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感情を知らぬ王女と、彼女を愛しすぎた魔導師  作者: ゆにみ
王女の場合

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14/15

いつものルークじゃない

 今日は、外も晴れていて。

 空気が柔らかくて、太陽の光が窓辺を優しく照らしている。


 風が花を揺らし、遠くで鳥が鳴いている。

 そんな当たり前の音たちが、私にとっては絵本の世界みたいで――少し、胸がきゅうっとする。


 ……今日は無性に、ブランに会いたかった。

 この前、ルークのことで胸がざわついてから、誰かに話を聞いてもらいたくて仕方なかった。

 前は急に帰っちゃったから、今日は来てくれるかな。



 そう思っていた矢先、窓の外に影が落ちた。

 ひょこっと顔を出した白い毛並みと、金色の瞳。

 ああ、やっぱり。ブランだ。


 今日はなぜか私の顔色を伺うような視線を感じる。



 「もう、ブランったら......私は怒ってないよ?」



 私が笑いながら窓を開けると、ブランは安心したように喉を鳴らして部屋に入ってきた。

 その仕草があまりに自然で、まるで人のようだと思ってしまう。



 (本当に表情豊か......猫ってみんなこうなのかな?)



 前にも人間みたいだなと感じることはあったけれど、私は他の猫をよく知らない。

 もしかしたらみんなこうなのかもね。




 「あ、ねぇブラン。今日は私のお話を聞いてくれる?」



 問いかけると、ブランは小首を傾げて、床に座り込んだ。

 その様子が嬉しくて、私は胸の奥が温かくなる。



 「この前ね、ルークから嗅いだことのない匂いがしたの。誰かを抱きしめたんじゃないかって思ったら――自分でも怖くなるようなことを考えちゃって。これを……“しっと”って言うのかな?」



 ブランは目をまん丸にして、ただ私を見ていた。



 「あはは。ブランには、わからないよね」



 それでも、言葉にしてみただけで少し楽になる。

 重たく沈んでいた心が、少しずつほどけていく。


 


 「ねぇ、ブラン。私は外の世界を知らないの。ルークが何を見て、何を感じているのかもわからない。同じものを見ていたいと思うのに……、私がそれを望むと、ルークが悲しむような気がしてね」



 そこで一度、言葉が途切れる。



 「だからね。私は、ルークが嫌がることはしたくないの。私にとってルークがいちばんだから。――それでいいって思ってるの。でも、これが“いい”ことなのか、わからないの」




 ブランが足元に擦り寄ってきた。

 柔らかい毛並みが肌に触れて、心の底が少しだけ温かくなる。




 「ふふ……ありがとう、ブラン。そうだね、自分のしたいように生きるのが一番だもんね。じゃあ私は、今のままでいいや」


 「にゃ......?」


 「ブラン、あなたって優しいのね」






 ***




 「リシェル、今日はブランが来たんだな」


 帰ってきたルークがそう言って、私の方を見た。


 「え、なんでわかったの?」


 「心配だから結界を強化しておいたんだ。誰かが入ったって反応があった。入れるのはブランだけだからな」


 「すごいね、ルーク」




 ルークは微笑んで、ゆっくりと窓辺に歩み寄る。

 白い毛をひとつ、指先で拾い上げた。



 「それに……ほら、証拠もある」



 その瞬間――ルークの動きが止まった。

 目が見開かれ、息を呑む音がした。



 「......は? これは――いや、まさか」



 低く呟く声が、震えを伴って部屋にこだまする。

 


 「ルーク? 」


 「いや、なんでもないよ。今日は何もなくてよかった」



 笑ったはずの唇が、どこか引きつって見えた。



 (......なんだろう、いつものルークと違う)



 確かに違和感は感じた。

 けれど、私は深く追及しなかった。


 ルークが笑っているなら、それでいいと思ったから。



 「さぁ、夕飯にしようか」


 「うん」




 言葉にならない違和感を胸に抱えつつ、私はただ返事をした。

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