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お気楽悪魔  作者: Skywave
4/7

3話:仄


 来てしまった人間界。せっかくだし、綺麗な景色が見てみたいと言うルナの言葉が今回の始まり。

 俺達は遠くに見えていた意外と近くの山に向かっている。


「……なぁ、これって歩かなきゃ駄目なのか?」


 決して高くはない。でも面倒だ。俺は言い出したルナに問い掛ける。


「たまにはいいじゃない? 無理やり付き合わせたのは悪かったけどさ……」


「やだ。こんなの走ったら直ぐだし」


「仕方ないでしょ。あんたに追い付けないんだから」


 まぁ、確かに……。


「あ、じゃあおぶってやるよ」


「えっ? だ、ダメっ! 待って!」


 このまま歩いてれば日が暮れるかもしれない。今は昼みたいだから大袈裟だけど、そろそろ我慢の限界。俺はルナを担いだ。


「ダメだって言ったのにぃ……」


「なにが? そんな、おぶるぐらいで嫌がらんでも」


「ち、違うのっ。やじゃないけど……」


「けど、なに?」


「も、もういいよ。早く連れてって」


「歩いてる方がいいとか早く行けとか、変なやつだな……」


「放っといて!」


「いっつも放置すんなって言うのはお前だろ?」


「違うっ! それぐらい解りなさいよ、馬鹿っ!」


「えー……?」


 言いがかりだー。そう思いはしたけど叱咤されて走り出す。


「ちょっ……、は、早過ぎっ!!」


「お前が早く行けって言ったんだ。それ以上文句言ったら降ろすからな?」


「そ、そんな……じゃあせめて、速度緩めようよ?」


「無理♪もう限界っ」


 加速するにつれ、ルナの声にどんどん余裕が無くなって行く。自分でも自覚があるぐらい、Sな俺にはちょっと楽しい。

 これはもっといぢめなければ。


「あ、滑った」


「え、--……ッッ!?」


 ジャンプした時、ふざけてルナを落としてみる。驚いてるのか声が出ないようで、目を何時もより見開いていた。そのまま、限界越えるまで放置。


「わ、わかったぁ! わたしが悪かったから、もう助けてっ!」


「仕方ないな……」


 突然過ぎて羽を広げることすら忘れたのか。縮まって小さくなってた。

 って、俺は謝らすつもりじゃなかったんだけど。ま、いいや。とりあえず地面すれすれでキャッチ。


「も、もう止めてね? これ以上されたらホントに死んじゃう……」


 普段は気が強いルナ。しかし天性のビビりで、こうなるとめちゃくちゃ弱い。

 潤んだ目を向けられて、ちょっと笑ってしまった。

 俺がこれぐらいで止めると思ったのか? 甘い甘い。


「次はどうされたい?」


「このまま、なにもしなくていい……」


 あれ、キャッチした腕の中でうずくまってしまった。


「答えないんなら仕方ない。俺が勝手に決めるか」


「ま、まって! 答えるから--」


 なにか反応あるかな? って思ってたら必死に抱きついてきた。普段なら有り得ない行動にちょっと顔がニヤける。この時だけは可愛いのになぁ……。

 と思いつつも結局、飽きるまでいじめ抜くと気付けばルナは安らかに気を失っていた。頂上に着いたのも丁度、同じ頃。

 さて、起こそう。


「おーい。着いたぞ?」


 パチパチと頬を叩いてみる。


「うぅ……ん」


 起きない。

 面白がって悪ノリして胸を撫でてみる。俺は悪魔に興味ないから、決して欲情したわけではなく。


「……あっ、はぅ……んん……あ」


「起きろ~」


「ん……えっ? なななな、なにやってんのよ!?」


 ルナは起きた途端、物凄い勢いで胸を押さえて後退った。なんか言われるのは予想してたけど、にしても気持ちいいくらいの拒絶反応だ。まさかこんなに嫌われてたとは。

 心なしか凹む。


「あ、やっと起きた」


「やっと起きたじゃない!! あんたはなにがしたいの!? 悪魔に興味ない筈でしょ?」


「確かに俺が悪いけど、そんな怒らんでも……」


「誰だってキレるに決まってるでしょ!! って……えっと、もしかして……わたしに興味あ--」


「いや、それはない」


 うるさかったので即答する。やっぱそこは押さえとかないとな。


「……やっぱそうよね」


 あら、元気がなくなった。


「どした? 何時も言い返すのに」


「うるさい!!」


