ルークの様子がおかしい
今日もルークはお仕事で、私はひとりお留守番をしていた。
静かな部屋に時計の音だけが響く。
いつもと変わらないはずの午後。けれど、その時――ドアの方から小さな物音がした。
ルークが帰ってくるには、まだ早い時間のはずだった。
(えっ……だ、誰なの……?)
胸がどくんと鳴る。息を潜めて身構える。
心臓が早鐘を打ち、身体の奥がわずかに震えだす。
その瞬間、ドアが開き、黒い影が音もなくこちらに歩み寄ってきた。
私は反射的に背を向け、逃げ出そうとした。
「た、助けて――!」
次の瞬間、強い腕にぎゅっと抱きしめられた。
抵抗しようとしたけれど、その腕の温もりに覚えがある。
(この匂い……)
胸いっぱいに広がる大好きな匂い。
恐怖が、ゆっくりと溶けていく。
「ルーク……?」
恐る恐る見上げると、彼の表情は影に沈んでよく見えなかった。
でも、返事はない。沈黙の中で、彼の腕だけが強く私を抱きしめる。
「……ルーク?」
問いかける声が小さく震える。
するとルークは、苦しそうに低く呟いた。
「リシェルは……ここにいて、幸せか?」
「もちろん、幸せだよ?」
「……そうか」
その言葉のあと、再び静寂。
私はもう一度顔を上げ、彼の瞳を覗き込んだ。
――どくん。
心臓が大きく跳ねた。
その瞳は、痛いほどに私を必要としている見えた。
ルークに必要とされている。私が。
そう思った瞬間、うれしい――と感じてしまった。
ルークは苦しそうなのに。
(こんなこと、考えちゃいけないのに……)
それでも、ルークに必要とされること、求められることが......私のしあわせのすべてだった。
「ごめん……」
ルークがゆっくりと言葉を継ぐ。
「前にリシェルが“ここから出られなくてもいい”って言ってくれただろう。あれが本心なのか、不安になって……。俺が君を閉じ込めているだけなんじゃないかって」
「リシェルは幸せだよ。だってルークがいるもん。閉じ込められてなんかいないよ。私が、そうしたいの。
でも……ルークが一緒に行こうって言ったら、一緒に行くよ?」
「リシェル……君は本当に……」
再び、抱きしめる腕に力が籠もった。
鼓動が重なる音が、静寂の中でやけに鮮明に響く。
その瞬間、私は確かにしあわせだった。
この時の出来事を、私はのちにこう振り返る――鳥籠の中でも、光を知らなければ、それは楽園。
ルークが望むなら、私はこのままでいいの。
だって、私の世界は最初から、ルークの中にしか存在していないのだから。
――ねえ、ルーク。
あなたも同じように思ってくれているの?
そうだとしたら、これ以上の幸せなんて、ないよ。
外の世界に出るより、ルークの腕の中の方が、ずっとあたたかい。
この日、私は気づいたの。
「ルークがいなきゃ、私だめだよ」って。
そう気がついた時から、きっともう戻れなかったんだ。
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