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感情を知らぬ王女と、彼女を愛しすぎた魔導師  作者: ゆにみ
王女の場合

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6/15

ルークがいないと息ができないよ

 心がぽかぽかして、あったくて。

 知らなかった気持ちに、全身がふわりと包まれる。


 

 (これが……“うれしい”ってことなんだ……!)



 こんな気持ち、誰も教えてくれなかった。

 知らなかったことを知る。それだけで世界って広がるんだね。



 そのとき、目の前のお兄ちゃんが、ゆっくりと口を開いた。



 「......ひとまず、ここは危険です。俺と一緒に行きますか?」



 ここが危険な場所かどうかなんて知らない。でもこの人のそばにいれば、もっと世界が広がっていく気がした。

 私は、迷わず答えていた。



 「そっかぁ、わかった!」



 返事をした瞬間、身体がふわりと宙に浮いた。

 気づけば、お兄ちゃんの腕の中に抱え上げられている。



 (このまま、どこかに連れていってくれるのかな……?)



 お兄ちゃんは、青白く淡い光を放つ大きな円を描き、その中に見たことのない文字を刻み始めた。



 (これ……本で見た魔法陣……?)



 

 そう思った瞬間、視界が揺らいだ。

 身体が何かに引っ張られるような感覚に襲われる。

 飛んでいってしまわないように、必死でお兄ちゃんの身体にしがみついた。



  ――辿り着いたのは、小さな家だった。



 「お兄ちゃんすごいね。これがワープ?」


 「そうですよ」


 「すごーい!えへへ。こんなの初めて!」



 また胸が、ぽかぽかとあたたかくなる。

 もうわかるよ。



 「あ、これが“うれしい”なんだね!」



 お兄ちゃんと一緒にいれば、きっともっといろいろなことがわかる。

 まだ言葉にできないけど、胸の奥に、小さな期待が芽生えていくのを感じた。




 ***



 そうして、私とお兄ちゃんは、この小さな家で暮らし始めた。



 名前はルークっていうんだって。

 一緒に暮らすなら、名前くらい知らないとね?


 

 敬語もやめてもらった。

 私だけくだけた口調なのが、なんだかむずがゆかったから。



 そして今日は、ルークが“たのしい”を教えてくれる日。



 「ねぇ、ルーク!今日は魔法を見せてくれるっていったよね!」


 「ああ、そうだな」




 ルークが手に力を込めると、キラキラ光る蝶が現れた。

 魔法でできた蝶たちは、部屋の中をふわふわと舞い飛ぶ。


 その瞬間、心が踊るように高鳴った。

 自然に笑みがこぼれる。


 


 「うわ〜、きれい!ありがとう、ルーク!」


 「楽しんでもらえたか?」


 「うん!これが“たのしい”なんだね!」



 ルークは、いろんなことを教えてくれる。

 もっとずっと一緒にいられたらいいな。





 ***


 

 ある日の朝。

 目を覚ますと、部屋がやけに静かだった。



 いつも隣で寝ているはずのルークもいない。



 (あれ、先に起きたのかな?)



 そう思ったけれど、胸の奥がぎゅっと縮まる。

 息のしかたが、急にわからなくなる。



 部屋中を探しても、どこにもルークがいない。



 (なんで……なんで……?)



 お仕事に行くときは、いつも教えてくれた。

 何も言わないでいなくなることなんて、一度もなかったのに。



 (もしかして……もう帰ってこない?)




 私、これからひとり……?




 考えただけで、目が熱くなった。

 涙が止まらない。




 「……ぐすっ」




 息が苦しい。呼吸ってどうやるんだっけ……?




 「ルーク……ルーク……! 帰ってきてよ……!!」



 どれくらい泣いていたのかわからない。



 ――ガチャッ。



 ドアの開く音がした。



 (……ルーク!?)




 私は音のする方へ走った。

 ゆっくり開いたドアの向こうに、ルークが立っている。


 勢いよく、彼に抱きついた。



 「ルーク!!どこ行ってたの!!」



 涙で前がよく見えない。

 鼻をぐすぐす鳴らしながら、やっと少しだけ息ができるようになる。



 「あのね、わたし……ルークがいないって気付いて、涙が止まらなかったの……」



 ルークは私をぎゅっと抱きしめる。



 「ごめん、リシェル。でも、それが“さみしい”という感情なんだ」


 「ルークは“さみしい”を教えようとしたの?」


 「うん……ごめん」



 (これが“さみしい”……?)


 苦しくて、息ができなくて、胸が壊れそうなこの気持ちが……?


 わかった。でも、こんなのはもう嫌。



 「もうイヤ!さみしいのイヤ!ずっと一緒にいて!!」



 必死に叫ぶと、ルークは息を呑み、瞳を揺らした。

 抱きしめる腕の力が強くなる。



 「……わかった。もう二度と置いていかない」



 その言葉に、胸の奥の苦しさが少しだけやわらぐ。



 ルークがいないだけで、息ができなくなった。

 本当に死んじゃうかと思った。



 多分、このまま帰ってこなかったら、死んじゃってた。



 ――ルークがいないとダメなんだ。



 抱きついたまま、ルークの胸に顔を押しつける。



 (ずっと、ずっと……一緒にいよう。いなくなっちゃだめだよ……)

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