悪役令嬢と馬鹿王子の愛人の元婚約者の話
天にまします我らが女神様、貴方が全知全能ならば、どうしてこの世には不条理が蔓延しているのですか?
と退屈なので殴られながら吟じてみた。
「オラ!オラ!どうだ!参ったか!」
「ま、参りました・・・」
俺はオットー・ブッカー、拳闘に近いもので殴られた。相手は王族のゲオハルト殿下。
学園では絶対に手をあげてはいけない相手だ。
「これで参ったか?リリアナをいじめた罰だ!」
「殿下、あたしのために・・・嬉しいですわ」
リリアナは俺の婚約者だった。学園で殿下に気に入られて、・・・まあ、取られた。
俺が高圧的な態度をしていた。リリアナはビンタをされたと吹聴された。
か弱き令嬢を助けた殿下、殿下には公爵令嬢の婚約者がいるが、リリアナは愛妾になるのだろう。
リリアナの親も大喜びだ。
実際はそんなことはしない。確かに俺は寡黙で女性が好む会話は出来なかった。
俺のぶっきらぼうな性格が災いして周りは信じたようだ。
「よし、剣をもらうぞ!」
家門の紋章が入っている剣を取られた。
それを学園の掲示板でさらされるのだ。
良い恥さらしだ。
屋敷に戻ると親父にため息をつかれる。
「何故、もっと、上手くやらないのか?貴族らしくない」
「父上、申訳ございません・・」
「まあ、良い。殿下を殴らなかったのだな」
「はい」
「兄上、私だったら上手くやれますよ。そんな状態にもなりません」
俺は子爵家、吹けば飛ぶような家門だ。
しかし、そんな俺を慕う者はいる。
メイドのジェーンだ。茶髪の20歳。
「坊ちゃま、大変、今、治療しますわ!」
「ジェーン、俺に構うと出世できないぞ」
「出来ませんよ。どうせ」
治療をしてくれた。
彼女が家に来たときは13歳だった。二歳上だった。
オロオロしていたので、俺がオモチャの片付けをやらせた。
これは太宰治の黄金風景のオマージュだ。
女中にオモチャの整理とかさせて、太宰はヒドい扱いさせたと後悔していたが。
実際は女中にとって弟と接するようで救いになっていたとか。
これも前世の記憶だ。俺は傭兵だった。
傭兵と聞くと、伝説の~となるが実際は違う。
近年の戦争は急速に変化する。
古い傭兵は最近の戦争が分からないことが多々ある。
だが、人心掌握術は衰えない。
如何に部下の心を掴むかが肝なのだ。
殿下から決闘を挑まれてから、皆は腫れ物に触るように俺に声をかけなくなった。
剣を買いに武器屋による。
「店主、何か良い剣はないか?」
すると店主は決闘で剣を取られた噂を聞いていたのか。それに触れないで無言で剣を差し出してくれた。
「この中から選びな。価格も手頃だ」
「ありがとう。これにする」
「しかし、あんたも難儀だな。ほら、この前、剣の手入れをしたとき分かったぜ。相当な達人だな」
「店主殿、買いかぶりすぎです」
「分かるんだよ。歯のこぼれ具合でな」
「それしかやることはないのですよ」
この世界、スマホもなければ動画もない。非常に退屈だ。
だから、魔法、剣術に没頭した。それだけだ。
前世を考えればなんていうことはない。
それからイジメが始まった。
わざと聞こえるように言う奴。
「あ~、女と剣を取られて貴族かね」
殿下にならって俺に決闘を申し込む奴。
「おい、令嬢に対する暴行、私も見逃すことは出来ない!」
お前、誰だ?
「決闘を辞退します。名誉は貴方の元へ」
「フン!やはり口ほどでもないな」
俺がいつ口で武芸の自慢をした?
