表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

悪役令嬢と馬鹿王子の愛人の元婚約者の話

作者: 山田 勝
掲載日:2026/02/07

 天にまします我らが女神様、貴方が全知全能ならば、どうしてこの世には不条理が蔓延しているのですか?


 と退屈なので殴られながら吟じてみた。


「オラ!オラ!どうだ!参ったか!」

「ま、参りました・・・」


 俺はオットー・ブッカー、拳闘に近いもので殴られた。相手は王族のゲオハルト殿下。

 学園では絶対に手をあげてはいけない相手だ。



「これで参ったか?リリアナをいじめた罰だ!」

「殿下、あたしのために・・・嬉しいですわ」



 リリアナは俺の婚約者だった。学園で殿下に気に入られて、・・・まあ、取られた。

 俺が高圧的な態度をしていた。リリアナはビンタをされたと吹聴された。


 か弱き令嬢を助けた殿下、殿下には公爵令嬢の婚約者がいるが、リリアナは愛妾になるのだろう。

 リリアナの親も大喜びだ。


 実際はそんなことはしない。確かに俺は寡黙で女性が好む会話は出来なかった。

 俺のぶっきらぼうな性格が災いして周りは信じたようだ。


「よし、剣をもらうぞ!」


 家門の紋章が入っている剣を取られた。

 それを学園の掲示板でさらされるのだ。

 良い恥さらしだ。


 屋敷に戻ると親父にため息をつかれる。


「何故、もっと、上手くやらないのか?貴族らしくない」

「父上、申訳ございません・・」


「まあ、良い。殿下を殴らなかったのだな」

「はい」

「兄上、私だったら上手くやれますよ。そんな状態にもなりません」


 俺は子爵家、吹けば飛ぶような家門だ。


 しかし、そんな俺を慕う者はいる。

 メイドのジェーンだ。茶髪の20歳。


「坊ちゃま、大変、今、治療しますわ!」

「ジェーン、俺に構うと出世できないぞ」

「出来ませんよ。どうせ」


 治療をしてくれた。

 彼女が家に来たときは13歳だった。二歳上だった。

 オロオロしていたので、俺がオモチャの片付けをやらせた。

 これは太宰治の黄金風景のオマージュだ。


 女中にオモチャの整理とかさせて、太宰はヒドい扱いさせたと後悔していたが。

 実際は女中にとって弟と接するようで救いになっていたとか。


 これも前世の記憶だ。俺は傭兵だった。

 傭兵と聞くと、伝説の~となるが実際は違う。

 近年の戦争は急速に変化する。


 古い傭兵は最近の戦争が分からないことが多々ある。

 だが、人心掌握術は衰えない。

 如何に部下の心を掴むかが肝なのだ。




 殿下から決闘を挑まれてから、皆は腫れ物に触るように俺に声をかけなくなった。


 剣を買いに武器屋による。



「店主、何か良い剣はないか?」

 すると店主は決闘で剣を取られた噂を聞いていたのか。それに触れないで無言で剣を差し出してくれた。


「この中から選びな。価格も手頃だ」

「ありがとう。これにする」


「しかし、あんたも難儀だな。ほら、この前、剣の手入れをしたとき分かったぜ。相当な達人だな」


「店主殿、買いかぶりすぎです」

「分かるんだよ。歯のこぼれ具合でな」


「それしかやることはないのですよ」


 この世界、スマホもなければ動画もない。非常に退屈だ。

 だから、魔法、剣術に没頭した。それだけだ。


 前世を考えればなんていうことはない。



 それからイジメが始まった。


 わざと聞こえるように言う奴。


「あ~、女と剣を取られて貴族かね」


 殿下にならって俺に決闘を申し込む奴。


「おい、令嬢に対する暴行、私も見逃すことは出来ない!」


 お前、誰だ?


「決闘を辞退します。名誉は貴方の元へ」

「フン!やはり口ほどでもないな」


 俺がいつ口で武芸の自慢をした?



