクルだ」

「……実は、さっき、ハシムが納品したと思われる合金コンテナを積んだ輸送船がこちらの警告を無視して停船しなかったことから拿捕だほしたところだ。拿捕だほしたのは、惑星ピクルの隣の空域だ」

「えっ、そうなのか? 俺はてっきり惑星ピクルの開拓資材として利用するものとばかり思っていたんだが」

「取引の場には誰か立ち会ったのか?」

「ああ、商会の代理人というテラ族の男性が立ち会った」

「この男か?」

 キャミルは艦橋かんきょうのドア付近に固まったままの男性ロボットの顔の映像をハシムに送った。

「ああ、そうだ。その男だ。でも、何でそいつは目をひんむいてるんだ?」

「い、いや、気にしないでくれ。……悪かったな。時間を取らせて」

「いや、そんなことはどうでも良いが、俺が納品した合金が何か悪いことに使われているのか?」

「まだ確認はできていないが、ハシムに責任が及ぶことはないだろう。何かあれば、また連絡させてもらう」

「ああ、いつでも。それじゃあな」

 キャミルが通信を切ると、マサムネに話した。

「どうやら、こいつは商談のためだけに必要だったようだな。この輸送船自体も自動航行されているようだし」

「この輸送船も、と言うことは他の戦闘艦と同様に、という意味ですか?」

「そうだ。このパネルを見てみろ」

 キャミルは、電源管理用パネルの前まで移動して、その画面を指差した。

「ここにメッセージが次々に表示されているが、同じメッセージが繰り返されているようではないみたいだ。電源の復帰を目指して、こいつが自ら考えて色んな処置をこころみているようだな」

「自分で判断できる程度のコンピュータが、この船自体の運行を管理していると?」

「おそらくな。艦橋かんきょうの造りを見ると、この輸送艦は既存の輸送船を自動航行の船に改造したものだろう。しかし、搭乗ゲート自体がなかった戦闘艦は、最初から無人航行できるように造られたのではないかと思われる」

「あれほどの戦闘艦を独自に造るとすれば、大型のドックを備えた造船所に匹敵ひってきする設備が必要ですぞ。しかし、そんな造船所が隠しおおせる訳がありません」

「そうだな。それに莫大ばくだいな資金が必要なはずだ」

「確かに。あのクラスの戦闘艦が五隻ですからな」

「ハシムから合金を前金一括まえきんいっかつで買うことなど朝飯前なのだろう。しかし、今、思えば、こいつらを撃墜せずに泳がせておけば良かったな。惑星ハーナルに向かったら、不審船を追って侵入したという理由が立ったのだが」

「そうですな。まさか、事情聴取をすべきヒューマノイドが誰一人もいないという状況は想像だにしていなかったですからな」

 乗組員を引っ捕らえて、惑星ハーナルに向かっていたと口を割らせて、惑星ハーナル着陸の堂々たる理由ができるとキャミルは踏んでいたが、まったくの誤算であった。


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