いつものルークじゃない
今日は、外も晴れていて。
空気が柔らかくて、太陽の光が窓辺を優しく照らしている。
風が花を揺らし、遠くで鳥が鳴いている。
そんな当たり前の音たちが、私にとっては絵本の世界みたいで――少し、胸がきゅうっとする。
……今日は無性に、ブランに会いたかった。
この前、ルークのことで胸がざわついてから、誰かに話を聞いてもらいたくて仕方なかった。
前は急に帰っちゃったから、今日は来てくれるかな。
そう思っていた矢先、窓の外に影が落ちた。
ひょこっと顔を出した白い毛並みと、金色の瞳。
ああ、やっぱり。ブランだ。
今日はなぜか私の顔色を伺うような視線を感じる。
「もう、ブランったら......私は怒ってないよ?」
私が笑いながら窓を開けると、ブランは安心したように喉を鳴らして部屋に入ってきた。
その仕草があまりに自然で、まるで人のようだと思ってしまう。
(本当に表情豊か......猫ってみんなこうなのかな?)
前にも人間みたいだなと感じることはあったけれど、私は他の猫をよく知らない。
もしかしたらみんなこうなのかもね。
「あ、ねぇブラン。今日は私のお話を聞いてくれる?」
問いかけると、ブランは小首を傾げて、床に座り込んだ。
その様子が嬉しくて、私は胸の奥が温かくなる。
「この前ね、ルークから嗅いだことのない匂いがしたの。誰かを抱きしめたんじゃないかって思ったら――自分でも怖くなるようなことを考えちゃって。これを……“しっと”って言うのかな?」
ブランは目をまん丸にして、ただ私を見ていた。
「あはは。ブランには、わからないよね」
それでも、言葉にしてみただけで少し楽になる。
重たく沈んでいた心が、少しずつほどけていく。
「ねぇ、ブラン。私は外の世界を知らないの。ルークが何を見て、何を感じているのかもわからない。同じものを見ていたいと思うのに……、私がそれを望むと、ルークが悲しむような気がしてね」
そこで一度、言葉が途切れる。
「だからね。私は、ルークが嫌がることはしたくないの。私にとってルークがいちばんだから。――それでいいって思ってるの。でも、これが“いい”ことなのか、わからないの」
ブランが足元に擦り寄ってきた。
柔らかい毛並みが肌に触れて、心の底が少しだけ温かくなる。
「ふふ……ありがとう、ブラン。そうだね、自分のしたいように生きるのが一番だもんね。じゃあ私は、今のままでいいや」
「にゃ......?」
「ブラン、あなたって優しいのね」
***
「リシェル、今日はブランが来たんだな」
帰ってきたルークがそう言って、私の方を見た。
「え、なんでわかったの?」
「心配だから結界を強化しておいたんだ。誰かが入ったって反応があった。入れるのはブランだけだからな」
「すごいね、ルーク」
ルークは微笑んで、ゆっくりと窓辺に歩み寄る。
白い毛をひとつ、指先で拾い上げた。
「それに……ほら、証拠もある」
その瞬間――ルークの動きが止まった。
目が見開かれ、息を呑む音がした。
「......は? これは――いや、まさか」
低く呟く声が、震えを伴って部屋にこだまする。
「ルーク? 」
「いや、なんでもないよ。今日は何もなくてよかった」
笑ったはずの唇が、どこか引きつって見えた。
(......なんだろう、いつものルークと違う)
確かに違和感は感じた。
けれど、私は深く追及しなかった。
ルークが笑っているなら、それでいいと思ったから。
「さぁ、夕飯にしようか」
「うん」
言葉にならない違和感を胸に抱えつつ、私はただ返事をした。
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