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リンドブルム☆アイズ  作者: 粟吹一夢
Episode−01 惑星ヨトゥーンのラグナロク
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Scene:02 ボルディン商会

 銀河連邦の首都惑星アスガルド。

 惑星自体はアスガルド共和国として一つの連邦構成国家であるが、その北半球にあるアルフヘイム島全域は、連邦政府直轄(ちょっかつ)のアスガルド首都特別区に指定され、連邦議会、最高執行官府、連邦大審院と、立法、行政、司法の最高機関が所在する連邦の政治的中枢であった。

 シャミルが今回、任務遂行を果たした惑星探査の依頼主であるボルディン商会は、そのアスガルド首都特別区アルフヘイム島の西側に位置する大陸に、アルフヘイム島と海をへだてて向き合うようにしてある大都市で、アスガルド共和国の首都として機能するミッドガルド市にあった。

 ミッドガルド市は連邦経済の中心地でもあり、超高層ビルがその高さを競うように林立りんりつしていたが、その中でもボルディン商会の本社ビルは一際ひときわ高く巨大であった。

 シャミルは、カーラとサーニャとともに、そのボルディン商会本社ビル内の特別応接室にいた。

 ボルディン商会は、連邦内でも名の通った豪商で、主に医薬品を製造販売するとともに、その原材料となる各種資源の発掘や栽培をする事業を手掛けており、新たな資源発見のために、未探査惑星の探査についても積極的に依頼を出していた。

 惑星探査を探検家に依頼したい商人達は、探検者ギルドに依頼の仲介ちゅうかいを頼み、ギルドが登録している探検家達に各依頼の斡旋をしていた。

 いくつもの発見を重ねて名が売れた探検家になると、依頼主から直接、依頼がされる場合もあるし、豪商をパトロンとして専属契約を結んでいる探検家もいた。

 新進気鋭しんしんきえいと評判のシャミルであったが、まだまだ駆け出しの探検家と言って良く、今回のヨトゥーンの探査もギルドを通じて依頼を受けたものであった。そして、その探査の結果は、既にメールで報告済みであったが、依頼発注のお礼かたがた、依頼主であるボルディン商会当主アントニオ・ボルディンに直接報告するため、ボルディン商会まで来ていたのだ。

 応接室内はぜいを極めた調度品や絵画が飾られ、目がくらむようなシャンデリアが部屋を明るく照らしており、シャミル達は、必要以上に大きくふかふかのソファに三人並んで座って、当主であるアントニオ・ボルディンが来るのを待っていた。

 しばらくすると、これも必要以上に大きな扉が重々しく開き、恰幅かっぷくの良い老人が応接室に入って来た。

 きらびやかな装飾が施されたトーガをまとった老人は、微笑みながらシャミル達に向かって、ややしゃがれた声で「お待たせしました」と声を掛けた。

 一斉に立ち上がったシャミル達の前を通り過ぎて、シャミル達の座っていたソファと直角の位置に置かれた一人掛けのソファに座った老人は、「まあ、どうぞ」と、シャミル達にも座るように促した。

 シャミル達が再びソファに座ると、老人は笑顔を絶やさぬまま、シャミル達に話し掛けてきた。

「ボルディン商会当主アントニオ・ボルディンです。今回は当商会の依頼を遂行すいこうしていただきありがとうございました」

 シャミルもおくすることなく微笑みを浮かべながら、ボルディン当主に答えた。

「こちらこそ、ご依頼ありがとうございました。しかし、結果は残念なことになってしまい、申し訳ありません」

「はははは。あなたのせいではありませんよ。私が賭けに負けただけです。それに、惑星一つの探査費用が回収できなくなったとしても、ボルディン商会の屋台骨やたいぼねが揺らぐことはまったくありません。どうぞ気になさらないでください」

「しかし、失踪しっそうした先発探検家達の手掛かりも何もつかめませんでしたし……」

「やむを得ないでしょう。ヨトゥーン族の存在を確認した時点で、それ以上、ヨトゥーンに滞在することはできないのですからな」

 シャミルは、ヨトゥーン族と遭遇した時のことを思い出した。

 シャミル達が受けた依頼内容は、先発探検隊の通信が途絶とだえた際にいたと思われる場所に着陸して、探査をしてほしいということであった。ボルディン商会が指定してきたその位置は、北半球にある大陸東岸の砂浜であった。

 しかし、着陸した砂浜のすぐ近くに、木造の小さな船が係留けいりゅうされている港のような施設があり、そこでシャミル達はヨトゥーン族の人々と遭遇をした。

 ヨトゥーン族はテラ族の白人とまったく同じ容姿を持つヒューマノイドであったが、その知識レベルは、かつてのテラの中世ヨーロッパ程度であり、まだ動力機関を持たないその生活水準を見れば、保護対象種族に該当することは明らかだった。

 シャミルは、ボルディン商会に、任務遂行が不可能となった旨の連絡を入れるとともに、惑星探査や開拓について一元的に管理をしている惑星開発省に通報した。そして直ちに、ヨトゥーンを後にしたのであった。

「シャミルさんとおっしゃったかな?」

 ボルディン商会当主の呼び掛けで、シャミルは回想から引き戻された。

「はい」

「噂では、将来有望な探検家とお聞きしております」

「身に余るお言葉、痛み入ります」

「我が商会は積極的に惑星探査の依頼をギルドにお頼みしていますので、今後とも我が商会のご依頼を是非お受けいただきたい」

「分かりました」

「その成果次第では、当商会との専属契約も考えますぞ」

「はい。頑張ります」

「今回の報酬はギルドから受け取ってください。成功報酬は出せないが、若干じゃっかんは上乗せをしておきました」

「恐れ入ります」

「今日は、わざわざご足労そくろういただきありがとうございました。それではこれで……」

 ボルディン当主が立ち上がり、シャミル達をうながすように手を差し伸ばすと、その先にあった扉が静かに開いた。

「はい。今後ともよろしくお願いいたします。では、失礼いたします」

 シャミル達も立ち上がり、当主にお辞儀じぎをしてから、その扉から応接間を出て行った。

 応接間を出て右に向くと、遠くにエレベーターの扉が見えた。シャミル達は両側の壁に絵画が飾られ、床には赤い絨毯じゅうたんが敷かれている廊下ろうかをエレベーターに向かって歩いた。

「たったこれだけの事でわざわざ来る必要があったのかい?」

 応接間で一時間も待たされて、当主に面談できたのはわずか一分ほどしかなかったことにやりきれなさを感じたのか、廊下ろうかを歩きながら、カーラが愚痴ぐちをこぼした。

「連邦でも一、二を争う豪商の当主が直接お会いしていただいただけでも良しとすべきでしょう」

 シャミルの表情にオッズを付けたとすれば、怒った顔はかなりの高倍率になることは確実だった。この時のシャミルもオッズ一倍の笑顔であった。

「まったく、うちの船長はお人好しだねえ」

 少しあきれた顔をしてカーラがシャミルを見たが、シャミルから微笑みを返されると、カーラは苦笑にがわらいするしかなかった。

「まあ、それがウチらの船長だからにゃあ」

 カーラの様子を見てサーニャが言うと、カーラも同意した。

「そうだな。そんな船長にれ込んでいるアタイ達も、とんだお人好しだよ」

 三人は笑いながらエレベーターに乗り込んだ。


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