 独り飯。庭で飯を食べていると、ゴミ箱に俺の剣があった。


「まだ、使えるのにな・・」


 殿下に捨てられた。これは俺が入学の時に買ってもらった剣だ。

 ゴミ箱から拾い状態を見る。

 すると後ろから声をかけられた。


「オットー殿、貴方はそれで良いの?」

「良いのです」


 声で分かった。殿下の婚約者、ローズマリー・ヴォルク

 気配で5,6人か、ご学友を連れている。


「貴方は、私が殿下を御さないから・・とは言わないの?」

「いいません」


「なら、思わないの?」

「思いません」


「何故?」

「想いは理屈ではないからです」

 振り向きもせずに答えた。


 想い・・・合理性の局地と言える軍隊でも想いは大事だ。




 ☆回想


『・・・軍は戦略性が皆無なこの地方を死守しています。何て、不合理なのでしょう。撤退すれば良いのに・・・』


 前世、軍事に詳しい専門家なる者がそう解説していた。俺は少数民族側に立って戦っていた。


 そうじゃない。この地方は精神的支柱だ。日本で言えば、皇居や伊勢神宮が占領されるようなものだ。

 それにどこに撤退をすれば良いのか?




 ・・・・・・・



「まあ、失礼ですわ」

「ローズマリー様に礼をしないなんて」


「失礼、見せられる顔ではありませんので」


 顔はボコボコだ。

 知らない学園生にも殴られる。


 これで良い。卒業したら地方の官吏にでもなろう。

 家は弟に継がせれば良いか。



 そんなとき、弁当を忘れた。


「しまったな。学食に行くか・・」

 学食には人がいるからな。ジェーンにつくってもらっていた。


 学食に向かう途中、庭で喧噪が聞こえる。


「こ、これは坊ちゃまのです!お止め下さい。リリアナ様も・・・坊ちゃまはそんなことをする方ではありません」


「フン、臆病者のランチボックスはこうしてやる!」


 バン!と蹴飛ばされている・・・・


 殿下とリリアナとその取り巻き男女数名か。


「キャア!食べ物を踏みつけないで下さい!」

「これでいい。これをオットーに食わせろ!」



 俺は景色が真っ白になった。自分を慕う者が嬲られたら・・・それだけは譲れない。


 自然と動いた。


「おい、オットー、これを食え!」


 殿下の隣にいた取り巻き。側近候補の子息達か?


 走って勢いをつけて思いっきり殴った。

 武道の試合ではない。強いて言えば、黒澤明の『7人の用心棒』の合戦のシーンか?

 走りながら斬っていたイメージが浮かぶ。


「グハ!」

「ヒィ、な、何で!」


 倒れたところを更に蹴り込む。


「おい、オットー!何をしている!私はゲオハルトだぞ」


「殿下ぁ~、食べ物を粗末にしちゃー、いけないでしょうが!」


 殿下の手首を取り。合気道で言えば四方投げをやった。

 後頭部から落ちた。


「ヒィ、皆、助けろ!」


 馬乗りになって顔を殴って殴りまくった。俺、こんなにこいつが憎かったのか?


「食べろ!殿下、平民は間違っても食べ物を粗末にしませんぜ」

「ヒィ」


 無理矢理口に突っ込んだ。


「ウグ、ゴホ、ゴホ」

 まるで犬のようだ。


「ゆ、許して、母上、父上・・・グスン、グスン」


 最後、泣き出した。

 俺は両手で殿下の頬骨を掴んで持ち上げた。


「私めは弱い者イジメはしません。だから許して差し上げます」


「ヒィ!」


 失禁している。およそ、十秒か。護衛騎士も動けなかった。


「オットー!貴様は不敬罪で死刑だ!」

「あんたも任務未達成で良くて左遷だな」

「な、何を!」


 剣を抜かれた。改めて冷静になりジェーンを見る。

 座り込んでガクガクしている。

 そうだよな。暴力を見たら普通そうなる。


 その後、俺は屋敷で謹慎になった。

 追って沙汰が出るそうだ。

 自室で謹慎、王宮から騎士が監視で来ているが、震えているのか?

