始まり
前作では、個人的な理由で勝手に完結扱いにして申し訳ありませんでした。
立ち直るきっかけのようなものもあって良い方向に傾いてきましたので、頃合いを見て前作の方もちゃんと完結させたいと思います。
でも先がさっぱり思い付かないので今はこちらで。
夜、街から少し離れた人通りの少ない道に夥しい量の鮮血が舞う。
「お前ら、ほんとしつこいな」
今も血を零して倒れていくその集団はどこかおかしい。背中には翼、頭には黒い角を生やしていて、その姿はさながら悪魔のようだった。
集団の真ん中ではその中でなら一番普通とも言える黒髪黒目の青年が、圧倒的な強さで惨劇を起こしている。
その青年がうんざりした口調で呟くと、手に持った長い刀を振るった。
ただそれだけで、青年の前に居た連中が絶叫と共に断ち切られていく。
「悪いけど、面倒だから焼くね?」
青年は、一度の斬撃で背後に残った集団に零すと手を向けた。
「ッギャァァァァァ!!」
直後に爆発が起こった。
かと思えば、生き残りに向かって凄まじい速度で刀を振るう。
たった五秒、それだけの時間で惨劇は幕を閉じた。
「あ、ぁ……」
最後にその場に残った、理解できずに怯える女の子が一人、長い刀を持ち、返り血を浴びる青年が一人と、一つ残らず真っ二つに裂けた異形のもの。
「……大丈夫?」
ふと、青年が声を掛けた。
陵辱を受けようとしていた少女を心配して。
「ひぃ……ッ!?」
しかし、少女は普段なら可愛らしいだろう顔を恐怖に歪めて、物凄い勢いで走り去っていった。
「あー……、ま、この姿ならビビって当然か」
淡い光を放って、青年の刀が短い鉄の棒に変わる。
それを青年は当たり前のように無造作にポケットに突っ込んだ。
「もう諦めなよ?」
そう言って青年に声を掛けたのはさっきまでその場に居なかった筈の少女。
背中には小さな羽を生やし、ふわふわと空を漂うところを見ると上から見ていたのだろうか。
「やだ。せっかくこっち来たのに」
その異常とも言える光景に、青年は声の方を向くことすらしない。
そんなことでは驚きもしなかった。そもそも2人は人間ではないのだ。
「わざわざ探さなくても、あんたに相応しい相手は意外と近くに居るかもよ?」
「俺はその人を探してるんだよ」
青年の言葉に、少女は深く深く溜め息を吐いた。
「……人間に興味がある悪魔なんて、学者かあんたら親子ぐらいよ」
少女の言うように、この青年と少女は悪魔なのだ。
その証拠に青年は二本の角、少女には黒い尻尾が生えている。
「いいだろ別に。俺は誰にも迷惑掛けてない筈だっ、多分っ」
「それよ。その考え方も変わってるわ」
少女は両手をひらひらと揺らした。
「そのくせ神の加護を受けてるんだっけ? ほんと解らないことだらけ」
「他のやつに言うなよ? ただでさえ親父が有名なんだから苦労してんだし」
「解ってる。で、次はどーすんの?」
「襲われてる人捜し」
「はぁ……?」
「なんか困ってるとこを助けると、見る目が変わるんだと」
「へぇ……、また懲りずに逃げられる訳だ?」
少女の嫌みに青年は少しだけムッとする。
「解ってないなぁ……。こういうのは難しいからいいんだよ」
「はいはい。じゃあ着いてくから早く行こ」
「こなくていいって」
少女は驚いた顔を青年に向けた。
「こっ、こんな、初めて来た世界でわたしを一人にするのっ!?」
「えー……? お前も悪魔だろーが」
「そ、そうだけど放置はやめてよ。邪魔しないから」
「……まぁ邪魔しないならいいか」
--こうして、気楽な青年の物語が始まった。
前回を超えるもの、より良いものをモットーに。