”嫉妬”という感情
先ほどのやり取りのあと、夕食の時間になった。
けれど、食卓にはいつものような穏やかな空気は流れていなかった。
私もルークも、無言のまま食べ進める。
いつもなら、私が「今日はどんなことがあったの?」と尋ねて、ルークが柔らかく微笑みながら話してくれる――そんな心安らぐ時間なのに。
なんだか、目の奥が熱くなってきた。
(……ルーク、やっぱり怒ってる)
そう思った瞬間、堪えていた涙が一気にあふれ出した。
ハッと気づいたルークが、椅子を引いて慌てた様子で私のもとへ駆け寄ってくる。
「リ、リシェル!? どうしたんだ!?」
ちらりと見上げたルークの顔は、さっきまでの無表情とは違っていた。
いつものように優しく、そして少しだけ困ったように眉を下げている。
その姿に、胸の奥がふっと緩む。
「だって……ルーク、怒ってるから……。嫌われちゃったのかなって」
私の言葉に、ルークの瞳が大きく揺れた。
次の瞬間、そっと抱きしめられる。
「ごめん、リシェル……悲しい思いをさせるつもりなんてなかったんだ」
その声は少し震えていて、胸の奥まで優しく染み込んでくる。
しばらく沈黙が流れたあと、ルークは視線を逸らしながら小さく呟いた。
「さっきは……情けなくて言えなかったけど……嫉妬したんだ」
「……しっと?」
私が首を傾げると、ルークはさらにしどろもどろになる。
「リシェルが知らない誰かと会って、仲良くなって……そのまま、俺のもとを離れてしまうんじゃないかって……」
「え!? リシェル、どこにも行かないよ!?」
「……ありがとう。そう言ってもらえると嬉しい。でも、そう思ったら胸が苦しくて……どうにかなりそうだった」
「大丈夫だよ! そうだ! ルークもブランに会ってみよう!」
「そ、それは……なんというか……複雑だな……いや、でも牽制できるのか......?」
ぼそぼそと小声で何かを呟くルークの声がよく聞こえない。
「え、今なんて言ったの?」
「いや、なんでもないよ。それより……その、ブランってやつに会わせてくれるのか?」
「うん! えへへ、ブランすごくかわいいんだよ!」
「……女の子なのか?」
「男の子だよ?」
ルークは一瞬、息を止めたように見えた。
「......へぇ」
「ルークも気にいると思うよ! 私も大好きなんだ」
「......そうか」
――そのときの私は、まだ気づいていなかった。
ルークが、致命的な勘違いをしているということに。
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