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感情を知らぬ王女と、彼女を愛しすぎた魔導師  作者: ゆにみ
王女の場合

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13/15

これ、誰の匂いなの?

 今日もルークはお仕事。

 窓の外はすっかり暮れ、部屋の中に灯りをともす。


 ――もうすぐ、帰ってくる時間だ。


 扉の開く音がして、心が跳ねる。



 「おかえり、ルーク!」


 「ただいま、リシェル」



 嬉しくて、駆け寄って、そのまま抱きついた。

 けれど――その瞬間、身体がぴたりと固まった。



 (……あれ?)



 ルークの服から、いつもと違う匂いがした。

 食べ物でも、香草でもない。

 ほのかに甘く、どこか……人の肌のような、そんな匂い。




 (これ……誰かの匂い?)




 頭の奥がぐらぐらと揺れ、胸の奥に冷たい痛みが刺さる。

 息が詰まって、喉がきゅうっと狭まる。




 (なんで……?)



 

 いつも優しく、私を抱きしめてくれるルーク。

 その腕の中は、安心で、幸せな場所のはずなのに。



 (それを、他の人にも……?)



 そんなの......嫌だ。

 ルークに私以外に抱きしめるような相手がいる。

 そんなことを考えるだけで、その相手を遠ざけたいような、引き離したいような感情が芽生える。

 さらには、不幸になって、いなくなってしまえばいい――なんて。

 そんな恐ろしい考えまで浮かんでしまった。



 そんなこと、考えたくないのに、止められない。



 (……自分が、怖い)



 心がざわめいて、どうしようもなく苦しくて。

 思わず、ルークの服を指先を振るわせながら、ぎゅっと掴んだ。




 「……リシェル? どうした?」




 優しい声が降ってきた瞬間、胸の奥が熱くなった。



 でも、こんなにひどいこと考えているなんてルークが知ったら――。



 (嫌われちゃう……)



 涙がこぼれそうになって、唇が震える。




 「……きらいにならない?」


 「なるものか。俺は、リシェルが大好きだよ」



 あたたかい声。

 それだけで、胸の奥の冷たい針が少しだけ溶けていく。




 「……わたしも、だいすき」



 でも、気になって仕方がなかった。

 胸の奥のもやが、どうしても消えない。



 「……でも、今日のルーク、いつもと違う匂いがする」




 涙がつっと頬を伝う。

 勇気を振り絞って、顔を上げた。




 「……だれ?」



 ルークの目がわずかに見開かれる。

 次の瞬間、苦笑のようなものが浮かんだ。




 「仕事でな、馴れ馴れしいやつがいて……抱きつかれただけだ。すぐに引き剥がした」


 「……ほんとうに?」


 「もちろんだ。リシェルがいちばん……いや、リシェルしかいない」




 その言葉が、胸の奥にすとんと落ちた。

 冷たいものが消えて、代わりにあたたかさが広がっていく。



 (……ああ、私……ルークがいないとダメみたい)



 「……よかった。ルーク、ずっといっしょ」


 「ああ、もちろんだ」




 ルークの腕が、優しく――けれど離れないように強くなる。

 そのぬくもりに包まれると、混乱していた頭の中が、霧が晴れるようにはっきりとしてきた。



 そうか。前にルークが言っていた"しっと"って――。



 大好きな人が、自分から離れて、他の人のところへ行ってしまうかもしれない。

 そんな考えが止まらなくなることのことを、言うのかもしれない。



 あの時のルークの言葉は、意味はわかったけど理解はできていなかった。

 なんでそんなふうに思うのか、わからなかったから。



 でも今なら――わかる。

 大好きな人を、失いたくないという痛みを。



 このとき、私はルークに抱きしめられながら、彼の服を離さないように、強く、強く握りしめていた。


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