 トイレに行くにも三人かがりだ。


 ジェーンは・・・やめたよな。姿が見えない。


 その後、王宮から使者が来た。

 正式に処罰が下る。


 その前に父上からは正式に破門にされ。弟が跡を継ぐことに決定した。


 俺たちは膝つき使者の口上を受ける。




「オットー・ブッカー殿、学園を卒業したら尚書付に任じる。それまで学問、武芸に励むように、王命である。代読宰相府副官ミハイル・スリガー」


「はい、不肖の息子、いかようにも処分をして下さい・・・えっ!」

「何で、僕の間違いじゃないの?成績優秀だよ」


 父上と弟は面食らった。


「あの、殿下に対する暴行は・・・」


「ほお、卿はかしこくも第二王子であらせらるゲオハルト殿下が、一学園生に不覚を取ったと言うのか?子爵家ごときに?」


「え、それは・・・」


「現在、病気につき療養中である」


 どうやら、なかったことになったようだ。

 しかし、尚書とは、陛下、王太子殿下の秘書みたいな部署か?


 その後、父上は破門を取り消そうとしたが、


「今はただのオットーです。朝令暮改は貴族らしくなりせんよ」


 辞退させて頂いた。


 その後は混迷を極めた。

 リリアナが、とんでもないことを言う。


「オットーが冷たかったから、殿下に相談しただけだわ!婚約破棄を取り消します。私はオットーの婚約者です!決闘は、そう、試練ですわ!」


 そのように吹聴し始めた。

 あったな。鉄の結束の組織と畏れられた過激派が女性を党首に添えたら、いざこざが起き始めた。


 夫と痴話げんかをして、組織の長老達に除名を懇願。しかし、除名が通ったら、やりすぎだと言い出して、組織内で内ゲバが起きた。


 実はこんな女性は嫌いではない。外で見る分にはたくましいが・・・



「リリアナ、失せろ。お前なんかと絶対によりを戻さない」

「な、何でもしますわ。そうだわ。閨に行きましょう」

「いらねー!」


 無碍に断った。外で見る分にはいいが内はダメだ。

 信用の問題だ。それに浅はかだ。

 俺が尚書付に抜擢されたのも罰かもしれない。


 ゲオハルト殿下と顔を合せるだろう。針のむしろかもしれない。


 殿下はあれから治療と称して学園に来ない。


 今度は学園で無難に過ごし、尚書に出仕した。


 陛下にお目通りした。


「・・・あれは出来の悪い子だった。分かるよな。二度はないぞ」

「御意」


 二度と暴力で解決するなということだ。


「そう、そう、ゲオハルトは地方に婿に出す。ピトー伯爵家だ。真実の愛を完遂させる」


 リリアナの家門だ。

 ローズマリー様は?解消になったのだろう。


 その後、宰相でもあるヴォルク公爵閣下にも会った。


「後2年で出世せよ。道は作った」

「はい、ただ職務に邁進する所存です」


 何故激励する?


「ローズマリーは、ゲオハルト殿下を御せないからと婚約を解消になった」

「それは・・・ご令嬢の罪ではありません。殿下ご自身の問題です」

「決定的になったのは卿の事件だ。責任を取ってもらう」


 意味深に言われた。


 王宮の独身用の宿舎に戻ると、俺付の従者とメイドが会いに来た。


 ・・メイドはジェーンだ。


「坊ちゃま。私は嬉しく思います。あのときのお礼を言えなくて・・・グスン」


 従者はジェーンの長馴染みのようだ。


「ヴォルク家のご令嬢から推薦を頂きました」


 そうか、


「フフ、ハンス、二人で坊ちゃまのお世話出来るなんて嬉しいわ」

「精一杯仕えさせて頂きます」

「・・・よろしく」


 何だ。ローズマリー様は深淵謀略並の気遣い出来るじゃないか?

 それに・・・これは黄金風景か?


 なら、俺はただの官吏として生きようと決意した。転生してすみませんか?


最後までお読み頂き有難うございました。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