装飾系の冒険者
一般に、冒険者の装備で複雑な装飾が付いたものは少ない。
まあごてごてしていれば、単純に動きづらいからである。
騎士の儀礼用装備には、意匠を凝らした装飾が付けられるが、
あれは身分や家系を示したりと真っ当な理由があるのだ。
意味もなく飾り付けられているのではない。
そうした行動の必要がない冒険者にとっては、
御洒落にこだわって魔獣に倒されました、など論外である。
普通なら。
◆
ここにいるは二つ星の下級冒険者ラーモ。女魔術師である。
冒険者が十人いれば、魔術師はその中で一人いれば良いほうだ。
魔術師の攻撃力は、いざという時とてつもない切り札になる。
ゆえに例え下級冒険者であっても、仲間への勧誘は多い。
それに加え。
ラーモは若く、客観的に見ても間違いなく美人の部類だろう。
艶やかな黒く長い髪、美しい輝きを放つ琥珀色の瞳。
目元の泣きぼくろに加え、柔らかそうな形の良い美しい唇。
あまり声を出さないが、一度聞けば忘れられぬ心地よい美声。
化粧っ気がないのに、すれ違えば得も言われぬいい香りが漂う。
小柄ながら色っぽい体形も実に女性を感じさせる。
仮に恋愛関係になくとも、彼女が側にいるだけで気持ちが昂ろう。
彼女は普段単独活動なので、仲間に誘う者が殺到しそうなものだが。
装備が周囲から浮いていた。飛び抜けて。ものの見事に。
黒い布地で隠れても無理矢理分からせられる、豊かすぎる胸元。
肩とへそは素肌をさらし、ショートパンツが魅惑の生足を主張する。
それだけなら許す者も多かろう。現にこの場の男達は許している。
が。
まずは帽子。形状はよく聞く「魔女の帽子」というやつであるが、
赤黒い肉色をしており、生物のように血管状のものが脈打っている。
荒い縫い目が所かまわず付いており、眺めていると心がざわつく。
さらに巨大な口が多数ついていて、時々不規則な呼吸音がする。
普段閉じているが、たまに開くと微かに呻き声まで聞こえてくる。
次に手足。長手袋と長靴も帽子同様に脈打つ血管が這う赤黒い肉色。
こちらには充血した巨大な目が長い睫毛と共に多数ついている。
当然瞬きもし、ぎょろぎょろと不規則に周囲を見回す。
なお長手袋にも長靴にも指先に、生爪を剝がされたような跡がある。
首飾りは遠目には分かりづらいが、蛇の頭蓋骨が何かを咥えている。
近付けばそれが規則的に脈動する小さな心臓と分かる。
耳飾りも一癖あり、干からびた指のようなものがぶら下がっている。
その長い爪先は光沢のある黒で塗られており、時折痙攣している。
最後は杖。杖の頭には側頭部で繋がった十二の頭蓋骨が付いている。
杖の柄は脊髄。頭蓋骨から伸びる十二本が螺旋状に絡まっている。
見れば頭蓋骨は人のそれではない。短い角が二つずつ生えている。
眼窩には宝石が埋め込まれ、十二色の輝きをそれぞれ放っている。
杖は手に持っている訳ではない。宙に浮いて彼女についてくる。
移動停止していると、歯をガチガチ鳴らして演奏会が始まる。
ラーモが現れても、大半の者は恐れ多くて目も合わせられない。
軽い気持ちで彼女を勧誘しようとする猛者もたまに出てくるのだが、
手足にある充血した目が瞬きをやめ、凝視する視線に耐え切れず、
勧誘者は全員、途中で用事を思い出す。
途轍もない力を秘めた魔術師ではなかろうか、と皆に思われつつも、
彼女がこれまで請け負う依頼は希少な種類の薬草採集だけだった。
◆
「ただいま戻りました、ししょー」
幼少時から世話をしている教え子のラーモが帰宅した。
普段は自前の畑で栽培した薬草を冒険者組合に納品させている。
この子には一人で生活出来るよう冒険者知識を教え込んだのだが、
そろそろ独り立ちさせようかと思って、はたと気が付いた。
何事にも素直で覚えも良いラーモだが、騙されやすいとも言える。
しかも成長するに従って、途轍もなく美しくなってしまった。
疑う事を知らぬこの子がバカ共の餌食になるなど許容出来ぬ!
可愛い教え子に、虫けらなど近づけさせるものか。
知り合いである、良識を置き去りにしている少年に協力を仰ぎ、
見た目が妖しく近寄りがたい装備を拵えて、ラーモに着せた。
「装備の特殊効果がおまえを守ってくれるから」と言って。
我が眼鏡にかなわぬような輩は、徹底的に排除してくれよう。
過保護なバカ師匠。でも上下の衣装は趣味全開。疑いもせずラーモは着用。
見た目を超える異常な性能も詰め込まれた事は、師匠も気づいていない。




