表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
リンドブルム☆アイズ  作者: 粟吹一夢
Episodeー05 機械人形の国のアリス
108/234

Scene:03 惑星ハーナル上空(3)

「敵艦隊から砲撃あり!」

 索敵さくてき係の叫び声とともに、アルスヴィッドは激しく揺れた。

「被害は?」

「外壁に損壊そんかいなし! レーザー砲にも損傷なし!」

 ビクトーレが目の前の集中管理パネルを素早すばやく確認して報告した。

 その間にも、護衛船団から次々にレーザー砲撃が撃ち込まれてきて、その都度つど、アルスヴィッドはかなり揺れたが、全艦シールドと分厚い装甲でおおわれた外壁を破られることはなかった。いざという時の逃走のため、それほど分厚い装甲を付けていない海賊船にとっては脅威となる攻撃力ではあったが、ギャラクシー級戦艦の前には威力不足であった。

「派手にぶっ放してくれていますが、どうやら、かなり旧型のレーザー砲のようです。あの大きさで最新の砲門であれば、かなりの被害が出ているはずです」

 砲撃の専門家でもあるビクトーレが、敵砲撃の破壊力からその砲門のおおよその製造年代を推測すいそくしたようだ。

「向こうから砲撃を仕掛けてきた! 当艦も応戦する! 敵艦隊方面の砲門を開け!」

 球形であるアルスヴィッドの、敵艦隊側の半球部分に搭載されたレーザー砲門のすべてが開かれた。

 その間にも、敵艦隊からレーザー砲撃が続いたが、いずれもアルスヴィッドに損傷を与えることはできなかった。

「敵艦隊全艦のエンジン部分を撃ち抜け!」

 敵艦隊の攻撃力が脅威ではないことと、正体不明の艦隊として、取り調べも必要と判断したキャミルは、敵艦隊を航行不能とするだけの攻撃を選択した。

「砲撃準備完了!」

 砲撃部門の指導を担当しているビクトーレの指導により熟練じゅくれんした砲撃技術を習得しているアルスヴィッドの砲撃手たちは、すべての砲門において敵艦隊の全部を迅速に捕捉ほそくした。

「撃て!」

 キャミルの号令とともに、砲門からレーザービームが一斉に発射されると、五隻の戦闘艦と一隻の輸送艦のエンジン部分が正確につらぬかれ、敵艦隊全艦があっと言う間に航行不能となった。また、動力源をやられてレーザー砲も使用不能になったようで、砲撃もぴたりと止まった。 

「アルスヴィッドを敵艦隊に近づけて、投降とうこうを呼び掛けろ」

 しかし、通信士が投降とうこうを呼び掛けても、相変あいかわらずなしつぶてであった。

「こんな状態になってまで無視するつもりか?」

 交戦前には、投降勧告とうこうかんこくを無視する海賊達であっても、勝敗が着いた後には、おとなしく投降とうこうして来て、助命を訴えてくることがほとんどだったが、今回の敵はそれもなかったことから、さすがのキャミルも薄気味うすきみ悪くなってきた。敵艦隊は、まるで幽霊船のように宇宙空間に漂っていた。

「よし! アルスヴィッドを敵戦闘艦に接舷せつげんさせて乗り込む!」

 敵艦隊の各船は、アルスヴィッドに収容するには大きすぎた。

 アルスヴィッドは一番手前に漂っていた戦闘艦に接近するとロボットアームを伸ばして、その戦闘艦を捕捉し固定した。

「搭乗ゲートが見当たりませんな。乗組員は、一体どこから乗り込んだんでしょう?」

 敵戦闘艦をモニター上で観察したビクトーレが言ったように、敵戦闘艦の船体には、搭乗ゲートのような、船内への入り口となる箇所かしょがまったく見当たらなかった。

「輸送船の方に接舷せつげんしろ」

 アルスヴィッドは、捕捉ほそくしていた戦闘艦が慣性かんせいで飛んで行かないように慎重にロボットアームから解放すると、今度は輸送船に近づいて行った。輸送船には荷物の積みおろしをするゲートとは別に搭乗ゲートと思われる箇所かしょがあった。

 アルスヴィッドはゆっくりと輸送船に接舷せつげんして、ロボットアームで固定すると、直径約三メートルの乗り込み用の透明なチューブを搭乗ゲートと思われる場所まで伸ばして密着させた。

「よし! 私も乗り込む! マサムネ、十名の要員を準備させろ!」

「了解しました」

 通常は、戦艦の艦長が自ら敵艦船に乗り込むようなことはしないが、今回も、キャミルは自分流をつらぬき、マサムネもそれを当然のことのように受け入れた。

 簡易戦闘宇宙服を着込んだキャミルとマサムネ率いる十名の突入部隊は、乗り込み用チューブを通って、輸送船の搭乗ゲートまで来ると、外部から搭乗ゲートを開くためのスイッチを探し当てて、搭乗ゲートの外扉を開いた。搭乗ゲートは、緊急に脱出する場合がある必要上、船の動力源が途絶えた場合であっても、非常用電源により動作するようにされているのが通常であった。

 キャミル達は、開いた搭乗ゲートから密閉室の中に入り、全員が入ってから外扉を閉めるスイッチを押すと、密閉室内に空気が満たされる音がして、しばらくすると自動で内扉がスライドして開いた。

「よし! 行くぞ!」

 ここでも先頭を切ってキャミルが密閉室から輸送船内に乗り込むと、非常灯で照らされている廊下が左右に伸びていた。

 キャミルは、艦橋かんきょうがあると思われる船首方向に向けて歩き出した。

「人の気配がまったく感じられませんな」

 キャミルのすぐ後ろでマサムネがひとごとのようにつぶやいた。

 これだけの大きさの輸送船であれば、航海スタッフや機関士スタッフ、そして積み荷の管理スタッフなど、五十名ほどの乗組員がいてもおかしくはないはずであった。

「そもそも部屋自体が無いないようだ」

 キャミルは、この輸送船に乗り込んでからずっと感じていた違和感が、今、歩いている廊下のどこにもドアらしき箇所かしょが無いことで感じていることが分かった。もっとも、逆に言うと、敵がいきなり飛び出して来ることもないということではあった。

「一緒にいた戦闘艦といい、おかしなところだらけだな」

 しばらくすると廊下の突き当たりにドアが見えた。おそらく艦橋かんきょうであろう。

 キャミルが用心をしながらドアの前まで進むと、ここも非常電源が通じているようで、ドアは自動で左右に開いた。

 そのドア越しに見ると、非常電源で照らされた部屋の中には、様々な計器類が見て取れ、まぎれもなく艦橋かんきょうのようであったが、ここにも人影はなかった。

「よし! 入ろう」

 キャミルは、目だけを動かして、左右に注意しながら、ゆっくりと艦橋かんきょうの中に入って行った。

 次の瞬間!

 前方にダイブしたキャミルがいた空間に剣が振り下ろされていた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