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リンドブルム☆アイズ  作者: 粟吹一夢
Episodeー05 機械人形の国のアリス
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Scene:02 惑星ハーナルからの刺客(3)

「くそ! 切りがねえ!」

 カーラが言うとおりだった。

 フェンリスヴォルフ号とアルヴァック号は、その持てる運動能力を駆使くしして脱出を図ったが、小回りがく戦闘機達は、まるでハエの大群のようにこの二隻にまとわりついた。いくつかの戦闘機を撃墜したり、一つの編隊をやり過ごしても、すぐに次の編隊が先回りして迫って来るということの繰り返しであった。

 背後から迫って来ていた戦闘機の放ったレーザービームがアルヴァック号の船尾をかすめた。船体が大きく揺れて、若干じゃっかんスピードが落ちた。

「被害は?」

 シャミルが訊くと、航海士がすぐに答えた。

「エンジンに影響なし! 船尾付近の船体が若干削じゃっかんけずられた程度と思われます!」

 アルヴァック号を置いて行かないようにメルザが指示をしたのか、フェンリスヴォルフ号が少しスピードを落としたが、その時をねらって、上空から近づいて来ていた戦闘機の放ったビームがフェンリスヴォルフ号のエンジン噴射口付近を貫通した。フェンリスヴォルフ号は、船尾に四つある噴射口の一つが制御不能におちいりながらも、残りの噴射口を全開にして速度を落とすことなく高度を下げていった。

「二十−四十四−八十九に転進! 急速降下! フェンリスヴォルフ号を追いかけてください」

「船長! どうするつもりだい?」

「このままメルザさんを置いて逃げることは出来ません!」

「おいおい。海賊を助けようと言うのかよ」

「メルザさんが助けてくれなければ私達は既に撃墜されてましたよ」

「そ、それはそうだが……」

 アルヴァック号もフェンリスヴォルフ号を追って、スピードを上げながら、どんどんと高度を下げて行った。

「しかし、何でフェンリスヴォルフ号は、エンジンを全開にして落ちているんだ?」

「あの戦闘機達から逃げているんです。エンジンを一つやられても、速度はまだ負けていませんから、あの戦闘機達の索敵さくてき範囲から脱出してから不時着しようとしているのでしょう。私達もそうしましょう」

 フェンリスヴォルフ号とアルヴァック号は、追って来る戦闘機達を振り切るように高速度を保ったまま、どんどんと高度を下げていった。戦闘機達は、アルヴァック号やフェンリスヴォルフ号を逃がさないため、上空に展開していたことから、地表に向かう方向にはほとんど戦闘機達はいなかった。

 ほどなくすると、アルヴァック号の索敵さくてき範囲から戦闘機達が消えていった。アルヴァック号のレーダー装置は最新鋭の物であったから、戦闘機達の索敵さくてき範囲からも脱出できたはずである。

 地表の様子もはっきりと分かるほど高度が下がると、前方に深い森が視認しにんできた。

 フェンリスヴォルフ号は徐々に機首を水平に近づけていき、深い森の中に滑空かっくうして行き、樹木をなぎ倒しながら、反重力ホバーとブレーキブーストを効果的に使って不時着を成功させた。すぐ近くにアルヴァック号も着陸した。

 森は樹木が密生しており、なぎ倒していった樹木も目立たないほどで、両船が着陸している場所も、密生した樹木の大きな幹から空に向かって広がっている枝葉によっておおい隠されていた。

 樹木のざわめきが収まった頃、両船の上空を戦闘機達の編隊が通り過ぎて行き、また、しばらくして、折り返して来たものと思われる編隊が通り過ぎると、それ以降は、上空に戦闘機は現れなかった。

「船長! フェンリスヴォルフ号から光信号が発せられています」

 通信士が言うとおり、艦橋かんきょうモニターに映ったフェンリスヴォルフ号の船体に設置されているサーチライトが規則性を持って点滅していた。

「『通信を使うな。これから外に出る』と言っています。通信システムを使って電波を発信することは、こちらの居場所を教えることになりかねませんからね」

 シャミルの指示で、アルヴァック号もサーチライトを使ったモールス信号で「了解」と返信した後、アルヴァック号の観察用スティックを船外に伸ばして、大気成分や放射線量、紫外線量を測定した。

 すべてをクリアする結果が出た後、シャミルと二人の副官は外に出た。

 森独特の湿った感じの空気だったが、やや肌寒い気温は、緊張した場面を少しはやわらげてくれるような気がした。

 フェンリスヴォルフ号のかたわらには、メルザとその副官達が既に立っていた。

 シャミルはメルザ達に近づくと、姿勢を正してからお辞儀じぎをした。

「メルザさん。どうもありがとうございました。お陰様で助かりました」

「おやおや、海賊やってて、人様ひとさまからお礼を言われたのは初めてだよ」

「でも、メルザさんが助けてくれなければ、私達は確実に包囲されて、今頃は撃墜されていました」

「シャミルさんこそ、撃墜されたフェンリスヴォルフ号に付き合って、着陸してくれたのかい? 優しいねえ」

「命の恩人であるメルザさんを置いて逃げることはできません。それに実際、あの戦闘機の大編隊の中をアルヴァック号だけで切り抜けられる訳がありませんでした。ここはフェンリスヴォルフ号と一緒に一旦いったん、地上に退避たいひした方が良策りょうさくと踏んだのです」

索敵さくてき範囲から出るために、速度を落とさなかったこともお見通しのようだね」

「はい。ブレーキブーストを噴射することなく落ちて行っているのは、そういうことだろうなって思ったんです。それなら私達もって」

「シャミルさんには、いちいち説明は不要だね。ああ、本当にしいよ」

「それよりフェンリスヴォルフ号の被害の方は?」

「ああ、そうだね」

 そう言うと、メルザとその副官は、フェンリスヴォルフ号の船尾付近まで歩いて行った。シャミル達もそれに従った。

 戦闘機に撃ち抜かれたエンジン部分を外から見ていたメルザは、シャミル達の方に向き直って言った。

「ヘタ打っちまったね。しかし、修理はそんなに難しくないだろう」

「怪我をされた方はいらっしゃいませんか?」

「私の部下の心配までしてくれるのかい? 海賊だよ」

「海賊かどうかは関係ありません。怪我が治った後で罪をつぐなえば良いのですから」

「ありがとうよ、シャミルさん。こっちだけで対応できるよ」

「そうですか」

「メルザ様! それより、これからどうされるのですか?」

 ファルアが、またシャミルへの嫉妬しっとの炎をメラメラと燃やしながら、メルザに一歩近づきながら訊いた。


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