「……なんだよ。俺がお前に興味がなくても、そんなこと関係ないだろ?」


「それはそうだけど……べっ、別にいいじゃない! って、怒ってんのはあんたが、その……失礼なことしたからでしょぉが!」


「うん、それは俺が悪かった」


 半笑いになってしまって、誤魔化そうと下を向く。


「ま、まぁ、謝るんだったら許してあげる。……そ、それに、そんなにイヤでもなかったし……」


 意外と誤魔化せたみたいだ。というよりそれどころじゃなさそうで、俺が顔を上げるとルナは横向いて顔を真っ赤にしてた。

 って、見てて聞いてなかったよ! 今、なんていった?


「は……?」


「なっ、なんでもないっ!」


 ま、いいか。

 そんなことより気になっていたことが一つ。ついでに聞いてみるか。


「それより、なんでこっちにまで着いてきたんだ?」


「い、いいでしょ……それぐらい」


「よくない。何時も適当に済ますけどそろそろ追っかけが鬱陶しい」


「ぅ……か、軽くあしらえるからいいじゃない」


「って言うか、何時も庇ってんだからそれぐらい言えよ」


「……っ、うるさい! うるさいっ! と、とにかく、わたしはあんたに着いてくけど理由は言えないのっ!」


「だから、それじゃ納得できな--」


 食い下がる俺の言葉をルナが遮った。


「な、なによっ。……そんなにイヤだったの?」


 んむ……、そう言われるとそこまで嫌なわけでもない。


「いや、それほどではないけど……」


「そう、ならいいでしょ?」


「んー……ま、いっか」


 あれ、なんか言いくるめられてる?

 と、俺が腑に落ちず頭を傾けている時、ルナの視線は固定されていて、ただ一点を茫然と見渡していた。


「どうした?」


「綺麗……」


 なにが?


「……?」


「だから、景色よ。景色っ! 今日はこれ見に来たんでしょ?」


 あぁ、そうだっけ?

 完全に忘れてた。と、気を取り直してルナと並ぶ。

 右から吹く風が頬を撫でる。夕方に差し掛かった日差しは適度な温度に保たれていて、体の中からじんわりと温めていくような……、とは言っても悪魔は恒温なため関係はないけど、とにかく不満を纏めて投げ捨てたように気持ちがいい。

 目の前を桜の花びらが舞い、眼下一面をピンク一色に染めていた。魔界にはない、人間界独特の四季というもの。どうやら今は春のようだ。初めて知ったよ。

 ……とまぁ色々と言葉を並べてみたけれど。


「……これのどこが綺麗なんだ?」


 俺の一言にルナが息を吐く。


「あんたはそう言うと思ったけど、風情ぶち壊しよ……」


「風情て。人間じゃあるまいし」


 俺が何気なく呟くと、ルナは少しだけ黙って。


「いいじゃない。憧れるぐらい」


「え?」


 ……って、マジでイメージしちゃったよ。


「いや、まぁいいんじゃないか?」


「じゃあもし、わたしが人間だったら……、あんたはどう思うの?」


「……ん~~」


 そうだな。もしそうだったら俺は……、


「--あー、そりゃヤバいかも。でも、それがどうかしたのか?」


「……ううん、なんでもない」


 ルナは、そう言うと視線を戻す。

 意味が解らない。と、俺は呆然として見る。吹いた風に髪がサラサラと靡いてて、だらだらと過ごしたせいか日が傾き、オレンジがかった光が照らしていたルナの横顔。 悲しげに微笑むような姿に、俺は少しの間魅入っていた。


「……それにしてもお前って、意外とあったんだな」


 なにか、とは言わない。ただ視線を落とした先にある、両手に残ってた柔らかい感触と心地よい暖かさ、ふと思い出して考えるより先に呟く。


「……? --なっ!!」


「いいと思うよ? 少なくとも、俺はそういうギャップに惹かれる」


 ルナがふるふると小刻みに震える。

 これは流石に逆鱗に触れたみたいだ。


「……む、無理なのはわかってるけどっ、殺してやるっ!!」


 それから顔を真っ赤に染めて殴りかかってくる。しかし俺には当たらない。だって遅いし。


「はっは、無理だって」



「うぅぅ! もういいっ! 着いてこないでっ!」


 虚しく空を切る拳に業を煮やして、どこかへ歩き出した。


「どこ行くんだ?」


「知らないっ! あ、後で探して!」


 ……意味わかんねー。



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