独り飯。庭で飯を食べていると、ゴミ箱に俺の剣があった。
「まだ、使えるのにな・・」
殿下に捨てられた。これは俺が入学の時に買ってもらった剣だ。
ゴミ箱から拾い状態を見る。
すると後ろから声をかけられた。
「オットー殿、貴方はそれで良いの?」
「良いのです」
声で分かった。殿下の婚約者、ローズマリー・ヴォルク
気配で5,6人か、ご学友を連れている。
「貴方は、私が殿下を御さないから・・とは言わないの?」
「いいません」
「なら、思わないの?」
「思いません」
「何故?」
「想いは理屈ではないからです」
振り向きもせずに答えた。
想い・・・合理性の局地と言える軍隊でも想いは大事だ。
☆回想
『・・・軍は戦略性が皆無なこの地方を死守しています。何て、不合理なのでしょう。撤退すれば良いのに・・・』
前世、軍事に詳しい専門家なる者がそう解説していた。俺は少数民族側に立って戦っていた。
そうじゃない。この地方は精神的支柱だ。日本で言えば、皇居や伊勢神宮が占領されるようなものだ。
それにどこに撤退をすれば良いのか?
・・・・・・・
「まあ、失礼ですわ」
「ローズマリー様に礼をしないなんて」
「失礼、見せられる顔ではありませんので」
顔はボコボコだ。
知らない学園生にも殴られる。
これで良い。卒業したら地方の官吏にでもなろう。
家は弟に継がせれば良いか。
そんなとき、弁当を忘れた。
「しまったな。学食に行くか・・」
学食には人がいるからな。ジェーンにつくってもらっていた。
学食に向かう途中、庭で喧噪が聞こえる。
「こ、これは坊ちゃまのです!お止め下さい。リリアナ様も・・・坊ちゃまはそんなことをする方ではありません」
「フン、臆病者のランチボックスはこうしてやる!」
バン!と蹴飛ばされている・・・・
殿下とリリアナとその取り巻き男女数名か。
「キャア!食べ物を踏みつけないで下さい!」
「これでいい。これをオットーに食わせろ!」
俺は景色が真っ白になった。自分を慕う者が嬲られたら・・・それだけは譲れない。
自然と動いた。
「おい、オットー、これを食え!」
殿下の隣にいた取り巻き。側近候補の子息達か?
走って勢いをつけて思いっきり殴った。
武道の試合ではない。強いて言えば、黒澤明の『7人の用心棒』の合戦のシーンか?
走りながら斬っていたイメージが浮かぶ。
「グハ!」
「ヒィ、な、何で!」
倒れたところを更に蹴り込む。
「おい、オットー!何をしている!私はゲオハルトだぞ」
「殿下ぁ~、食べ物を粗末にしちゃー、いけないでしょうが!」
殿下の手首を取り。合気道で言えば四方投げをやった。
後頭部から落ちた。
「ヒィ、皆、助けろ!」
馬乗りになって顔を殴って殴りまくった。俺、こんなにこいつが憎かったのか?
「食べろ!殿下、平民は間違っても食べ物を粗末にしませんぜ」
「ヒィ」
無理矢理口に突っ込んだ。
「ウグ、ゴホ、ゴホ」
まるで犬のようだ。
「ゆ、許して、母上、父上・・・グスン、グスン」
最後、泣き出した。
俺は両手で殿下の頬骨を掴んで持ち上げた。
「私めは弱い者イジメはしません。だから許して差し上げます」
「ヒィ!」
失禁している。およそ、十秒か。護衛騎士も動けなかった。
「オットー!貴様は不敬罪で死刑だ!」
「あんたも任務未達成で良くて左遷だな」
「な、何を!」
剣を抜かれた。改めて冷静になりジェーンを見る。
座り込んでガクガクしている。
そうだよな。暴力を見たら普通そうなる。
その後、俺は屋敷で謹慎になった。
追って沙汰が出るそうだ。
自室で謹慎、王宮から騎士が監視で来ているが、震えているのか?
