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感情を知らぬ王女と、彼女を愛しすぎた魔導師  作者: ゆにみ
王女の場合

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12/15

猫......なんだよね?

 今日は、晴れ。

 雲ひとつない青空が広がっていて、風がやさしくカーテンを揺らしている。



 (ブラン......今日は来るかな?)



 晴れた日に必ず来るわけではない。来ない日もある。

 でもブランのことを知ったルークが、

 「猫なら人間の食べ物より専用のほうがいいだろう」と、ペットフードを用意してくれたのだ。




 (ブラン、喜んでくれるかな?)



 そのとき、窓辺から小さな音が聞こえた。


 「ブラン……?」


 胸が高鳴る。

 窓の外を覗くと、いつもの白い影がそこにいた。



 「今、開けるね!」



 ルークの張った結界は、私とルーク以外は入れない。

 だから今までは、窓辺でしかやり取りできなかった。

 でも――この前ルークが、ブランだけは通れるように調整してくれたのだ。




 「ねぇブラン! 今日からお家で遊べるんだよ!」


 「にゃー?」


 「ふふ、今日もかわいいね」




 ブランを部屋に招き、そっと撫でる。

 白い毛並みがふわふわしていて、あたたかい。

 前足でちょんちょんと私の足をつつき、視線をソファに向ける。



 「……もしかして、座ってほしいの?」

 

 「にゃー」



 ソファに腰を下ろすと、ブランはすぐに膝に乗り、丸まった。

 柔らかな重みと、規則正しい鼓動。穏やかな時間が流れる。



 「あ、そうだ! ルークがブランにいいものを用意してくれたんだよ!」


 

 私はキッチンへ行き、ペットフードを小皿に分けて戻る。



 「ほら、ブラン。ご飯だよ!」


 


 けれどブランは、ぴたりと動きを止めた。

 いつもならすぐに駆け寄ってくるのに――今日は、違う。


 顔をプイッと横に向けて、拒むように尾を揺らした。




 「……いらないの?」


 問いかけると、ブランはほんのわずかに首を縦に振る。


 「そっかぁ……いらないの」



 でも――待って。

 今の反応、まるで言葉を理解しているみたい……?



 (いや、でも、まさかね......?)




 「ブラン......あなたって、人間みたいね」



 そう言った瞬間、ブランの身体が小さく震えた。

 私は思わず息をのむ。



 「ブラン? どうしたの?」


 

 首をかしげると、ブランはふいっと視線を逸らし、窓の方へ向かって歩き出した。

 白い背中が小さく遠ざかる。



 「ねぇ、ブラン?」



 呼びかけると、尾がぴくりと揺れた。

 振り返ったその瞳に、一瞬だけ――寂しさが映った気がした。


 胸の奥が、きゅっと痛む。

 何か言いたそうで、でも言えないような目。



 「……ブラン。今日は、どうしたの?」



 小さくつぶやいた瞬間、ブランは身を翻して、

 窓辺から外へ跳び去っていった。


 開け放たれた窓から風が吹き込む。

 私はその場に立ち尽くしたまま、そっと唇を結ぶ。




 ――ルーク以外に、寂しさを感じたのは、初めてだった。




 ***





 夕食の時間。

 ルークに今日の出来事を話すと、彼は真剣な表情でスプーンを置いた。



 「言葉を理解しているような様子、か……」



 顎に手を当てて考え込むルーク。

 やがて小さくため息をつく。




 「王都では白い猫なんて見かけない。……なぁ、リシェル。ブランに会うのは、危険かもしれない」


 「え!? お友達と会えないのは嫌だよ!」


 


 私が口を尖らせると、ルークは苦笑し――何かを思いついたように立ち上がった。



 「……そうだな。じゃあ、これを」



 戸棚から小さな箱を取り出す。

 ルークの指先が淡く光り、魔法の紋が描かれていく。

 その光が、ゆっくりと私の方へ伸びた。



 「リシェル、手を出してくれるか?」


 「うん?」



 差し出した手を、ルークがそっと包む。

 その温もりに胸がくすぐったくなる。


 彼が指にはめたのは、小さな銀の指輪。




 「ルーク、これは……?」


 「ああ。お守りだ。危険が迫れば俺がすぐわかるし、魔法が君を守ってくれる」


 「……すごいね。ありがとう!」



 ルークからの初めての贈り物。

 魔法の光よりも、彼の手の温もりのほうが心に残った。

 ――胸の奥が、やわらかく温かい。

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