トイレに行くにも三人かがりだ。
ジェーンは・・・やめたよな。姿が見えない。
その後、王宮から使者が来た。
正式に処罰が下る。
その前に父上からは正式に破門にされ。弟が跡を継ぐことに決定した。
俺たちは膝つき使者の口上を受ける。
「オットー・ブッカー殿、学園を卒業したら尚書付に任じる。それまで学問、武芸に励むように、王命である。代読宰相府副官ミハイル・スリガー」
「はい、不肖の息子、いかようにも処分をして下さい・・・えっ!」
「何で、僕の間違いじゃないの?成績優秀だよ」
父上と弟は面食らった。
「あの、殿下に対する暴行は・・・」
「ほお、卿はかしこくも第二王子であらせらるゲオハルト殿下が、一学園生に不覚を取ったと言うのか?子爵家ごときに?」
「え、それは・・・」
「現在、病気につき療養中である」
どうやら、なかったことになったようだ。
しかし、尚書とは、陛下、王太子殿下の秘書みたいな部署か?
その後、父上は破門を取り消そうとしたが、
「今はただのオットーです。朝令暮改は貴族らしくなりせんよ」
辞退させて頂いた。
その後は混迷を極めた。
リリアナが、とんでもないことを言う。
「オットーが冷たかったから、殿下に相談しただけだわ!婚約破棄を取り消します。私はオットーの婚約者です!決闘は、そう、試練ですわ!」
そのように吹聴し始めた。
あったな。鉄の結束の組織と畏れられた過激派が女性を党首に添えたら、いざこざが起き始めた。
夫と痴話げんかをして、組織の長老達に除名を懇願。しかし、除名が通ったら、やりすぎだと言い出して、組織内で内ゲバが起きた。
実はこんな女性は嫌いではない。外で見る分にはたくましいが・・・
「リリアナ、失せろ。お前なんかと絶対によりを戻さない」
「な、何でもしますわ。そうだわ。閨に行きましょう」
「いらねー!」
無碍に断った。外で見る分にはいいが内はダメだ。
信用の問題だ。それに浅はかだ。
俺が尚書付に抜擢されたのも罰かもしれない。
ゲオハルト殿下と顔を合せるだろう。針のむしろかもしれない。
殿下はあれから治療と称して学園に来ない。
今度は学園で無難に過ごし、尚書に出仕した。
陛下にお目通りした。
「・・・あれは出来の悪い子だった。分かるよな。二度はないぞ」
「御意」
二度と暴力で解決するなということだ。
「そう、そう、ゲオハルトは地方に婿に出す。ピトー伯爵家だ。真実の愛を完遂させる」
リリアナの家門だ。
ローズマリー様は?解消になったのだろう。
その後、宰相でもあるヴォルク公爵閣下にも会った。
「後2年で出世せよ。道は作った」
「はい、ただ職務に邁進する所存です」
何故激励する?
「ローズマリーは、ゲオハルト殿下を御せないからと婚約を解消になった」
「それは・・・ご令嬢の罪ではありません。殿下ご自身の問題です」
「決定的になったのは卿の事件だ。責任を取ってもらう」
意味深に言われた。
王宮の独身用の宿舎に戻ると、俺付の従者とメイドが会いに来た。
・・メイドはジェーンだ。
「坊ちゃま。私は嬉しく思います。あのときのお礼を言えなくて・・・グスン」
従者はジェーンの長馴染みのようだ。
「ヴォルク家のご令嬢から推薦を頂きました」
そうか、
「フフ、ハンス、二人で坊ちゃまのお世話出来るなんて嬉しいわ」
「精一杯仕えさせて頂きます」
「・・・よろしく」
何だ。ローズマリー様は深淵謀略並の気遣い出来るじゃないか?
それに・・・これは黄金風景か?
なら、俺はただの官吏として生きようと決意した。転生してすみませんか?
最後までお読み頂き有難うございました。




